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韓国文在寅政権、元駐韓大使が占う「不安だらけの船出」

2017-05-15 16:02:44 | 日記
2017.5.12

韓国文在寅政権、元駐韓大使が占う「不安だらけの船出」


武藤正敏:元・在韓国特命全権大使+


文在寅氏を支持したのは

格差に不満を抱く若い人々

5月9日、朴槿恵前大統領の弾劾を受けた韓国大統領選挙が行われ、革新系の「共に民主党」文在寅(ムン・ジェイン)氏が41.08%の得票で当選した。

保守系「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏24.03%は、中道系「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏21.41%を抜いて2位となった。

文氏の当選は予想通りの結果であったが、私が注目したのは、洪氏と安氏の得票の合計が、文氏のものを上回ったことである。

これは韓国の国民が、必ずしも文氏の北朝鮮に融和的な姿勢を支持したものではない結果を示すものだと考えることができる。

今回の大統領選挙のテレビ討論などで見ると、最大の争点の一つは北朝鮮の脅威にいかに対処するかであった。

しかし、事前の支持率の推移を見れば、文氏の支持率は常に40%前後であり、ほぼ一定していた。

これまでの大統領選挙では、北朝鮮の挑発行動などがあれば保守系の候補に支持が流れたが、今回は北朝鮮の激しい挑発行動があったにもかかわらず、文氏への支持は変わらなかった。

これは、文氏を支持した人が北朝鮮の脅威を理解せず、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追い込んだ、韓国社会の格差の現状に不満を抱く若い人々だったことを物語っていると考える。

文氏への支持が変わらなかったのとは対照的に、洪氏と安氏の得票は大きく動いた。

最初は反文の受け皿として安氏が得票を伸ばしたが、保守系の支持者が安氏では頼りないと見ると、支持が洪氏に移った。

選挙直前の世論調査では、洪氏と安氏の合わせた支持率は文氏に及ばなかったが、選挙結果は文氏の得票を超えた。

これは、韓国の国民は文氏に対し、より慎重な北朝鮮への対応を望んだものと見ることができる。

前政権批判に終始し
見えない具体的政策

文氏は当選を受け、準備期間なしに5月10日大統領に就任したが、文政権の韓国の姿はまだ見えてこない。
 
今回の大統領選挙は、朴前大統領の弾劾を受けて行われたため、準備や選挙運動の期間が短く、テレビ討論などでもお互いを誹謗中傷したり、個人攻撃したりするものが多かった。

政策提言についても反朴の姿勢を示すことが中心となり、具体的な政策の中身に踏み込むものは少なかった。

とはいえ、文氏の過去を振り返ると、おぼろげながらその姿勢は見えてくる。

文氏は故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の側近であり、盧政権では通常、個別の外交案件には携わらない秘書室長であったにもかかわらず、北朝鮮の問題となると自ら盧元大統領をサポートした。

これは、文氏の南北朝鮮に関する政策が、盧元大統領と重なり合うものであることを意味している。

そればかりか、竹島問題や慰安婦問題についても盧氏の立場と近似している。

したがって、選挙運動中の大統領の発言だけで具体的な政策を知ることは難しいが、盧元大統領の発言や政策などと照らし合わせて、文政権の今後を占うことはできる。

そうした視点に立ってみると、文政権の対北朝鮮政策、日韓関係への取り組み、国内経済政策のいずれをとっても韓国の将来に不安を与えるものしかない。

ただ、5月10日、国務総理内定者として知日派の李洛淵(イ・ナグヨン)全羅南道知事が指名された。

韓国の首相は、基本的には国内の政治・経済を担うものであり、外交は直接、大統領が主導するものである。

とはいえ、対日関係に詳しくない文政権においては、李氏の日本との関係という要素も勘案した任命とも考えられ、李氏が日本との関係で重要な役割を果たすことが期待される。

このように今後文政権の具体的な人事や政策が出てくるにしたがって、より現実的な方向性が出てくるのではないか期待する。

「条件が整えば平壌へ」と演説
筋金入りの北朝鮮融和策

文氏は5月10日、ソウルの国会議事堂で行った大統領就任演説で「必要であれば、ワシントン、北京、東京に行く。条件が整えば平壌にも行く」と語った。

文氏の基本的な考えは、対話通じ北朝鮮との緊張関係を改善していこうとするものであり、その姿勢を反映した発言だ。 

文氏はテレビ討論会で、核問題では「凍結措置を優先し、十分な検証を経て完全な廃棄に移る段階的アプローチが必要」としていた。

これより先の5月1日、米国のトランプ大統領も「環境が適切なら、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会ってもいいだろう」と述べた。

