勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-05-20 05:00:00
韓国特使、「慰安婦合意」受け入れ困難「米韓関係」へ波及か
日本は「大人の対応」で受け流し、シャトル外交復活へ合意
韓国大統領特使は訪日で、日韓政府間の慰安婦合意事項を受け入れないと発言した。韓国の政治はどうなっているのか。
国民が、感情的に受け入れられないから政府間の合意・協定を見直したい。こういう韓国政府の姿勢ならば、外交交渉は成り立たない。
韓国特使が、その非常識な話を日本へ持ってきたのだ。
『時事通信』(5月17日付)は、次のように伝えた。
「岸田文雄外相は17日、韓国の文在寅大統領の特使として来日した文喜相国会議員と外務省で会談した。
文氏は、慰安婦問題をめぐる日韓合意について、『韓国国民の大多数が情緒的に受け入れられない』と表明した。
文氏は18日に安倍晋三首相と会談し、文大統領の親書を手渡す。
外相との会談後、文氏が記者団に語ったもの。文氏は合意の見直しや再交渉には言及せず、歴史認識に関する過去の村山富市首相談話や河野洋平官房長官談話を基に、『賢明に克服していくよう努力しよう』と伝えたことも明らかにした」
この内容は、先に行われた安部首相と文大統領との電話会談でも表明されたものである。
日韓慰安婦合意は国民が受け入れない、としている。
こうなると韓国政治のリーダーシップはどうなるかという根本的な問題に突き当たる。
いったん合意され、日本側は10億円を支払い、元慰安婦の女性の過半に支給済みである。
後は、韓国政府がウイーン条約に基づいて少女像を撤去する番である。
いわば、韓国が義務を果たす段階でそれを放棄したのだ。その挙げくに、「国民の意思で受け入れられない」を逃げ口上に使った。
こういう無節操な話が持ち込まれた日本は、今後どのように対応すべきか。
断固、拒否することは言うまでもないが、柳に風で聞き流しておくべきだろう。
再度、駐韓日本大使を帰国、ないし召還しても問題は解決しない。韓国政府が少女像を撤去する意思がないからだ。
そこで、日本の取るべき対抗手段を提案したい。
第一は、通貨スワップ協定の話し合いに応じない。韓国が義務を果たさずに合意協定自体を「なかったことにしよう」というのだから、通貨スワップ協定の会議も行わない。
困るのは韓国である。自国に不都合なことは協定破棄する国家とは、まともな交渉ごとは不可能である。信頼関係が根本的に崩れた以上、やむを得ない措置である。
第二は今後、米韓の間で外交的問題が起こっても一切、仲介するようなことをしない。
文大統領の外交戦略は、盧武鉉元大統領が行った「バランサー論」である。
つまり、韓国が米中の間に立って、どちらにも味方せずに韓国外交の独立性を守る、というもの。こんな虫のいいことが韓国の経済力でできる訳がない。
文大統領は盧武鉉氏の懐刀であったから、同じ外交路線を踏襲する可能性がある。
それが、韓国外交の独立性であるという甘い考えで打ち出されるかも知れない。
THAAD(超高高度ミサイル網)の設置も、前記の「バランサー論」から言えば、決定を撤回すると提起されかねない。
これが現実問題として出てくると、米韓関係は根本的に破壊される。トランプ大統領は感情の人である。米軍撤退論を臭わせてくるにちがいない。
そこで、韓国政治は大混乱に陥るであろう。
大統領選での文支持率は41%強。
残り59%弱は、「反文氏」である。
ここから想定されるのは、文大統領の弾劾である。国会の議席数は与党(共に民主党)が120,全議席数299の40%で少数与党だ。
ちなみに他党の議席数も見ておきたい。
共に民主党 120(革新)
自由韓国党 106(保守)
国民の党 40(中道)
正しい政党 20(保守)
正義党 6(中道)
無所属・その他 7
こうした政治状況において、文大統領は盧武鉉氏流の「バランサー論」に立てば、文氏の政治生命を絶つだけでなく、韓国を窮地に追い込むだろう。
極めて危険な策である。
