少数派シリーズ/環境・海洋プラ
神宮外苑⑫平尾剛氏◇建替・秩父宮ラグビー場に待った!屋内・人工芝に醍醐味失う
■音楽イベント用大型ビジョン設置のため収容人数は2.5万人から1.5万人へ
神宮外苑の再開発によって、前号は建て替えられる神宮球場は強いビル風・圧迫感・騒音、さらには名物の銀杏(いちょう)並木が枯死する問題を取り上げた。それだけに留まらず、神宮外苑の敷地内では現・神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所が入れ替わる(上図参照)ように、秩父宮ラグビー場も建て替えられる。計画では順次建て替えていくので、10年以上を要し2036年から全面的に機能させる。驚いたことに新・秩父宮ラグビー場は、音楽イベント共用を図り「屋内型」「人工芝」、大型ビジョン設置のために収容人数が従来の25000人から大幅に減って15000人になる。これでは、ラグビー競技の「醍醐味」を失ってしまう。東京五輪招致・開催時に盛んに言われたように、何の反省もなくまたもや“アスリートファースト”が蔑ろにされている。当連載は神宮外苑の“緑の保全”をテーマにしているが、スポーツとりわけ今号は秩父宮ラグビー場とラグビーの有り様(よう)にも触れる。そこでラグビー元日本代表・平尾剛氏の記事があったので、抜粋してお伝えする。
■屋内・人工芝ではラグビーの「醍醐味」を失わせ「本質」を侵食する
『ラグビーの聖地が泣く』~「秩父宮ラグビー場は日本ラグビー界の象徴です。再開発によって、改悪される危機感を持っています。驚いたのは、移転後の収容人数です。衝撃を受けました。現在の25000人が、15000人になる。周囲からも、「それはだめでしょう」「一体、何を考えているの?」との反応が返ってきました。こんな小さな規模で、日本代表の試合はできないでしょう。秩父宮は西の「花園」(投稿者補足/日本初のラグビー専用スタジアム、東大阪市、第1グラウンド約27000人、第2・第3グランドあり)と並ぶ、日本ラグビーの“聖地”です。日本に2つしかない専用スタジアムの1つで、代表の試合ができない聖地とは何なのか。本気でラグビーを発展させる気があるとは思えません。収容人数が減らされる主な理由は、音楽イベントなどで使うことを想定して、観客席に巨大なスクリーンを作るためです。呆れる他ありません。
また屋根を閉め切り(※同補足/いわゆる屋内型)、人工芝のグランドになるのは問題です。大きな違和感があります。日本ラグビーのシンボルなのだから、あくまでもラグビーをメインに考えての計画が基本ではないでしょうか。選手や試合に影響があるのは当然で、ラグビーは天候をどう味方につけるかも醍醐味で、風向きなどで戦略を変えるし、かつての名勝負も雨や雪の天候とともに刻まれているはずです。人工芝は地面に滑り込んだ時に摩擦で火傷をしやすく、夏場は熱がこもるので暑さを感じる。天然芝でやるのがラグビーですし、怪我の危険があるのは否めません。室内競技になってしまうと言うのは、ラグビーの「醍醐味」を失わせ、ラグビーの「本質」を侵食するような問題だと思います。
計画案はコンサート・アイスショーなど多目的に使えるようにすることで、収益性を高めようとしています。金儲け優先で、ラグビーは二の次、三の次。聖地が泣きます。スポーツの健全さを利用して、再開発を進めやすく典型的な「スポーツウォッシング(Sportswashing)」です(※同補足/スポーツウォッシングとは、為政者に都合の悪い政治や社会の歪みをスポーツを利用して覆い隠す行為)。自分自身、もう少し早く知っていたらと思いました。関係者にすら知らせずに進めるこの杜撰な計画を、見て見ぬ振りはできません。今こそスポーツ界は声をあげるべきです。社会的な問題を自分事として捉えなければならない。市民とともに、声を上げようと言いたい。ラグビーのあるべき姿や、移転の善し悪しを考えるきっかけになればと思います。』
■再び投稿者の文章|人気・歴史ある競技なのだから別の場所に大きな「専用競技場」を
2019年、日本主催のワールドカップであれほどの好成績、ファンを熱狂させたのにこのザマ!平尾剛氏が仰ることが身に沁みる。為政者、経済人、競技トップ役員になると、スポーツの本質を忘れ去っていく。新国立競技場も、6万人のコンサート会場の兼用設計のため無駄な予算が使われた(ほとんど使われず)。日本は戦後貧しかったので、公民館・体育館など“多目的”に作る習慣から抜け切れず、陸上競技場、サッカー・ラグビー場、コンサート会場兼用の発想ばかり。結局、“多目的”は“無目的”で中途半端で使いずらいことに。ヨーロッパサッカーのように専用競技場なら、観客席から芝生が近く迫力満点。そもそも再開発目的の東京都を始め建設運営企業(三井不動産・伊藤忠商事など)は、神宮球場然り、秩父宮ラグビー場然り、儲けが目的であり“スポーツ精神”や競技を発展させようとする気はさらさらない。またJOC、日本スポーツ協会、ラグビー協会は、政治に毒されており文句を言わない。ラグビーは人気・歴史がある競技なのだから、別の場所に堂々と大きな「専用競技場」を構築すべき。
次号/神宮外苑⑬外苑・晴海フラッグの開発主導会社の三井不動産に都幹部14人が天下り
前号/神宮外苑⑪建替・神宮球場は強いビル風でプレーに多大な影響、銀杏並木が枯死
