化学系エンジニアの独り言

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原油高とインフレ

2006-09-20 | エネルギー
足元の原油価格は$65/バレルを下回り、下げ傾向が続いています。それでも2004年初は30ドル程度でしたので、2倍以上の原油高が続いていることになります。ガソリン価格、電気料金、航空運賃など、原油価格を直接その価格に反映させる仕組みのものは確かに上昇していますが、それ以外の一般物価はそれほど上昇しているという感じがありません。日本ではむしろ漸くデフレを脱却してほんの少しプラスになった程度です。

アメリカでも事情は変わらないようです。エネルギーと食糧を除いたコアインフレ率は過去27ヶ月で2%と、多くのエコノミストが理想的としている1.5%を少し上回る程度です。この間の原油価格の上昇幅に比べると、明らかにまだ原油高は物価・インフレとして現れてはいないようです。

その理由の一つにエネルギー生産効率の向上が上げられます。1980年には$1,000のGDPを稼ぎ出すのに2.5バレルの原油を消費していたそうですが、今は1.5バレルだそうです。別の数値で表現すると、1ドルの買い物をすると11潜とはエネルギーコストであったものが、8.5セントになっているといいます。これは生産効率そのものが向上したこともあるでしょうが、省エネ型の産業(IT産業など)に構造転換していることもあるでしょう。

もう一つの理由は原油価格そのものです。表面上の原油価格は最高値域にありますが、インフレ補正をすると当時約30ドルであった1980年の原油価格は86ドル(2005年ドル)になるそうです。つまり、今よりも1980年当時のほうが原油は高かったということです。確かに、日本でも当時はガソリン価格が150円をはるかに上回っていたと記憶しています。日本の場合為替の関係もあるでしょうが。1リットル200円を超えたら自家用車などは維持していけないな、と感じたことを思い出します。

とは言うものの生産・流通の中間過程における価格吸収も限界に近づきつつあり、原油価格の上昇は蓄積効果を上回って確実に物価に浸透していくことと予想できます。

現実にインフレが消費者価格の上昇として現れた時、経済成長が減速圧力を受け、さらにこれがエネルギー需給のタイト感を緩和して、エネルギー価格が下がるというシナリオもあるかもしれません。その場合、エネルギー価格の下落によるメリットと経済成長減速によるデメリットを比較すると後者のほうがはるかにその影響が大きいように思います。

石油価格下落による代替エネルギーの経済性の悪化や経済減速による代替エネルギー開発への補助金の削減などのトーンダウンは、かつてオイルショック後の日本で経験しています。代替エネルギー開発はしっかりしたポリシーとフィージビリスタディを基本にしなければなりません。