カフェやライブ会場が狙われ、多くの市民が犠牲となったパリの同時多発テロ。サミットや五輪・パラリンピックを控える日本にも、テロ対策の難しさと大切さを突きつけた。現場では、対策の検討や準備が本格化している。
■伊勢志摩サミット控え緊張
来年5月に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開かれる三重県。16日午後、県庁では各部局の危機管理責任者による緊急の会議が招集された。
渡辺信一郎・県危機管理統括監は「今回のパリでのテロはCOP21(国連気候変動会議)を控えた厳戒警備の中で起き、一般市民が使う場所が狙われた。テロは対岸の火事ではないと認識してほしい」と話した。
鈴木英敬知事は同日の記者会見で「(テロ実行犯の)計画性、連携能力、実行力が向上しているという事実を突きつけられた」と分析。前日の15日に県警の森元良幸本部長と協議し、国に対して、情報収集能力の向上▽テロ防止のための取り組みの強化▽関連予算の増額――などを求めることを確認したという。
各国からのサミットへの出席者は、中部空港(愛知県常滑市)や名古屋駅(名古屋市)を経由して訪れることが想定されている。愛知県の大村秀章知事も16日の記者会見で「万全を期したい」と強調した。そのうえで、警備関連予算について「(県も)出し惜しみは考えていないが、サミットは政府主催なので負担をしっかり求めていきたい」と述べた。
■東京五輪、警備は5万人態勢
2020年に迫った東京五輪・パラリンピックにとって、テロの未然防止は大きな課題だ。
大会組織委員会は、全国から招集する警察官に加え、民間の警備員らも動員し、五輪としては最大規模の5万人態勢で警備にあたる計画だ。開幕直前にテロ予告があった14年ソチ冬季大会では、4万人の警官らを動員。観客に顔写真入りの「観戦者パス」の取得を義務づけた。
政府の五輪・パラ推進本部事務局のセキュリティー担当者は「テロ対策はその時々の情勢分析が重要だ。今の時点では、それぞれの機関が今できる対策を考え、全体的なセキュリティーへの意識を向上させていくことが大事だ」と言う。
開催都市の東京都は7月から、公共施設や交通機関の警備態勢など、課題の洗い出しを始めた。担当者は「万が一のときに、どう観客や選手を避難誘導するのか、パニックを防ぐにはどうするのがいいのかを検討していく」。担当各局が現状を分析している最中だ。
19年には都内でラグビー・ワールドカップ(W杯)もある。都は遅くとも18年度中には五輪・パラリンピックの対処マニュアルを策定し、W杯でも活用したいと考えている。
■ソフトターゲット「絶対的な安全確保は困難」
ふだんから多くの人が集まるイベント会場や施設は「ソフトターゲット」と呼ばれ、テロリストにとっては狙いやすいと言われる。警備に何が必要なのか。
19日から野球の国際大会「プレミア12」の試合会場になる東京ドーム(東京都文京区)は、通常の手荷物検査に加え、金属探知機を使った警戒や観客へのボディーチェックの検討を始めた。警備員の巡回頻度も増やす予定という。広報担当者は「絶対的な安全確保までは難しく、警察や主催者と協議して対応を検討したい」と語る。
警察庁は都道府県警に対して、大規模集客施設の管理者と連携し、職員や警備員が警戒を強め、不審者を発見したらすぐに通報してもらうよう指示した。
ソフトターゲットは政府関連施設や原子力発電所、外国の大使館などの「ハードターゲット」と違い、数が多い分、全ての施設に警察官を配置するのは無理だからだ。警察庁幹部は「他国と地続きで、銃器を近隣国で入手しやすいフランスとは条件が違うが、今回の事件でソフトターゲット対策の必要性が改めて明らかになった」と話した。
■テロへの備え、社会全体で
《テロ対策に詳しい日本大学の河本志朗教授》 パリでテロが起きたからといって、直ちに日本で同様のテロが起きる可能性が高いとは言えない。しかし、サミットや五輪といった世界が注目するイベントを控え、テロへの備えをどうするか社会全体で考えないといけないテーマだ。レストランやショッピングモールなど多くの人が集まる日常生活の場を標的にするテロを防ぐには、警察だけでは限界がある。万が一の事態に備え、避難方法の確認や警察、消防、医療機関との連携態勢を作ることも広い意味でのテロ対策と言える。