砂鉄川の砂鉄と、お盆山盛りの砂金を溶かし込んであるから、音が良いと有名でなぁ。
そんな平和と幸せの象徴が、人殺しの道具に作り変えられるというのだから、狂った時代になったもんだ。
おら達の心に響き続ける村の誇りを持っていかれるなんて、大変なこった。」
数日後、門崎の家々から金属製品は姿を消しました。
常堅寺の釣鐘もいつしか姿を消し、門崎の人々はきっと供出されたのだろうと噂していました。
伝統と歴史のある釣鐘を失ったことで、村の皆は心の支えを失い、何よりも、がっかりしていました。
それから2年後の暑い夏。
強い光と猛烈な風で、全てを一瞬で溶かしてしまう原子爆弾が、世界で始めて広島に落とされ、日本はアメリカとの戦争に負けました。
日本が負けたことで、アメリカ兵が家に火をつけに来るのではないか、女子供を連れて行かれるのではないか、
食べ物も今より少なくなるかもしれない、などと噂が噂を呼び、門崎の人たちも毎日不安や恐怖を感じ、眠れぬ日々を過ごしました。
そんな中、ケンジも小学6年生になりました。
働き手のいない家族7人、一日一日食べていくので精一杯でした。
そんな大きな不安をかかえながら、ケンジが汗を拭き拭き校庭の芋畑で草取りをしていると、遠くで何かの音がした気がしました。
空耳かと思いましたが、違います。それはゴーンという懐かしい鐘の音でした。
「あれっ、あれは確か、供出で持っていかれたはずの常堅寺の釣鐘の音でねぇか…?」
ケンジが思わず手を止めお寺の方を眺めると、何やら人が集まっているのが見えます。
無性に胸がドキドキして、畑仕事を放り出しお寺に走って行くと、大勢の人たち鐘を囲んでいました。
その中には、ケンジのじいちゃんもいます。