トランプ大統領の言う「環境が適切なら」というのは、北朝鮮の核放棄が前提という意味である。

つまり、北朝鮮の非核化は、トランプ氏にとっては対話の「入り口」であるが、文氏にとっては「出口」だということで、その意味合いは全く違うのだ。

また、北朝鮮も1日、外務省報道官談話で、「われわれの強力な戦争抑止によって、朝鮮半島情勢がもう一つの峠を越えた」と述べた。

それとともに、北朝鮮は4人の米国人を拘束した。

過去、拘束された米国人を釈放するために、

カーター元大統領やクリントン元大統領が北朝鮮を訪問した経緯があり、今回の拘束も北朝鮮が米国に対し、「米朝対話を始めるため元大統領などの大物を派遣してほしい」とのメッセージとも受け取れる。

それでは今後、北朝鮮問題は対話による平和的解決の方向に向かうのか。

重要なことは、同じ対話といっても「非核化の位置付け」が違うことである。

同時に、忘れてならないのは、金正恩氏は非核化の意志など全くないということである。

金大中(キム・デジュン)政権や盧政権が行った「太陽政策」は、北朝鮮の核ミサイル開発を助長したとの見方が多い。

他方、北朝鮮にとって強硬な姿勢をとった李明博(イ・ミョンバク)政権でも朴槿恵政権でも北朝鮮は核ミサイル開発を継続した。

しかし、北朝鮮の核ミサイル開発が最終段階に来た現在、トランプ政権は中国が北朝鮮に対する制裁に本腰を入れるよう、硬軟両様の構えで働きかけている。

そればかりか、朝鮮半島周辺海域には原子力空母「カール・ビンソン」や原子力潜水艦「ミシガン」を配置して軍事的圧力を加え、ロシアやASEAN諸国、オーストラリアを動かして北朝鮮に対する外交的包囲網を形成している。

