「ふくおと歩く」。そんな名前の昆虫観察会が150回を超えた。上牧町の昆虫写真家、伊藤ふくおさん(71)と虫好きの仲間が毎月開いている。奈良市奈良公園周辺を中心に観察データを積み重ねる。

 伊藤さんは三重県出身。広告映像の制作に携わる傍ら、身近な自然の観察や撮影を続けてきた。虫だけでなく、ドングリなどについての著書もある。橿原市昆虫館での活動を母体に2005年、NPO法人を立ち上げ、法人の事業の一環で観察会を始めた。

 昨年12月17日に155回目があった。朝、飛火野に集まった10人は石垣や石灯籠(どうろう)、木の皮の裏などで虫を探す。鳥好きの人もおり、空を見て「ハヤブサが飛んでいるよ」。

 ログイン前の続きこの日の主なテーマは成虫で越冬するチョウだ。落ち葉を踏みしめ、若草山のふもとの林に分け入った伊藤さんが「テングチョウおるよ」と呼びかけた。枯れ葉にしか見えないが、目をこらすと触角がある。参加者が「これは鳥でも、よう見つけんわ。どんな目してるんですか」と笑った。

 先頭の橿原市の林太郎さん(34)が「すごい」と声をあげた。イシガケチョウが葉の裏で羽を広げて越冬していた。南方系のチョウだが、温暖化の影響か、近年は県内でも観察されるようになった。参加者が「奈良で越冬してるとこ見つかったんは初めてでは」とカメラを向けた。

 午前10時から昼食を挟んで午後4時までの観察会だった。発見場所や木の種類、地上からの高さ、方角などのデータを記録し、研究者や愛好家に発信する。元大阪市立自然史博物館長の宮武頼夫さん(昆虫学)は「定点観測することで増えた種や減った種の変化にも気づける。150回を超えて継続している意義は大きい」と話す。

 伊藤さんが自分が行きたい場所やテーマを選び、集合場所と時間を参加経験者約200人にメールで伝える。途中参加や退出も自由だ。この日も「今どこですか」と電話して途中で加わった人がいた。気象警報が出たら自動的に中止する。手間をかけず、自由な会にしたことが長続きの要因とみる。

 常連だった少年の何人かは自然科学の研究者になった。斑鳩町の中学2年生、掛谷立樹君(13)もチョウの研究者になるのが目標だ。「自分の足で探し、自分の目で確かめられるので、興味が広がります」と話す。

 伊藤さんは「同じ場所で30年観察を続けても、同じ日は1日もない。楽しくてやめられません」と笑った。

 問い合わせは伊藤さんにメール(290no64ya@kxa.biglobe.ne.jp)で。