マタニティーマークが「反感を持たれそう」とつけるのをためらう人がいる――。朝日新聞デジタルの記事にツイッターなどで反響が寄せられています。マークはそもそもどんな経緯で生まれたのか。マークについて知り、いっしょに考えませんか。

 マタニティーマークをつけている人はどんな気持ちなのか。11月初旬、東京駅でたずねてみた。

 片道2時間かけて通勤する相模原市の会社員(29)は妊娠7カ月。つわりでラッシュの電車に乗る時はつらかった。「倒れて処置してもらうとき妊婦だとわかってもらうため」。通りすがりに50代ぐらいの女性に「いまはマークがあっていいわね」と言われ、皮肉っぽく聞こえてイヤな気分がした。

 東京ディズニーランドに遊びにきた大阪市の会社員(29)は9カ月。「特に初期に妊婦だとわかってほしくて」長男(2)を妊娠したときもつけた。一緒にいた姉(31)は長男(1)を産むとき、マークをつけなかった。「つけてもつけなくても、優しい人は優しくしてくれますから」

 大阪駅周辺でも通勤中の人に声をかけた。

 ログイン前の続き大阪府守口市の看護師(29)は妊娠6カ月で安定期だが、初期はつわりがひどく入院した。「倒れたとき妊娠中だとわかるようにつけ始めました」。優先座席に座るときはマークが見えるようにリュックにさげているが、ふだんは見えないように隠している。「マークをつけていてイヤな目にあった、という書き込みをネットで見ると怖い」

 兵庫県尼崎市から大阪市内に通う会社員(34)は妊娠5カ月。2人目だ。長男(2)のときもマークをつけて「席を譲られ、優しくしてもらいました」という。今回はつわりがきつかった。「優先座席に座りやすいので、つけさせてもらっています」

 大阪府豊中市から阪急電車で大阪・梅田に通う会社員(33)は、12月半ばが出産予定。「本当はつけたくないんです。席を譲って、とアピールしているように見えてしまう」と話す。「始発電車に乗るようにしているし、たまに席を譲られると逆に悪いなあと思ってしまう」。ただ、ラッシュ時の階段の上り下りが怖く、後ろから押されないようにするため、リュックの後部にマークをさげている。

 「街でマークをつけている女性を見かけると、彼女も同じ気持ちで頑張って働いているんだなと励まされます」

■本来の趣旨は「命を守りたい」

 マタニティーマークは、妊婦さんが電車に乗るときなどに、周りが配慮しやすいよう考案された。とくに妊娠初期はおなかが目立たないけれどお母さんと赤ちゃんにとって大切な時期で、つわりがつらい人もいる。

 母子の健康対策を進める国の「健やか親子21」推進検討会が2005年にマークの議論を始め、公募。1661点の応募の中から医師や学者ら検討会の委員20人の投票により最優秀賞が決まり、06年3月に公表された。社会福祉法人・恩賜(おんし)財団母子愛育会埼玉県支部の作品で、それがいま広まっているマークだ。厚生労働省母子保健課は「働く女性が増えて通勤の苦労もある。当時、職場や公共の場で禁煙や分煙が今ほど進んでいなかったこともあり、環境作りが必要だった」。

 1999年に横浜市のライター村松純子さん(52)が考案したマークがすでに話題を集めていて、検討会はそれもヒントに議論したという。妊婦さんのおなかにハートが描かれ、「BABY in ME」とうたったものだ。

 厚労省が定めたマークは全国97%(13年度)の市区町村がストラップやシールにして配布。鉄道各社や産婦人科医院も配っている。

 一方で、マークをめぐる記事やテレビ放映をきっかけに厚労省にも「幸せそうなデザイン。もっと無機質な方がいいのではないか」「LGBT性的少数者)の私は子どもが産めない。マークを見るとつらい」といった声が寄せられた。「ぱっと見てわからない妊娠初期だけでなく、災害や事故のときもお母さんとおなかの赤ちゃんの命を守りたい。マークの本来の趣旨を知って使ってほしいし、まわりもそんな目で見守ってほしい」と母子保健課は呼びかける。(河合真美江)

■ネットの声から

●妊婦のとき本当に身体がつらかったんで、恩返しの意味も込めて席を譲りたい。マークつけてください

●結婚指輪とか、マタニティーマークとか、幸せの記号みたいなものをやっかむ人っているからなあ。でも、命に関わることもあるから絶対につけて欲しいんだよなあ

●幸福感を感じるデザインを変えたほうがいいのかもしれない。例えば、車の身体障害者標識(四つ葉のクローバー)みたいな感じにするとか

●かばんのポケットにつけてた。倒れたりした時用に。妊婦でも嫌がらせは受けなかったけど、席は全然譲られないので、始発駅とかにいくことにした

●妊婦だからとかいう以前に、自分が相手の立場だったらという想像力が世の中全体に欠けてると思う。みんな取引先や客にはペコペコしているはずなのに、電車の中では鬼。あれでよく仕事できるな~と思う

●身体的経済的理由で子どもを持つことが「できない」人が増えている現在、妊婦であることは弱者よりむしろ特権だと思われる機会が増えているということじゃないかなあ