動画投稿や映画の撮影を企画 西岡資裕さん(33)

 上北山村役場から車で約3分。国道脇の階段をのぼると、落差30~40メートルの黒瀬滝が現れた。静かな森の中に水音が響く。

 西岡資裕(もとひろ)さん(33)がビデオカメラを滝に向けた。「村の中心からすぐの場所に、これだけの自然がある。穏やかな気持ちになります」

ログイン前の続き 村の真ん中を北山川が流れ、東部には大台ケ原が広がる。西岡さんは村の非常勤職員。村の自然やイベントを撮影し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信している。

 和歌山県岩出市出身。大阪の専門学校で演劇を学んだ後、役者を志して2004年に上京した。舞台で10年ほど活動した。

 12年、同じ劇団にいた由嘉さん(33)と結婚した。そのころから将来の子育てについて考え始めた。

 当時、小学校で学童保育指導員のアルバイトをしていた。親からのクレームを気遣い、肩車やおんぶを禁止する学校があった。「子どもには、知らない人にあいさつさせない」という親も少なくなかった。

 「人との交流が希薄な環境で、しっかりとした子に育つのか」。人同士の距離感が近い場所はないだろうか。できれば、自然の多い環境がいい。インターネットで探していて上北山村のサイトを見つけた。大台ケ原の動画があった。雄大さに目を奪われた。

 地域おこし協力隊に応募した。16年1月、面接を受けるため、初めて村を訪れた。夜空の星の数に圧倒された。満月がくっきりと明るかった。

 協力隊の一員として村の非常勤職員になることが決まり、2カ月後に移住した。すぐに村唯一の学校、村立上北山小中学校の卒業式を撮影しにいった。

 卒業生は小6が2人、中3が7人。育ててくれた親や先生への感謝の言葉に実感がこもっていた。カメラを手にしていると、中学生が「協力隊の方ですか」と話しかけてくれた。村に来てよかったと思った。

 村の人口はここ20年でほぼ半減した。15年の国勢調査をもとにした人口密度は、全国の村の中でも少ない1平方キロあたり1・9人。

 村の人から地区の行事が減りつつあると聞いた。記録に残そうと撮影を続けてきた。自転車のロードレースのイベントや、アウトドアを楽しむ住民の姿なども撮影し、動画をユーチューブに投稿する(チャンネルはhttps://www.youtube.com/user/catmarzuliebru3別ウインドウで開きます)。

 「いつも見てるよ」「今度、撮りにきてよ」。村の人から声がかかるようになった。

 青空市などのイベントの運営にもかかわる。一緒に運営する林業の小松広一さん(62)は西岡さんのことを、「新しい発想で村を元気にしてくれる。まじめで、人をひきつける魅力がある」と話す。

 西岡さんは今年、村を舞台にした映画の撮影に挑戦するつもりだ。移住した男性が、都会に住む恋人に滝や紅葉の景色、自分の暮らす集落などを案内して回るストーリーを思い描く。

 東京の劇団仲間に協力を呼びかけた。村を見てもらったうえで、一緒に脚本を作る。撮影は西岡さん。多くの住民に出演をお願いするつもりだ。

 「村の魅力を詰め込んだ作品をつくりたいんです」。目に希望があふれていた。