『朝鮮日報』(5月14日付)は、「文在寅政権、韓米同盟と北朝鮮の核抑止が先決だ」と題する寄稿を掲載した。
筆者は、ユン・ドクミン前国立外交院長である。
この論文は、文大統領に拳々服膺(けんけんふくよう)してもらいたいほど、重要な内容である。
韓国外交を取り巻く環境は180度変わっている。
それに気づかずに、盧武鉉氏や金大中氏らの「太陽政策」(北朝鮮融和策)を真似した政策は失敗する。
文大統領はクリスチャンである。
しかも革新政党出身とあれば、人道的な政策に傾斜しがちだが、過去と同じことをすれば、米韓関係が破綻する状況だ。韓国にとって最も重要なことは、安全保障の確立である。
これが基本であれば、THAADで中国と妥協することは、韓国の死を意味する。
米国が座視せず、米軍の韓国撤退論で応じるにちがいない。
ここは、黙って米韓関係の強化に努めることが先決だろう。
この延長で考えれば、日韓関係も極めて重要なはずだ。
在韓米軍基地の後方支援部隊は、日本に駐留している。
この現実を直視すれば、「慰安婦問題は国民が受け入れないから白紙」などと言える義理ではない。もう少し「大人の対応」が求められる。
(1)「文在寅(ムン・ジェイン)政権はこれまでの政権で最悪の外部環境から始まることになった。
国粋主義・列強政治復活・同盟変化など国際秩序の構造変化が、北朝鮮の核・終末高高度防衛ミサイル(THAAD)・慰安婦といった懸案を越え、韓国外交の根本的挑戦となっている。
新政権の新たな外交パラダイム(認識の枠組み)が必要だ。
一時、韓国の外交は保守系政権であれ進歩(革新)系政権であれ中国の台頭に注目し、バランス外交を志向してきた。
韓国大統領が中国の戦勝記念日に天安門に立つという出来事すらあった。
だが、THAAD配備に対する報復や北朝鮮の核問題をめぐる状況はバランス外交の現実を示している。
THAADも慰安婦も北朝鮮の核も究極的には韓米関係に帰結する問題だ」
ここで、筆者が主張していることは極めて現実的な対応を提案している。
こうした見識の持ち主が、韓国の外相に就任すれば、韓国外交も少しは理念型から現実型へ変わるであろう。
注目すべきは、「THAADも慰安婦も北朝鮮の核も究極的には韓米関係に帰結する問題だ」と言い切っている点である。
つまり、米韓関係が不動の関係であれば、中国も北朝鮮も、背後の米国の存在が抑止力になることを言っているのだ。
日韓関係は、日米関係に吸収されているのが現実である。
慰安婦問題がシビアになっていた背景は、米国が韓国の立場を応援していたからだ。韓国が米国へ告げ口することで、日本は不利な立場に立たされた。
だが、15年12月の日韓慰安婦合意で、日米関係は大きく前進した。
日本が謝罪する形(10億円支払い)で決着させたことで米国は納得し、日米韓3カ国が一体になって中朝に対峙する関係を構築したと見てきた。
ところが、文大統領の出現で、この3カ国関係が振り戻しになりかねない。
米国は正直、文氏の大統領就任が迷惑な存在に感じているはずだ。
この歓迎されざる事実を冷静に受け止めるべきだろう。文氏は個人的に不快でも、韓国の安全保障問題として眺めれば、米韓関係が基軸であることを受け入れるほかあるまい。
(2)「このような問題を解く最も核心的な『てこ』(目的達成手段)は韓米同盟だ。
中国・日本・ロシアを相手にしている韓国外交の『てこ』はバランス外交ではなく韓米同盟であることを、そして韓国外交の根幹は堅固な韓米同盟であることを原点から再確認する必要がある。
そうした点で、文在寅大統領がトランプ大統領と初めて電話会談し、『韓米同盟は韓国の外交安保政策の根幹であり、今後もそうだろう』と強調したことは良いスタートだったと言える」
韓国外交の基本は、米韓関係にあると指摘している。
その通りであろう。
朝鮮は、李朝時代から外交の基本概念に欠けてきた民族である。
周囲の大国の影響を受けやすく、それぞれ派閥が形成されるパターンだ。
李朝末期は、日本・清朝・ロシアと3派に分かれ、互いに闘争するという「非愛国的」行動に走った。
結果的には、英米の支持の下に日韓併合になった。