これは文政権の誕生を見越して、韓国が勝手に北朝鮮に近づかないように牽制したともみることができる。

米国が本腰を入れ、中国が制裁を強化したのは初めてのことだ。

こうした動きを受け、北朝鮮も厳しい状況に直面している。

北朝鮮の朝鮮中央通信は3日、中国が米国に同調し北朝鮮に圧力をかけているとして、「親善の伝統を抹殺しようとする容認できない妄動だ」と非難する論評を掲げた。

反面、米国に対しては対話を促すような行動をとっている。

核ミサイル開発を決して放棄しない姿勢を見せてきた北朝鮮、北朝鮮に対する武力行使は犠牲が大きすぎるとして慎重になってきた米国。

そうした中で局面を打開していくためには、現在の米国主導による「北朝鮮包囲網」が成功することを期待するのが最も現実的だ。

しかし、文氏が北朝鮮を訪問したり、南北対話や経済協力を開始したりすれば、韓国が北朝鮮包囲網を壊すことになりかねない。

韓国が北朝鮮と対話すれば他の国は協力しないだろうし、韓国から北朝鮮に援助が渡っていれば、中国は制裁を強化しないだろう。

そう考えると、現在の北朝鮮包囲網が成功し、北朝鮮の非核化を実現させるためには、文政権の対北朝鮮政策がカギとなりそうである。

慰安婦問題の再交渉を
要求してくる可能性は高い

文氏は、選挙遊説の終盤の演説で、「慰安婦合意は間違っている」と述べた。

この合意を検証し、再度提起する構えである。

その場合、日韓関係は深刻な打撃を受けることにならないのだろうか。

結論から言えば、慰安婦問題は再交渉を要求してくる可能性が高い。

しかし、韓国にとって国内の格差是正は急務である。

韓国経済も苦境にあえいでいる。

そうした中で、日本との関係を冷え込ませることは得策ではない。

そこで、歴史問題とその他の問題とを切り離したいと考え、李氏を任命したのかも知れない。

しかし、本当に慰安婦問題を切り離して日韓関係を進めることができるのか。

韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)は、一筋縄ではいかない政治活動家団体である。

これまで韓国政府は朴政権時を除いて挺対協に振り回され、日本との関係を後退させてきた。

また、日本にとって朴政権下で行われた慰安婦問題に関する日韓合意は、初めて日韓の懸案解決に当たって、双方が譲歩する形で妥結したものである。

それまでは、韓国の国民世論を静めるため、日本がはるかに多くの譲歩をしてきたが、いつまでもこうしたことを繰り返すことは日本の国民世論が許さない。

慰安婦に関する合意は、そうした意味で今後の日韓間での問題解決のモデルケースとなるものであり、これを再交渉することなどあり得ない。

日韓関係が、慰安婦問題で対立しながら関係全般を進めるのには、日韓双方に抵抗があるだろう。それでも北朝鮮を巡る安保情勢の中で、日韓両国が対立したままでいいわけがない。

首脳レベルを始め、様々なレベルでの接触を重ね、関係改善の努力をしていくことが求められている。

韓国経済の体力を削ぐような
経済政策は現実的ではない

文氏が、選挙運動中に打ちだした経済政策は、いずれも非現実的なものと思われる。

それは反朴の流れをくむ人々の要望を列挙したものであるが、これを推進すれば、韓国経済の体力を一層削ぐことになり現実的ではない。

韓国経済の潜在成長力は年々落ちてきている。

そうした中で、国内の富の分配を改善するためには経済成長を促しつつ、恵まれない層の人々に対する分配を厚くしていく以外にない。

しかし、文氏が打ちだした「公務員81万人採用による雇用創出」は韓国の財政負担の重くし、ギリシャのような事態を招きかねない。

さらに最低賃金時給1万ウォンは、労組の要求を取り入れたものであるが、韓国企業の99%は中小企業で、そこで働く人は全労働者の88%と言われている。

そうした中小企業は、余裕のない経営を強いられており、最低賃金を2020年までに現在の7000ウォンから引き上げれば、多くの企業が倒産するか、労働者の解雇を行うだろう。

さらに財閥改革では、企業経営に労組の参画を図るという。

だが、大企業の多くを現代自動車のように労組に支配され、ストの頻発する企業にしようというのか。

いずれにせよ、今、言われている経済政策はとても実現できるものではない。

今回の寄稿では、文政権の姿勢について初期的なコメントをしたが、まだ、不明な点が多すぎる。

今後、問題別にその輪郭が明らかになってきた段階で、改めて文政権の今後、そして韓国の将来について考えてみたい。

(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書) 新書

2017-05-15 15:43:27 | 日記
【書評】老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路=姫野秀喜

本日の書評は、人口減少に伴い生じるべくして生じた、「老いる家」の問題を論じた至って真面目な新書についてです。『空き家が15年後には2100万戸を超える……3戸に1戸が空き家に』本書の帯に書かれているセンセーショナルな言葉は決して人ごとではありません。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)

プロフィール:姫野秀喜(ひめの ひでき)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書) 新書

– 2016/11/16

野澤 千絵 (著)

住宅過剰社会で「老いていく家」…日本の大問題を解説した良書!

15年後には、3戸に1戸が空き家に

人口減少時代に突入した日本、人が老いるように、家も老います。

家は老い、街は崩れます。『空き家が15年後には2100万戸を超える……3戸に1戸が空き家に』本書の帯に書かれているセンセーショナルな言葉は決して人ごとではありません。

今自分たちが住んでいる街が、15年後にはインフラ不足の不便な場所に成り下がるかもしれない。

阻止するためには、今手を打たなければ間に合わない。

本書は人口減少に伴い生じるべくして生じた、老いる家の問題を論じた至って真面目な新書です。

◾人口が減っているのになぜ、新築が建てられるのか
◾郊外の田畑の真ん中に新築住宅が建てられるのはなぜか
◾老いていく家の引き起こす問題とはなにか
◾これまでの都市計画・住宅政策の限界とこれからの方策とは



