春になるとどこにでも咲くシロツメクサ。ほんのりとピンクに染まるところが可憐だ。もとはヨーロッパからの荷物の詰め草として渡来した。幼い頃にこの花と蓮華で花の冠を作ったものだ。もはや遠い日である。緑化にも役立つ貴重な植物らしい。俳句の世界では多く「苜蓿」と書いて「うまごやし」と読んでいる。「うまごやしハンケチ敷きてやさしき座 山口青邨」。即物的な名前だが、よく知られるクローバーの名も使われる。「スカートをひろくクローバにひろげ座る 山口青邨」。
(2020-04 川崎市 道端)
シロツメクサ(白詰草、学名:Trifolium repens)はシャジクソウ属の多年草。別名、クローバー。原産地はヨーロッパ。花期は春から秋。
特徴
「シャジクソウ属」も参照
茎は地上を這い、葉は3小葉からなる複葉であるが、時に4小葉やそれ以上のものもあり、特に4小葉のものは「四つ葉のクローバー」として珍重される。花は葉の柄よりやや長い花茎の先につく。色は白(ほんの少しピンクのものもある)。雑草防止、土壌浸食防止等に利用されることもある。
由来と歴史
漢字表記は、「白詰草」。詰め草の名称は1846年 (弘化3年)にオランダから献上されたガラス製品の包装に緩衝材として詰められていたことに由来する。
日本においては明治時代以降、家畜の飼料用として導入されたものが野生化した帰化植物。根粒菌の作用により窒素を固定することから、地球を豊かにする植物として緑化資材にも用いられている。
苜蓿の例句
あさ露に苜蓿踏みぬ北見かや 山口誓子
あひびきのほとりを過ぎぬ苜蓿 山口誓子
あひびきのゐる苜蓿を去りゆくも 山口誓子
ある径の或る廃園のうまごやし 渡邊白泉
うしろより目かくしさるるうまごやし 伊丹三樹彦
うまごやしさはにゆれつつ陽は涼し 山口青邨
うまごやしより身を起す自転車も 鷹羽狩行
うまごやしハンケチ敷きてやさしき座 山口青邨
うまごやし兎の卯佐子放ちやる 星野麥丘人 2004年
うまごやし炭坑の娼婦帯を結はず 山口誓子
うまごやし病衣の裾をさばきつゝ 小林康治 玄霜
うまごやし若き咀嚼の中にをり 能村登四郎
うまごやし露頭の石炭をかくすなき 山口誓子
さきんじてはだしとなるやうまごやし 伊丹三樹彦
とつておく夏帽旅の苜蓿に 山口青邨
よき地表空の港のうまごやし 鷹羽狩行
をんな十代あひびきの苜蓿 山口誓子
クローバとタンポポと編む子供かな 山口青邨
クローバと混る車前草田舎の出 香西照雄 対話
クローバに天の梯子の垂るるなし 橋閒石 無刻
クローバに学帽投げて詩才なし 上田五千石『琥珀』補遺
クローバに座りこころよき冷を 山口青邨
クローバに青年ならぬ寝型残す 西東三鬼
クローバの中にも水の溜りをり 波多野爽波 鋪道の花
クローバの弾力土不踏に踏ませ 鷹羽狩行
クローバの花さはにゆれ茶屋の趾 山口青邨
クローバや蜂が羽音を縮め来て 深見けん二
クローバを編み可美真手命に懸けん 山口青邨
クローバーなりし浜草萌えにけり 清崎敏郎
クローバー広場をよぎる明日へと言ふ語 細見綾子
クローバー踏みゆき罎の蝦に臨む 渡邊白泉
スカートの一円を置きうまごやし 鷹羽狩行
スカートをひろくクローバにひろげ座る 山口青邨
ハンカチに滲む臀型うまごやし 上田五千石 田園
マラソンのあとクローバに伏し息す 草間時彦 中年
一悪も二悪もおなじうまごやし 亭午 星野麥丘人
乳充ちて牛苜蓿に身をこする 能村登四郎
乳母車より子を下ろすうまごやし 伊丹三樹彦
六兵衛の陶の灯籠苜蓿に 山口青邨
冬青き苜蓿の上や舟眠る 林翔 和紙
同じ木の根に旅の三人やうまごやし 大野林火 白幡南町 昭和二十九年
