言うまでもなく私が知る範囲に限っての話だが、『明治維新という過ち』等の原田伊織氏の著作を幕末維新期専門の学者・研究者が本格的に論評するのを見たことが無い。無視されているという印象だ。この私の印象が正しいと仮定するなら、其れは原田氏がまともな議論が成立する相手と見做されていないからだろう。言っていることが正しくて反論できないから、ではない。
所謂「ニセ科学」と言われるモノに対して、該当する分野の真当な学者・研究者が本格的な批判をすることは意外に少ない。
まともな学者・研究者が正面から批判をして、議論、というより単なる〝言い合い〟に発展すると、其れ自体が「ニセ科学」の宣伝となってしまう。一般的に「ニセ科学」を主張するような人物は論破されても絶対に自説の誤りを認めたりしないものだし、不毛な言い合いに疲れて果てて其れを止めてしまうと「〇〇は私の主張に対し沈黙した。私の説を認めたのだ」などと言い出したりする。そんな面倒なことに自ら首を突っ込む勇気と気力の有る学者・研究者はごく少数派だ。自分に都合の良い事実だけを拾い上げて創った物語を強硬に主張する、幅広い客観的事実や其れらから導き出される合理的判断に基づいた話が出来ないと思われる相手に、まともな学者・研究者たちの殆どは議論をふっかけたりしない。彼らが沈黙しているのは「ニセ科学」の内容が正しくて反論出来ないから、ではない。(困ったことに、「ニセ科学」側の人間は其のように捉え、〝見ろ。我々の言ってることが正しいからエライ学者たちは批判しないのだ〟と考える。)
『明治維新という過ち』等の原田伊織氏の著作が「ベストセラー」となり其れなりに話題となったにも関わらず、幕末維新期を専門とする学者・研究者が本格的に論評するのを、私は、見聞きしたことが無い。当然「全く無い」と断言は出来ないが、其の反響と比較すると非常に少ないとは言っていいだろう。似たような理由なのではないか、というのが私の想像である。