こういった観点で、社会問題化しつつある住宅過剰供給に対する問題提起をしています。

著者である野澤氏は東洋大学理工学部建築学科の教授を務めている方なためか、新書といってもゴリゴリの歯ごたえある読み口となっています。

少々小難しいので、誤解を恐れず要約します。

本書の主張

「人口減ってるから、ある程度のエリアにまとまって住まないと、社会インフラ(ライフラインや道路や学校などの公共施設)とかが維持できず、生活レベルが下がるよ~」

「自分の町の人口を増やしたいからといって、畑の真ん中に住宅建てても、隣の町から人口を奪い合ってるだけだよ~」

「儲かるからって畑の真ん中に家を建てて売るのは、社会全体で見たらインフラの非効率を招く行為だよ~」

「今まで都市計画では、こういう問題に対処できなかったけど、これからはちゃんと音頭とって対処しないと税金のムダ遣いが減らないよ~」

という感じです。

ライフラインや道路などは、市場の失敗に陥るからこそ、公共財として供給されます。

都市計画によりその公共財のための予算や分配が影響を受けるのだとすれば、当然、住宅供給量や場所を制限するのも公共政策の務めとなるわけです。

普段あまり考えることもない都市計画における失敗とこれからの住宅のあり方について、本書のエッセンスを見ていきたいと思います。

【関連】あなたは勝ち組?負け組? 首都圏鉄道「沿線格差」の実態を解説した良書!=姫野秀喜

以下、著者の言葉を抜粋します。
『』内は引用です。

人口が減っているのになぜ、新築が建てられるのか?

【答え】
◾業者は『売れるから建てる』
◾買う人は『「住宅は資産」と考え』『住宅ローン減税といった優遇措置』があるから買う

結果、買う人がいるから作って売るわけです。

都心に建つ新築タワーマンションが引き起こしている直近の問題とは?

【答え】
◾タワマンは狭いエリアに多くの人が居住するため、インフラが追いつかない。

『東京湾岸エリアではすでに、あまりにも多くの超高層マンションが建てられたために、居住地として必要な様々な生活関連施設が不足』

『小学校の教室不足や地下鉄のホームが過密になりすぎて危険な状態になるといった問題が深刻化しています』

なお、この状況は今後も拡大していくようで、

『東京都の湾岸6区内には、すでに17万戸もの空き家がある中で、「売れるから建てる」という短期的な市場原理の中で、これからさらに、千葉ニュータウン一つ分もの新築住宅がつくられる』という悲観的なストーリーが続きます。

タワーマンションが将来引き起こすと懸念される問題は?

【答え】

◾入居者が多すぎて意思統一できず、老朽化や建替えが出来なくなる

『超高層マンションは、将来、不良ストック化するリスクがある』

『超高所での暮らしが成り立っているのは、エレベーターや排水施設などを稼働させる電気の力があるから』

この設備を維持・管理するのはマンション各部屋の持ち主である、区分所有者たちです。

『しかし、分譲マンションは、どのような区分所有者がいるのか』わかりません。

ゆえに『将来にわたって建物の維持管理が適正に行われるかどうかが未知数』なのです。

将来、建替えに一部屋あたり1000万円の拠出金が必要になったとしても、出せる人は一握りでほとんどの人は拠出できないでしょう。

そして、管理組合の総会で建替えは否決され、設備は老朽化し、エレベーターや給水施設などライフラインが使い物にならなくなり、廃墟と化す。

30年~50年後には起こりうる未来ですね。それでもタワマンが欲しいですか?

なぜ新築タワーマンションがたくさん建つのか?

