赤い彷徨 part II
★★★★☆★☆★★☆
↑次にお星さまが増えるのはいったいいつになるのでしょう…
 



以前ここで紹介した「マネーチェンジャース」と同じアーサー・ヘイリーの作品。その「マネーチェンジャース」は銀行を舞台にした作品だったように、この方は「米製黒木亮」とでも言おうか、いわゆる業界モノの多い作家さんらしい。ただし、作品の多くは1950~60年代に書かれたものが多いようで、そのあたりは割り引いて読み進める必要がある。そのあたりが一番わかりやすいところでは訳のワーディングで、この作品でも「看護婦」とか、いろいろな理由で現在は使われなくなった言葉が随所にちりばめられている。

物語は、とある地方病院の「改革」に挑む外科医を中心にして、その病院に関わる人々の人間模様を描いた作品。「最後の診断」というのは、病院の病理部門のタスクの一部のこと。病理とは、外科、内科、産科など総合病院にいろいろ部門があるなかで、直接患者を診断することなく、病気の原因、発生機序の解明や病気の診断を最終的に確定するのを目的とする部門・分野のことで、(時には亡くなった)患者の細胞、組織、臓器の標本を、肉眼や顕微鏡などで検査して、それらが病気に侵された際に示す変化について研究する学問とのこと。って、私立文系の自分としては「病理」という言葉自体、今回この本を読んで初めて知った言葉でもあり、もし認識に間違いがあったらごめんなさい。

今回の改革劇の主戦場となるのが、その病理部門。直接患者を診ないとはいえ、最終的な診断を下すその責任の重さが「最後の診断」(原題:"The Final Diagnosis")というタイトルに滲み出ているのかなと。「贅沢いうな!」なんてCMも流れているが、いつでも、どこでも、改革は華々しい。しかしその裏にいくつものしがらみが、影が付き纏って時に陰惨なドラマとなる。ただ、それでも改革を忘れたり、顔を背けたりすると現政権のようになってしまうということなのかな。

ちなみに、やはり病院を舞台にした作品だけに手術などのちょっとグロいシーンはそれなりにあり、今どきの医療ドラマなら目を背けることもない自分であっても、文章を読み進めるだけで気分が悪くなってしまうくらいリアル(かどうかは知らないが)な描写だったのが非常に印象に残った。とまあ、物議を醸した「人体の不思議展」ごときで気分が悪ってギブアップしちまうようなチキン野郎の戯言に過ぎませんが・・・。

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