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ワクチン接種はなぜ「筋肉注射」なのか?Q&A・2[免疫細胞が豊富]◇紙谷聡医師
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図2:筋肉注射や皮下注射での免疫細胞の分布
■筋肉注射をする際に注意しなければならない方は?(報告文に明記)
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▽参考(前号)ワクチン接種はなぜ「筋肉注射」なのか?Q&A・1[安全・痛みが少ない]◇紙谷聡医師
↑ クリック
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↓
■紙谷聡医師の報告2・「筋肉は免疫細胞も多くワクチンの成分を見つけやすい」
(上記タイトル付は投稿者による)
「紙谷聡氏(小児感染症科医師・ワクチン研究者)報告内容(下)」
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さて、今回導入されたファイザー・ビオンテック社製やモデルナ社製のmRNA(メッセンジャーmRNA)ワクチンは特に、この筋肉注射での接種が極めて重要となります。これは、筋肉の中は血流が豊富で免疫細胞も多く分布するため、筋肉に注射されたワクチンの成分を免疫細胞が見つけやすく、その分ワクチンによる免疫の活性化が起きやすくなると考えられているからです(図2)。一方で、皮下の脂肪組織の部位は、血流は多くなく免疫細胞の分布も少ないため、ワクチンの成分が免疫細胞に発見されづらくなります。さらに、脂肪組織の部位は吸収が遅いためワクチンの成分をその場に留めて停滞させてしまいやすく、ただでさえ壊れやすいmRNAワクチンは、免疫細胞を活性化するという仕事を全うすることなく分解されてしまうリスクがあります。
また、mRNAワクチンは効果が抜群な分、局所の反応も起きやすいため、なおのこと局所の反応を抑えやすい筋肉注射をすることが重要になります。せっかく決心して予防注射をしたのに効果が減ってしまっては元も子もありません。よって、きちんと定められた方法、すなわち筋肉注射でmRNAワクチンを接種することが大切なのです。
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主に病気やお薬の影響で出血をしやすい方です。すなわち、ワーファリンなどの血をさらさらにするお薬を飲んでいらっしゃる方や、もともと血が止まりにくい病気をお持ちの方は、新型コロナワクチンの筋肉注射をする前に必ず医師や看護師に伝えて、通常より細めの針を使用したり、接種後に少なくとも2分ほど接種部位を圧迫するなどの処置が血種の予防として重要となります。新型コロナウイルスワクチンの予診票にも、血が止まりにくい病気があるかどうかなどの質問項目があるので安心ですね。他に、進行性骨化性線維異形成症を持つ児に筋肉注射は打てません。
投稿者補足/下記に「予診票」(本物)の書式を添付したので参照のこと。
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ちなみに、これは医療者向けの知識ですが、ワクチン接種をする三角筋などの筋肉注射では通常大きな血管はないため、海外では逆血確認のシリンジを引く必要はないとされています(※あくまで予防接種についてのみ)。予防接種において、筋肉注射でも皮下注射でもシリンジを引くと「痛い」ので不利益の方が多く、有名なプロトキン先生のワクチンの教科書にも、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種ガイドラインにも逆血確認は必要ないとしています。「私はワクチン接種で逆血確認が必要と習いました!」といわれる方もいるでしょうし、かく言う私も10年以上前にそのように習った記憶があります。ですが、時代とともに医学は日々進歩しており、どんどん新しい知識や知見を学んでいく必要があるのが医学の常だなぁと思っています。
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こうした知見から、世界の多くの国々では、生ワクチン以外のワクチンはこの筋肉注射での予防接種が広く一般的に行われています。痛みも少なめですし、ワクチンによっては効果もより高いのであれば、それを選ばない理由が見つかりません。 <投稿者による一部省略> 以上、今回は筋肉注射は垂直に注射するから「見た目は痛そう」ですが、実際は皮下注射と比べると痛みなども少なく利点が多いことを解説しました(※ただし、痛みの感じ方は個人差が大きいので、これはあくまで多くの研究や海外での経験からわかっている一般的な知識として捉えてください)。注射の打ち方一つとっても、ワクチン学はとても奥が深い分野ですね。
【プロフィール】 紙谷聡氏 小児感染症科医師、ワクチン研究者 (前出)
日本・米国小児科専門医。富山大学医学部卒。立川相互病院、国立成育医療研究センターなどを経て渡米。現在、エモリー大学小児感染症科に所属し小児感染症診療に携わる傍ら、米国立アレルギー感染症研究所が主導するワクチン治療評価部門共同研究者として新型コロナウイルスワクチンなどの臨床試験や安全性評価に従事。さらに米国疾病予防管理センター(CDC)と連携して認可後のワクチンの安全性評価も行っている。※記事は個人としての発信であり組織を代表するものではありません。
投稿者補足/
①報告本文は注意書き部分を除き、原文・題名・画像・太字表記はそのままの形で複製しております。
②原文そのものがQ&A形式になっており、「項目番号」や「Q」のマーク等は投稿者の演出操作によるものです。
■追記・毎日新聞記事|政府配布ワクチン注射器に苦情、目盛り不明瞭・押しづらい
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毎日新聞6.20付記事(概要)/政府が全国の自治体に配布しているワクチン接種用の注射器を巡り、医療関係者や自治体から苦情や不安の声が相次いでいる。問題となっているのは、「シリンジ」と呼ばれる筒状の部分の容量が2ミリリットルのタイプ(写真・上)で、「使いづらい」「医療事故の不安がある」などの指摘があるという。厚生労働省もこうした声を把握しているが、「(接種に向いた注射器の)供給にめどが立つまで使ってもらうしかない」としている。「医療機関には『不具合があるかもしれません』と説明して渡している」。
接種にはシリンジの容量が1ミリリットルの細長いタイプ(写真・下/投稿者追記・写真は少々不鮮明)が向いているが、政府から配布された注射器は2ミリリットルの太く短いタイプだった。政府から配分されたワクチンは米ファイザー社製で、1回分は0.3ミリリットル。1ミリリットルタイプの注射器は目盛りが0.01ミリリットル刻みで、0.1ミリリットルごとに数字の表記もあるので分かりやすく、微調整もしやすい。しかし、政府から届いた2ミリリットルタイプの目盛りは0.1ミリリットル刻みで、0.3ミリリットルとはっきり分かる数字の表示はない。
使い勝手の面でも不安がある。「(注射液を押し出す)『押し子』の部分が硬く、針とシリンジの間からワクチンが漏れることもあり、使う側はストレスを感じる」。同様の苦情は他でも出ている。「『押し子が硬い』『使いにくい』といった声が出ている」。政府は5月、接種加速のため、ワクチン1瓶当たりの接種回数を5回から6回に増やした。そのため注射器の必要量が増え、1ミリリットルタイプが足りなくなり、2ミリリットルタイプを配布することになったという。
投稿者/ここでも政府・厚労省の計画性のなさが出ている。
<参考資料>(前出)
投稿者自宅(江東区)に届いた「ワクチン接種券」と関連資料のうち、「新型コロナワクチン予防接種についての説明書」(左/おもて、右/裏)と、本物のコピー「新型コロナワクチン接種の予診票」を添付します。クリックすると、画像が拡大します。若い方にも順次届きますが、関心のある方は“心の準備”として事前にご覧頂ければと存じます。
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次号/134・都民の感染者用ホテルが密かに五輪選手感染者用に変えられていた!”バブル崩壊”
前号/132・ワクチン接種はなぜ「筋肉注射」なのか?Q&A・1[安全・痛みが少ない]◇紙谷聡医師
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