【答え】

◾『国と自治体が、その区域の都市計画規制を特別にかつ大幅に緩和しているから』

『問題なのは、東京都が、「都心居住の推進」のために容積率等の緩和を可能とした区域があまりにも広すぎるということ』

『駅周辺地区などに限定して拠点的に指定するのではなく、おおむね首都高速中央環状線の内側と湾岸部のほとんどを含んだ極めて広大(過大)なエリアを指定』

更に問題なのは、建てられる住戸などの数値目標を管理していないこと。

『必要な住戸タイプや住戸数の将来目標量を設定したうえで、その目標量をエリアごとに割り当て、都市計画規制の緩和を行っていない』

『今の都市計画や住宅政策は、超高層マンションで供給される住戸数がどんどん積み上がる自体を全体的にコントロールしているわけではない』

『たとえば、湾岸エリアのある区域では、現在、3棟の超高層マンションを伴う市街地再開発事業が進められ』『約3000戸もの新築住宅が供給される予定になっています』

『そもそも、この地区に3000戸もの住宅がつくられる量そのものの妥当性や、全体として住宅の量が積み上がっていくことへの影響に対して、丁寧な検討も調整もされていないのが実態なのです』

『これ以上、住宅過剰社会を助長しないよう、長期的な視野から、都市計画・建築の規制緩和のあり方について、真剣に議論すべき』

郊外の田畑の真ん中に新築住宅が建てられるのはなぜか?

【答え】

◾人口増加させたい地方自治体が条例で規制緩和したから
◾既にある市街より、新規で規制緩和された田畑の方が住宅を建売りしやすいから

『2000年の都市計画法改正によって、開発許可権限のある自治体が、開発許可基準に関する規制緩和の条例を定めれば、市街化調整区域※でも宅地開発が可能とされた』※市街化調整区域とは、通常は家を建てられない区域のこと

新規で田畑に家を建てた方が土地の価格も安く、『都市計画税が不要な市街化区域での開発の方がメリットがあるとされ、これまで整備してきた市街化区域の開発意欲を奪う要因となった』。

『農地をつぶして、無秩序に宅地化しながら、低密にまちが広がり続け、インフラ等の維持管理コストや行政サービスを行うべきエリア面積をますます増大させ、行政サービスの効率の悪化や行政コストの増加といった悪循環を引き起こす状況は、まさに「焼畑的都市計画」であると言えます』

「老いていく家」が引き起こす問題とは何か?

【答え】

◾個々の問題は水道管が破裂したりマンションがスラム化したりすること
◾全体の問題はインフラの非効率によるサービス低下や増税

『スラム化した分譲マンションとして有名な事例が福岡市にあります。博多駅から徒歩5分ほどにある築40年超の11階建ての分譲マンション』

『管理組合とデベロッパーとの意見が一致しなかったことも影響し、1988年には、マンション全体の電気供給が止まり、エレベーターと屋上の貯水タンクへの上水道の供給が止まり、全戸への給水もできなくなりました』

『老いた空き家が放置・放棄され、周辺に著しく悪影響を及ぼす場合には、最終手段として、税金を使って自治体が対応するしかないケースが増えてしまうことが想定されます』

『しかし、自治体には、こうした対応をする財政的体力が、もうなくなってきている』
『そのため、今ある公共施設・インフラのすべてを更新することは不可能な状況』

『それなりに(公共施設・インフラを)集約・統廃合していかなければ、増大する維持管理費が財政を圧迫するという問題も生じてしまう』

ただ、この統廃合は『市民の反対が大きいことが予測されることや、選挙の票につながらないために、主張や議員が積極的に取り組もうとしないこともある』

まぁ、皆、自分が得することだけ考えて部分最適を追求したら、そうなりますね。

総括

多くの事例が並べられているためわかりにくい印象の本書ですが、述べられている「住宅過剰社会に対する問題提起」はシンプルです。

冒頭でも要約しましたが、さらに3行でまとめると、

「人口減るんだから、住むエリアも狭めて家も減らそうよ」
「野放図に新築を建てず、建てるなら既存の空き家を取り崩してそこに建てようよ」
「そうすれば行政コストも抑えられるから、そういう政策にしようよ」

ということです。

オリンピック施設が将来世代に負の遺産として受け継がれるかもしれないということを危惧する人は多いです。

しかし、実はオリンピック施設以上の「負の遺産」が日本全国各地に大量に今も建設されて続けている、ここに筆者は危機感を持っているのだと思います。

不動産投資でも、将来コンパクトシティになるであろう未来を見据えて、購入する物件の立地を見定めたいものです。でわでわ。