トヨタが2億円寄付、名大の豊田講堂 読み間違い続出
2019年5月17日16時00分
名古屋大学のシンボルで、国の登録有形文化財でもある豊田講堂。来年で完成から60年になるこの建物について、少なくない学生らが「とよた」と発音しているが、正しい読みは「とよだ」だ。いったいどうして?
4月5日、豊田講堂で3回に分けて学部と大学院の入学式が開かれ、周辺は多くの学生らでにぎやかだった。1960年に完成した講堂は、入学式や卒業式の会場などとして使われ、名大生に親しまれている。設計した世界的建築家の槇(まき)文彦さんは、正面から見た講堂のデザインは「門」の字の略字になぞらえたとしており、正門のない名大にとってはその代わりともいえる存在感がある建物だ。
名大には39年の旧・名古屋帝国大学創立当初から講堂建設の動きがあり、寄付金も集まっていたが、戦中の物資不足や終戦直後の物価高騰などで実現しなかった。その後、第3代の勝沼精蔵総長のとき、講堂の寄付者として白羽の矢が立ったのがトヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)だった。
大学はもともと総額1億円規模の講堂の寄付を求めていたが2度断られ、3度目で承諾を得た。トヨタ側は恥ずかしくない建物を、と倍の2億円規模の講堂になったという。「トヨタ講堂」ではなく「豊田(とよだ)講堂」となった理由は、トヨタグループ創始者の豊田(とよだ)佐吉を記念する意図からだ。
59年3月に始まった建設工事は、伊勢湾台風の影響を受けた。軀体(くたい)工事は60年3月に完了したものの、竣工(しゅんこう)は5月となり、同年の卒業式と入学式はそれを待たずに講堂で開かれた。
講堂内や周辺に設けられた看板などでは読みを「とよだ」、英語表記を「Toyoda」としているが、「とよた」と発音している学生が少なくない。今年2月にできた、キャンパスに車で入構した人が利用する講堂脇の建物では、英語表記が「Toyota」と誤っていた。指摘を受けて、大学側は「Toyoda」に修正した。
名大の大学文書資料室特任助教の堀田(ほった)慎一郎さん(50)は、文学部の学生時代から講堂に親しみを抱いてきた。「入試の合格発表は講堂前であり、父と一緒に行って独特な存在感に強烈な印象を受けた」と話す。毎年、新入生らを対象にした授業「名大の歴史をたどる」で講堂について教えている。「講堂は東山キャンパスの顔で、学生生活の節目節目で関わり卒業後も記憶に残る。ぜひ、正しい読みを含めて歴史を知ってほしい」と話す。(佐藤剛志)