タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ
JBpress 5/2(火) 6:15配信
タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ
中国・上海の街並み。日本の学生はなぜ中国への関心をなくしているのか
先日、亜細亜大学の範雲涛氏(アジア・国際経営戦略研究科教授)から「日本の大学生の中国への関心がどんどん低下している」という話を伺った。範教授は、日中青年大学生交流事業「鑑真プロジェクト」の実行委員長を務めているのだが、目下、中国に連れて行く日本人学生の募集に腐心しているのだという。
このプロジェクトは、唐代の伝戒師、鑑真和上の足跡をたどりながら日中両国の学生が交流するというユニークな試みだ。
奈良時代に日本の僧である普照と栄叡が11年かけて鑑真和上を日本に招請した物語は、中学の歴史教科書にも記載されている。2008年、この有名な史実に着想を得て日中の学生による民間交流が動き出した。
第1回以降は、日中間の政治的冷え込みにより休眠状態に入ってしまっていたが、2016年にプロジェクトが息を吹き返す。両国の政治的関係は決して良好とは言えないが、中国からの留学生や訪日観光客の増加を見るように一時期の険悪なムードは薄れつつある。中国側も受け入れ体制づくりに積極的に関わるようになってきた。
2016年10月の第2回ツアーを実施するために、旗振り役の範教授は東奔西走した。プログラムを組んだり、協賛金を集めたり、中国側との折衝を行ったりと、仕事は骨の折れることばかりだった。中でも特に苦労したのが“学生集め”だったという。
応募の条件は「中国に興味があることと、1000字程度の小論文の提出」というもので、決して高いハードルではなかった。しかし、なかなか学生が集まらない。最終的に全国から18人の大学生が参加することになったが、そもそも「日本人学生の中国への関心がものすごく低い」ことに範教授はショックを受けた。
一方、中国側の日本への関心は高い。今年3月、中国の大学生を日本に招待して日本の大学生と交流させる企画では、募集段階で65名の申し込みがあり、そのうち43人が来日した。中国側の学生は日本を訪れることにきわめて意欲的だ。
■ 中国となると“話は別”
範教授は、亜細亜大でのゼミの中で学生たちに「なぜ中国に関心を向けないのか」と問いかけてみた。すると、出てくるキーワードは、やはり「領土問題」「海洋進出」「反日」などだった。ある女子学生は、トイレなど衛生面の不安を挙げた。
「鑑真プロジェクト」では、現地の交通費・宿泊費・食費など滞在に関わる費用は事務局が負担する。しかし、中には「招待されも中国には行きたくない」とまで言い切る学生もいた。
近年、日本の若者が海外に行かなくなったと言われている。だが、本当にそうなのだろうか。2016年の日本人のパスポート取得数(外務省)を調べてみると、その数は2年連続で増加しており、「20~29 才」のパスポート発行数は78万3047冊、年代別比率は20.9%で「19才以下」の22.1%に次ぐ高い割合だ。
都内の大学に通う女子大生の太田稀さん(仮名)は、「若者が内に籠っているとは決して思いません。マレーシアやタイでの研修などに積極的に参加する学生は多く、留学志願者も少なくありません」と話す。
しかし、中国となると“話は別”なのだと言う。「私は第二外国語に中国語を選択していますが、同期の学生が中国に旅行や留学に行ったという話はほとんど耳にしません」(同)
その理由について尋ねると、「おそらく中国という国に魅力を感じたり、憧れたり尊敬したりする人がいないんじゃないでしょうか。大金を投じてまで行く価値があるとは、周りの友人たちは思っていないのだと思います」という回答だった。
学生が集まらないのは「鑑真プロジェクト」だけではない。日本国内で募集される訪中型の交流イベントはどこもほぼ同じ状況だ。「学生に呼びかけても反応は悪く、数が集められない」(首都圏の日中友好協会支部)という。
■ 日中間で進む「情報格差」
旅行業界も頭を悩ませている。日本にはLCC(格安航空会社)を含めて数多くの日中航路が乗り入れているが、その利用者は圧倒的に中国からの観光客だ。日本から中国に行く日本人旅行客はなかなか集まらない。2000年代に旅行業界で中国への観光旅行が“ドル箱”と言われたことは、今では遠い昔話となってしまっている。
愛媛県のある自治体職員は、松山~上海のLCC航路について次のように語っている。
「松山に来る便は中国人客で満席だとしても、復路は別の空港から帰国してしまうケースが多々あり、搭乗率はなかなか高まらないのが実情です」
愛媛県ではそのような事態を打開するために県内の学生に注目した。LCCを使った格安の上海ツアーを企画し、学生に利用してもらおうとしたのだ。だが、事前アンケートから浮き彫りになったのは「学生たちの中国に対する無関心さ」(同)だった。結局、松山発のLCCツアーは、上海が目的地とはならず経由地となり、目的地は東南アジアや台湾になった。ツアーは「抽選でご招待」という形で無償化された。
旅行、学生同士の交流、姉妹都市交流など、日中の民間同士が交流する機会は数多くある。だが、ここに来て「双方向の交流になっていない」という問題が生まれつつある。このまま行くと、「実際に日本を訪れて日本の理解が進む中国人」と「中国についてウェブ上の情報しか持たない日本人」との間で、情報格差が広まるばかりだ。このアンバランスな状態は決して座視できるものではない。
