© サンケイスポーツ 提供 初登板で勝利投手となった吉田輝(左)はウイニングボールを手に、栗山監督と記念写真におさまった (撮影・荒木孝雄)
(セ・パ交流戦、日本ハム2-1広島、2回戦、日本ハム2勝、12日、札幌D)これぞスターだ! 日本生命セ・パ交流戦で12日、日本ハムのドラフト1位・吉田輝星投手(18)=金足農高=が、広島2回戦(札幌ドーム)に先発でプロ初登板。5回4安打1失点でプロ初白星を挙げた。2-1で勝った日本ハムは交流戦首位に立った。高卒新人で初登板で勝利するのは、松坂やダルビッシュらに続く快挙。昨夏の全国高校野球選手権で準優勝し、甲子園を沸かせたヒーローは、プロでもスターの系譜を歩む。
© サンケイスポーツ 提供 日本ハム先発の吉田輝星
甲子園のスターは、北の大地でも輝いた。平日のナイターでは異例の3万3563人が集まり、一球ごとにどよめきがこだました札幌ドーム。初登板で勝利をマークした吉田輝は初めてのお立ち台で、はにかんだ。
© サンケイスポーツ 提供 吉田輝星の初勝利を喜ぶレフトスタンドの日本ハムファン
「率直にうれしいです。自分だけの力では勝てない。すごい応援の声が聞こえて、力になりました」
セ・リーグ3連覇中の広島に堂々の投球だ。一回、大きく振りかぶって投げた長野へのプロ第1球は、宣言していた通りの直球(140キロ)。その後1死満塁とされたが「初回のピンチはいつものこと」と動じず、西川をオール直球で3球三振。続く磯村にはこの日最速の147キロを記録し、最後は三ゴロに抑えて無失点で切り抜けた。
1-0の二回に長野の適時二塁打で同点とされたが、三回以降は1安打のみ。プロ自己最多の84球を投げ、5回を4安打1失点に抑えた。2打席対戦し、四球と144キロの速球を打っての右飛に倒れた4番・鈴木は「きれいにきたり、“真っスラ”気味にきたり。イメージしづらかった。指にかかったときは、見たことのない真っすぐだった」と目を丸くした。
プロで最長は5月8日のイースタン・リーグ、ロッテ戦の4回0/377球。五回を投げきったことがなかったが「どうせなら本番(1軍)でやりたい」と不安はなかった。
体力は自信があった。加藤2軍投手コーチを「基礎体力が違う。過去の新人の中でもすば抜けている」と驚かせた。春季キャンプ後は「走らないと調子が上がらないので走っていいですか」と直訴。登板後の暗い中、球場を走ることもあった。夕食後は寮内のウエートルームへ。最近は2時間ほどバイクをこぎ続けるなど、暇さえあればトレーニングにあてた。
強い体の土台ができたのは、軟式野球部に所属していた天王中2年の冬。きつい体力トレーニングの後も自宅の周りを走った。タイヤを引いてのランニングなどをこなし、ひと冬で足腰が見違えるほどたくましくなった。下半身の強さは、今でも切れのある直球を生み出すパワーの源だ。
大学進学と悩んだ末に決めたプロ入り。その選択が正しかったことを、初登板から証明した。
「一番、大事なのは今までちゃんとやってきた、という自信。試合にいい入り方ができれば、緊張はしない」
高卒新人では史上19人目となる初登板での勝利。松坂やダルビッシュらに続いた右腕がこの日、登場曲に選んだのは憧れの三代目J Soul Brothersの「MUGEN ROAD」。高校時代からの“勝負曲”の歌詞には「伝説の始まり」というフレーズがある。令和元年6月12日。平成最後の夏の甲子園を沸かせた吉田輝の、プロでの伝説が幕を開けた。 (中田愛沙美)
2軍戦を含めても最長となる5回を投げて白星を手にした吉田輝に日本ハム・栗山監督「(良い方向と悪い方向と)どちらに振れるかなというところで、いい方に振れる。そこは大きな魅力」
吉田輝を直球主体にリードした日本ハム・石川亮「かわしていったら吉田君のためにならない。(首脳陣は)どれだけ直球が通用するか見たいと思う。最高の結果になった」
★主な高卒新人投手の初登板アラカルト
◆松坂大輔 横浜高から西武入団1年目の1999年4月7日の日本ハム戦に先発。一回に片岡を空振り三振に仕留めた球は155キロ。六回1死まで安打を許さず、8回2失点で勝ち星をつかんだ。
◆ダルビッシュ有 東北高(宮城)から日本ハム入りした2005年の6月15日、完封を目指した九回に2点を失って途中降板したが、勝利投手になった。
◆田中将大 駒大苫小牧高(北海道)で活躍し、楽天に入った07年、3月29日のソフトバンク戦で6失点で二回途中にKOされた。
◆大谷翔平 日本ハムで投手デビューしたのは13年5月23日。岩手・花巻東高出の新人ながら打者で2安打1打点と鮮烈デビューを飾った開幕戦から約2カ月後、157キロをマークしたが、5回2失点で勝ち負けはつかなかった。
◆安楽智大 高校出新人の初登板勝利は、最近では15年10月に楽天の安楽智大(愛媛・済美高出身)がマーク。
◆近藤真一 1987年、愛知・享栄高出の近藤(中日)はデビュー戦の巨人戦で無安打無得点試合を達成。
★吉田 輝星(よしだ・こうせい)という男
◆生まれ 2001(平成13)年1月12日生まれ、18歳。秋田県出身。
◆球歴 金足農高で3年夏の甲子園に出場し、準決勝まで一人で投げ抜き、準優勝。19年にドラフト1位で日本ハム入団。
◆サイズなど 175センチ、84キロ。右投げ右打ち。独身。年俸1000万円。背番号18。
◆趣味 漫画を読むこと。バスケットボール漫画「スラムダンク」を読み、主人公の桜木花道がけがをおして試合に出るシーンに感銘を受けた。金足農高のコーチからも「投手は試合の主人公」と常々言われており「アニメのキャラクター並みに強い気持ちで試合に臨みたい」。
◆相棒 父・正樹さんのすすめでオレンジ色のグラブを使用。「磨けば赤くなる。赤は燃えていく」という意味も込められている。練習用は“原点”を忘れないため、金足農高カラーの紫色を使っている。
◆ストイック プロ入り後は「腹筋を割ってやろうというくらいのイメージ」と好物のポテトチップス、コーラなどを封印。自慢の「サマーボディー」の完成を目指している。
◆好きな芸能人 女優の永野芽郁。
◆特技 高校時代、オフのストレス発散は仲間と行くカラオケ。「そんなうまくないですよ」と謙遜するが、レミオロメンの代表曲「3月9日」が十八番。
データBOX 〔1〕日本ハム・吉田輝がプロ初登板で勝利投手。2リーグ制(1950年)以降に入団した高卒新人(中退を含む)の初登板勝利は、2015年10月5日の楽天・安楽智大(対ソフトバンク、先発)以来4年ぶり32人目。ドラフト制後(66年以降)では19人目。
〔2〕日本ハム(前身球団を含む)の高卒新人の初登板勝利は、10年8月11日の中村勝(対ロッテ、先発)以来9年ぶり、ドラフト制後6人目。ドラフト制以前では62年4月8日の尾崎行雄(対大毎との第1試合、救援)の1人だけ。
〔3〕高卒新人が交流戦で1軍デビューし、初登板勝利を挙げたのは、05年6月15日の日本ハム・ダルビッシュ有(対広島、先発)に次いで14年ぶり2人目。