本来は、内輪もめをやめて一本化すべきだが、争い続ける民族である。
今再び、それが起こっている。
中朝に接近するのでなく、米国との関係を密にする段階なのだ。その延長で、日韓関係を良好にすれば、米韓関係がうまくいく政治的な環境を認識しなければだめなのだ。
(3)「北朝鮮の核問題は急務だが、解決は容易でないことも認識しなければならない。
何よりも国民を北朝鮮の核の脅威から守ることができる圧倒的な抑止力を一日も早く備える必要がある。
韓国には依然として北朝鮮の核の脅威に対処できるような、これといった資産がない。
信頼できる抑止力があってこそ、余裕を持って平和的解決を推進できる。
また、南北関係にもこだわり過ぎるべきではない。北朝鮮は韓国のこれまでの政権が南北対話にどれだけ恋々としてきたのかをよく知っている。
北朝鮮は、太陽政策(対北朝鮮融和政策)を掲げていた金大中(キム・デジュン)政権さえ、ほぼ2年間にわたり相手にしなかった。
必要があれば北朝鮮の方から会おうと言ってくるはずだ」
北朝鮮の金独裁体制は、自己保身が最大目的になった政権である。
この独裁体制と話し合っても成果は上げられず、むしろ延命=核武装に手を貸すことになる。
そういう危険性を察知すれば、安っぽい「人道主義」を振りかざしたヒーローのような振る舞いは逆効果となろう。
米国トランプ政権が、過去の対北朝鮮交渉はすべて失敗であったと総括した。その意味がこれだ。
(4)「南北関係よりも重要な死活問題は多い。
韓国社会が直面している中産階級の崩壊・若者の失業・格差社会などの問題は先進民主主義国に共通した現象であり、グローバル化の構造的問題だ。
だから、韓国国内の処方だけでは絶対に解決できない。
グローバルな観点から外交的なアプローチが必要だ。
特に、グローバル・ガバナンス(国境を越えて問題解決に取り組む政治的相互作用)への参加を強化し、問題解決を模索しなければならない。
グローバル・ガバナンスで影響力のある国として浮上することが超不確実性時代に切実に求められる外交戦略だ」
韓国では、内政問題で行き詰まると南北統一問題を話題にするパターがある。
国民の関心をそらす効果があるのだ。
朴前大統領も突然に統一を言い出し、明日にも可能といった楽観ムードを振りまいた。
統一が民族の悲願とはいえ、金独裁体制が継続している限り不可能だ。
この現実を認識すれば、文大統領が選挙前に発言した「当選後、最初に金委員長に会いたい」という発言は軽率そのものである。
会えば、資金援助を要求されるだけだ。
外交は、ときに冷淡に振る舞い、相手の出方を見定めることも必要である。いつも「太陽政策」が成功する訳でない。文大統領はその認識が足りないのだ。
(2017年5月20日)
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-05-20 05:00:00
韓国特使、「慰安婦合意」受け入れ困難「米韓関係」へ波及か
日本は「大人の対応」で受け流し、シャトル外交復活へ合意
韓国大統領特使は訪日で、日韓政府間の慰安婦合意事項を受け入れないと発言した。韓国の政治はどうなっているのか。
国民が、感情的に受け入れられないから政府間の合意・協定を見直したい。こういう韓国政府の姿勢ならば、外交交渉は成り立たない。
韓国特使が、その非常識な話を日本へ持ってきたのだ。
『時事通信』(5月17日付)は、次のように伝えた。
「岸田文雄外相は17日、韓国の文在寅大統領の特使として来日した文喜相国会議員と外務省で会談した。
文氏は、慰安婦問題をめぐる日韓合意について、『韓国国民の大多数が情緒的に受け入れられない』と表明した。
文氏は18日に安倍晋三首相と会談し、文大統領の親書を手渡す。
外相との会談後、文氏が記者団に語ったもの。文氏は合意の見直しや再交渉には言及せず、歴史認識に関する過去の村山富市首相談話や河野洋平官房長官談話を基に、『賢明に克服していくよう努力しよう』と伝えたことも明らかにした」
この内容は、先に行われた安部首相と文大統領との電話会談でも表明されたものである。