JBpress 5/2(火) 6:15配信
タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ
中国・上海の街並み。日本の学生はなぜ中国への関心をなくしているのか
先日、亜細亜大学の範雲涛氏(アジア・国際経営戦略研究科教授)から「日本の大学生の中国への関心がどんどん低下している」という話を伺った。範教授は、日中青年大学生交流事業「鑑真プロジェクト」の実行委員長を務めているのだが、目下、中国に連れて行く日本人学生の募集に腐心しているのだという。
このプロジェクトは、唐代の伝戒師、鑑真和上の足跡をたどりながら日中両国の学生が交流するというユニークな試みだ。
奈良時代に日本の僧である普照と栄叡が11年かけて鑑真和上を日本に招請した物語は、中学の歴史教科書にも記載されている。2008年、この有名な史実に着想を得て日中の学生による民間交流が動き出した。
第1回以降は、日中間の政治的冷え込みにより休眠状態に入ってしまっていたが、2016年にプロジェクトが息を吹き返す。両国の政治的関係は決して良好とは言えないが、中国からの留学生や訪日観光客の増加を見るように一時期の険悪なムードは薄れつつある。中国側も受け入れ体制づくりに積極的に関わるようになってきた。
2016年10月の第2回ツアーを実施するために、旗振り役の範教授は東奔西走した。プログラムを組んだり、協賛金を集めたり、中国側との折衝を行ったりと、仕事は骨の折れることばかりだった。中でも特に苦労したのが“学生集め”だったという。
応募の条件は「中国に興味があることと、1000字程度の小論文の提出」というもので、決して高いハードルではなかった。しかし、なかなか学生が集まらない。最終的に全国から18人の大学生が参加することになったが、そもそも「日本人学生の中国への関心がものすごく低い」ことに範教授はショックを受けた。
一方、中国側の日本への関心は高い。今年3月、中国の大学生を日本に招待して日本の大学生と交流させる企画では、募集段階で65名の申し込みがあり、そのうち43人が来日した。中国側の学生は日本を訪れることにきわめて意欲的だ。
■ 中国となると“話は別”
範教授は、亜細亜大でのゼミの中で学生たちに「なぜ中国に関心を向けないのか」と問いかけてみた。すると、出てくるキーワードは、やはり「領土問題」「海洋進出」「反日」などだった。ある女子学生は、トイレなど衛生面の不安を挙げた。
「鑑真プロジェクト」では、現地の交通費・宿泊費・食費など滞在に関わる費用は事務局が負担する。しかし、中には「招待されも中国には行きたくない」とまで言い切る学生もいた。
近年、日本の若者が海外に行かなくなったと言われている。だが、本当にそうなのだろうか。2016年の日本人のパスポート取得数(外務省)を調べてみると、その数は2年連続で増加しており、「20~29 才」のパスポート発行数は78万3047冊、年代別比率は20.9%で「19才以下」の22.1%に次ぐ高い割合だ。
都内の大学に通う女子大生の太田稀さん(仮名)は、「若者が内に籠っているとは決して思いません。マレーシアやタイでの研修などに積極的に参加する学生は多く、留学志願者も少なくありません」と話す。
しかし、中国となると“話は別”なのだと言う。「私は第二外国語に中国語を選択していますが、同期の学生が中国に旅行や留学に行ったという話はほとんど耳にしません」(同)
その理由について尋ねると、「おそらく中国という国に魅力を感じたり、憧れたり尊敬したりする人がいないんじゃないでしょうか。大金を投じてまで行く価値があるとは、周りの友人たちは思っていないのだと思います」という回答だった。
学生が集まらないのは「鑑真プロジェクト」だけではない。日本国内で募集される訪中型の交流イベントはどこもほぼ同じ状況だ。「学生に呼びかけても反応は悪く、数が集められない」(首都圏の日中友好協会支部)という。
■ 日中間で進む「情報格差」
旅行業界も頭を悩ませている。日本にはLCC(格安航空会社)を含めて数多くの日中航路が乗り入れているが、その利用者は圧倒的に中国からの観光客だ。日本から中国に行く日本人旅行客はなかなか集まらない。2000年代に旅行業界で中国への観光旅行が“ドル箱”と言われたことは、今では遠い昔話となってしまっている。
愛媛県のある自治体職員は、松山~上海のLCC航路について次のように語っている。
「松山に来る便は中国人客で満席だとしても、復路は別の空港から帰国してしまうケースが多々あり、搭乗率はなかなか高まらないのが実情です」
愛媛県ではそのような事態を打開するために県内の学生に注目した。LCCを使った格安の上海ツアーを企画し、学生に利用してもらおうとしたのだ。だが、事前アンケートから浮き彫りになったのは「学生たちの中国に対する無関心さ」(同)だった。結局、松山発のLCCツアーは、上海が目的地とはならず経由地となり、目的地は東南アジアや台湾になった。ツアーは「抽選でご招待」という形で無償化された。
旅行、学生同士の交流、姉妹都市交流など、日中の民間同士が交流する機会は数多くある。だが、ここに来て「双方向の交流になっていない」という問題が生まれつつある。このまま行くと、「実際に日本を訪れて日本の理解が進む中国人」と「中国についてウェブ上の情報しか持たない日本人」との間で、情報格差が広まるばかりだ。このアンバランスな状態は決して座視できるものではない。