坐すところまづ手で押へうまごやし 鷹羽狩行
塵労の身は苜蓿の白き花に 山口青邨
墓のケロイド癒えじクローバ盛り上る 香西照雄 対話
娼婦の手坑夫はなたずうまごやし 山口誓子
子の頬杖父の手枕うまごやし 鷹羽狩行
寝ころんで夢見しむかし苜蓿 森澄雄
平遠をなす宮城の苜蓿 山口誓子
弱電の線たわたわしうまごやし 阿波野青畝
彼の烏クローバの花くはへとぶ 山口青邨
恋なき日々苜蓿咲きはびこりぬ 藤田湘子 途上
新月に花をひそめしうまごやし 飯田蛇笏 春蘭
旭注ぐや蝶に目醒めしうまごやし 杉田久女
春逝くと冷き厚き苜蓿 石田波郷
横たへて沈む身の丈うまごやし 鷹羽狩行
機関庫のあけくれ苜蓿の雨 下村槐太 光背
機関庫の旦暮のうまごやしの雨 下村槐太 天涯
水上機苜蓿しろき崎をゆく 山口誓子
沖は夏雲クローバーに花咲く如く 中村草田男
法隆寺出て苜蓿に苦の鼾 西東三鬼
滑走路苜蓿にゆきつまりゐる 鷹羽狩行
滝寓の冬みどりなすうまごやし 能村登四郎
牧場に苜蓿の花返り咲く(八ヶ岳山麓二句) 細見綾子
男女たることに素直にクローバー 細見綾子
番人と銃のけだるきうまごやし 秋元不死男
盛り上り白き花冷ゆうまごやし 山口青邨
知床の苜蓿暗し腎痛む 斎藤玄 狩眼
神の留守枯芝に青苜蓿 日野草城
空港に白地大幅うまごやし 山口誓子
空港のクローバ溺るるほどの雨 山口青邨
絨毯を踏み苜蓿を踏む草履 福田蓼汀 山火
脚投げて 来し方積る うまごやし 伊丹三樹彦
自転車を乗り入るる苜蓿の中 右城暮石 句集外 昭和二十六年
芝に勝つ緑刈らるるうまごやし 百合山羽公 樂土
苜蓿に寝墓かしげり丘かしげり 山口誓子
苜蓿に寝墓を銘をのこしける 山口誓子
苜蓿に擲ちし艪や反り打てり 木村蕪城 寒泉
苜蓿に日は落ち線路夥し 大野林火 海門 昭和十三年
苜蓿に母の台詞をそらんじゐる 安住敦
苜蓿に肋骨缺除感すべなし 石田波郷
苜蓿に腹這ふ上級生羨し 鷹羽狩行
苜蓿に膝抱いてをりかつてせし 森澄雄
苜蓿に隙なし銅像と吾距つ 上田五千石『田園』補遺
苜蓿に鞭を沈ませ豹使ひ 鷹羽狩行
苜蓿のうす桃色の返り花(八ヶ岳山麓二句) 細見綾子
苜蓿の濃きは砲丸投げのあと 鷹羽狩行
苜蓿の焼跡蔽ふことをせず 石田波郷
苜蓿の花一座敷く芝の中 山口青邨
苜蓿の花旺んなる薄暑かな 日野草城
苜蓿の茎からませてレイとせり 右城暮石 天水
苜蓿の首輪して牧夫かな 清崎敏郎
苜蓿の香や春の雲眼尻に 石塚友二 光塵
苜蓿は丘となりゆく恋の丘 山口誓子
苜蓿は犇きやすし機影過ぐ 上田五千石『田園』補遺
苜蓿や墓のひとびと天に帰せり 山口誓子
苜蓿や天主の婢僕十字のもと 山口誓子
苜蓿や選るといふこと罪に似て 鷹羽狩行
苜蓿を女素足で駆け狂ふ 山口誓子
苜蓿冬あをあをと乳牛臥す 西島麦南 人音
苜蓿檣頭は燈をともすころ 佐藤鬼房
苜蓿起てば忘るる父の恩 鷹羽狩行
茂陵荒れ唐子も見ざり苜蓿も 松崎鉄之介
蜩や憩へとしげるうまごやし 大野林火 雪華 昭和三十七年
蝶去るや葉とじて眠るうまごやし 杉田久女
蝶来虻来騰貴待つ地のうまごやし 伊丹三樹彦
足あとのどこにもつかずうまごやし 鷹羽狩行
蹼が柔かに踏むうまごやし 富安風生
逆立ちに地球の重みうまごやし 鷹羽狩行
鋸に乗られて支ふうまごやし 秋元不死男
鏡掛け人は住まヘり苜蓿 山口青邨
長旅の空より下りてうまごやし 鷹羽狩行
闘牛場ぐるりを囲む苜蓿 山口誓子
離陸後もしばらく戦ぐうまごやし 鷹羽狩行
雨三日日和二日のうまごやし 鈴木真砂女 都鳥
鞄まだ投げ出しはせぬ うまごやし 伊丹三樹彦
風の奥小暗くなりしうまごやし 岸田稚魚 筍流し