神宮外苑⑫平尾剛氏◇建替・秩父宮ラグビー場に待った!屋内・人工芝に醍醐味失う
■音楽イベント用大型ビジョン設置のため収容人数は2.5万人から1.5万人へ
神宮外苑の再開発によって、前号は建て替えられる神宮球場は強いビル風・圧迫感・騒音、さらには名物の銀杏(いちょう)並木が枯死する問題を取り上げた。それだけに留まらず、神宮外苑の敷地内では現・神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所が入れ替わる(上図参照)ように、秩父宮ラグビー場も建て替えられる。計画では順次建て替えていくので、10年以上を要し2036年から全面的に機能させる。驚いたことに新・秩父宮ラグビー場は、音楽イベント共用を図り「屋内型」「人工芝」、大型ビジョン設置のために収容人数が従来の25000人から大幅に減って15000人になる。これでは、ラグビー競技の「醍醐味」を失ってしまう。東京五輪招致・開催時に盛んに言われたように、何の反省もなくまたもや“アスリートファースト”が蔑ろにされている。当連載は神宮外苑の“緑の保全”をテーマにしているが、スポーツとりわけ今号は秩父宮ラグビー場とラグビーの有り様(よう)にも触れる。そこでラグビー元日本代表・平尾剛氏の記事があったので、抜粋してお伝えする。
■屋内・人工芝ではラグビーの「醍醐味」を失わせ「本質」を侵食する
『ラグビーの聖地が泣く』~「秩父宮ラグビー場は日本ラグビー界の象徴です。再開発によって、改悪される危機感を持っています。驚いたのは、移転後の収容人数です。衝撃を受けました。現在の25000人が、15000人になる。周囲からも、「それはだめでしょう」「一体、何を考えているの?」との反応が返ってきました。こんな小さな規模で、日本代表の試合はできないでしょう。秩父宮は西の「花園」(投稿者補足/日本初のラグビー専用スタジアム、東大阪市、第1グラウンド約27000人、第2・第3グランドあり)と並ぶ、日本ラグビーの“聖地”です。日本に2つしかない専用スタジアムの1つで、代表の試合ができない聖地とは何なのか。本気でラグビーを発展させる気があるとは思えません。収容人数が減らされる主な理由は、音楽イベントなどで使うことを想定して、観客席に巨大なスクリーンを作るためです。呆れる他ありません。
また屋根を閉め切り(※同補足/いわゆる屋内型)、人工芝のグランドになるのは問題です。大きな違和感があります。日本ラグビーのシンボルなのだから、あくまでもラグビーをメインに考えての計画が基本ではないでしょうか。選手や試合に影響があるのは当然で、ラグビーは天候をどう味方につけるかも醍醐味で、風向きなどで戦略を変えるし、かつての名勝負も雨や雪の天候とともに刻まれているはずです。人工芝は地面に滑り込んだ時に摩擦で火傷をしやすく、夏場は熱がこもるので暑さを感じる。天然芝でやるのがラグビーですし、怪我の危険があるのは否めません。室内競技になってしまうと言うのは、ラグビーの「醍醐味」を失わせ、ラグビーの「本質」を侵食するような問題だと思います。
計画案はコンサート・アイスショーなど多目的に使えるようにすることで、収益性を高めようとしています。金儲け優先で、ラグビーは二の次、三の次。聖地が泣きます。スポーツの健全さを利用して、再開発を進めやすく典型的な「スポーツウォッシング(Sportswashing)」です(※同補足/スポーツウォッシングとは、為政者に都合の悪い政治や社会の歪みをスポーツを利用して覆い隠す行為)。自分自身、もう少し早く知っていたらと思いました。関係者にすら知らせずに進めるこの杜撰な計画を、見て見ぬ振りはできません。今こそスポーツ界は声をあげるべきです。社会的な問題を自分事として捉えなければならない。市民とともに、声を上げようと言いたい。ラグビーのあるべき姿や、移転の善し悪しを考えるきっかけになればと思います。』
■再び投稿者の文章|人気・歴史ある競技なのだから別の場所に大きな「専用競技場」を
2019年、日本主催のワールドカップであれほどの好成績、ファンを熱狂させたのにこのザマ!平尾剛氏が仰ることが身に沁みる。為政者、経済人、競技トップ役員になると、スポーツの本質を忘れ去っていく。新国立競技場も、6万人のコンサート会場の兼用設計のため無駄な予算が使われた(ほとんど使われず)。日本は戦後貧しかったので、公民館・体育館など“多目的”に作る習慣から抜け切れず、陸上競技場、サッカー・ラグビー場、コンサート会場兼用の発想ばかり。結局、“多目的”は“無目的”で中途半端で使いずらいことに。ヨーロッパサッカーのように専用競技場なら、観客席から芝生が近く迫力満点。そもそも再開発目的の東京都を始め建設運営企業(三井不動産・伊藤忠商事など)は、神宮球場然り、秩父宮ラグビー場然り、儲けが目的であり“スポーツ精神”や競技を発展させようとする気はさらさらない。またJOC、日本スポーツ協会、ラグビー協会は、政治に毒されており文句を言わない。ラグビーは人気・歴史がある競技なのだから、別の場所に堂々と大きな「専用競技場」を構築すべき。
次号/神宮外苑⑬外苑・晴海フラッグの開発主導会社の三井不動産に都幹部14人が天下り
前号/神宮外苑⑪建替・神宮球場は強いビル風でプレーに多大な影響、銀杏並木が枯死