悠歩の管理人室

歩くことは、道具を使わずにできるので好きだ。ゆったりと、迷いながら、心ときめかせ、私の前に広がる道を歩いていきたい

『陽だまりの偽り』

2014-09-13 21:24:47 | 介護?

1年以上前に買ったものだが、忘れていた短編集の文庫を2冊見つけ、読んでみた。
私の母への対応をやんわりと指摘してくれたような一編だった。

元校長で町内会長も務めている主人公は、ひどい物忘れを自覚している。
同居の嫁に「何をしていました」と問われ、書の練習をしていたことを思い出せず、
「盆栽の手入れ」と答える。
不安ながらも、まだ強度の物忘れは気づかれていないと思っている。

毎月の用事である、孫への現金書留郵送を嫁に頼まれ、郵便局に向かった。
途中で紛失に気がついたが、どこで紛失したのか思い出せなかった。
近辺で起こっているひったくりのせいにして、ポーチを盗られたと、交番に届け出た。
対応したのは、再就職した高齢の「交番相談員」。
曖昧な受け答えを続けたので、疑われたような不安があった。

家に帰ってから、途中で立ち小便をしたことを思い出し、その場所に行ってみた。
そこにポーチはあったが、封が切られており、中には白紙の便せんと摸造札5枚。
誰かがポーチに気がつき開けてみたが、現金ではないので置いていったらしい。

立ち小便をしていたとき、隣の家の2階から、痴呆で知られている女性に見られていた。
この女性は、痴呆が進み、家の2階に閉じ込められているそうだ。 

嫁に事情を話し、交番相談員にも謝ろうと歩いていると、ひったくりに遭いケガをした。

入院した病室に、嫁が着替えを持ってきた。ひったくりは高校生で、捕まったと告げる。
ポーチのストラップに手を通していたので、引きずられたが、少年に「呆け」と言われ、
必死で抵抗した。そのため、間もなく少年は近所を歩いていた通行人に捕らえられ、
警察に連れて行かれたとわかった。

嫁の帰り際、中身がお金でなかったことを告げると、「分かってしまいましたか」と言い、
「ごめんなさい」と謝った。1年前から、同じ内容だったと。
嫁はだいぶ前から、義父の症状を分かっていたが、役割を与えることで対応していた。

主人公が医師の問診を受けているとき、「交通相談員」が来て、嫁に伝えていった。
「わたしも年だから、今日の午前中にあったことさえ忘れてしまいました」と。

主人公も、「盆栽の手入れ」はとっさの嘘だった、書の練習だったと告げる。

嫁は、「良かった」、年賀状の宛名書きが頼める…と

オーヘンリーの短編集のような味わいで、心地よい読後感であった。

-長岡弘樹著『陽だまりの偽り』を読んで-