日韓慰安婦合意は国民が受け入れない、としている。
こうなると韓国政治のリーダーシップはどうなるかという根本的な問題に突き当たる。
いったん合意され、日本側は10億円を支払い、元慰安婦の女性の過半に支給済みである。
後は、韓国政府がウイーン条約に基づいて少女像を撤去する番である。
いわば、韓国が義務を果たす段階でそれを放棄したのだ。その挙げくに、「国民の意思で受け入れられない」を逃げ口上に使った。
こういう無節操な話が持ち込まれた日本は、今後どのように対応すべきか。
断固、拒否することは言うまでもないが、柳に風で聞き流しておくべきだろう。
再度、駐韓日本大使を帰国、ないし召還しても問題は解決しない。韓国政府が少女像を撤去する意思がないからだ。
そこで、日本の取るべき対抗手段を提案したい。
第一は、通貨スワップ協定の話し合いに応じない。韓国が義務を果たさずに合意協定自体を「なかったことにしよう」というのだから、通貨スワップ協定の会議も行わない。
困るのは韓国である。自国に不都合なことは協定破棄する国家とは、まともな交渉ごとは不可能である。信頼関係が根本的に崩れた以上、やむを得ない措置である。
第二は今後、米韓の間で外交的問題が起こっても一切、仲介するようなことをしない。
文大統領の外交戦略は、盧武鉉元大統領が行った「バランサー論」である。
つまり、韓国が米中の間に立って、どちらにも味方せずに韓国外交の独立性を守る、というもの。こんな虫のいいことが韓国の経済力でできる訳がない。
文大統領は盧武鉉氏の懐刀であったから、同じ外交路線を踏襲する可能性がある。
それが、韓国外交の独立性であるという甘い考えで打ち出されるかも知れない。
THAAD(超高高度ミサイル網)の設置も、前記の「バランサー論」から言えば、決定を撤回すると提起されかねない。
これが現実問題として出てくると、米韓関係は根本的に破壊される。トランプ大統領は感情の人である。米軍撤退論を臭わせてくるにちがいない。
そこで、韓国政治は大混乱に陥るであろう。
大統領選での文支持率は41%強。
残り59%弱は、「反文氏」である。
ここから想定されるのは、文大統領の弾劾である。国会の議席数は与党(共に民主党)が120,全議席数299の40%で少数与党だ。
ちなみに他党の議席数も見ておきたい。
共に民主党 120(革新)
自由韓国党 106(保守)
国民の党 40(中道)
正しい政党 20(保守)
正義党 6(中道)
無所属・その他 7
こうした政治状況において、文大統領は盧武鉉氏流の「バランサー論」に立てば、文氏の政治生命を絶つだけでなく、韓国を窮地に追い込むだろう。
極めて危険な策である。
『朝鮮日報』(5月14日付)は、「文在寅政権、韓米同盟と北朝鮮の核抑止が先決だ」と題する寄稿を掲載した。
筆者は、ユン・ドクミン前国立外交院長である。
この論文は、文大統領に拳々服膺(けんけんふくよう)してもらいたいほど、重要な内容である。
韓国外交を取り巻く環境は180度変わっている。
それに気づかずに、盧武鉉氏や金大中氏らの「太陽政策」(北朝鮮融和策)を真似した政策は失敗する。
文大統領はクリスチャンである。
しかも革新政党出身とあれば、人道的な政策に傾斜しがちだが、過去と同じことをすれば、米韓関係が破綻する状況だ。韓国にとって最も重要なことは、安全保障の確立である。
これが基本であれば、THAADで中国と妥協することは、韓国の死を意味する。
米国が座視せず、米軍の韓国撤退論で応じるにちがいない。
ここは、黙って米韓関係の強化に努めることが先決だろう。
この延長で考えれば、日韓関係も極めて重要なはずだ。
在韓米軍基地の後方支援部隊は、日本に駐留している。
この現実を直視すれば、「慰安婦問題は国民が受け入れないから白紙」などと言える義理ではない。もう少し「大人の対応」が求められる。
(1)「文在寅(ムン・ジェイン)政権はこれまでの政権で最悪の外部環境から始まることになった。
国粋主義・列強政治復活・同盟変化など国際秩序の構造変化が、北朝鮮の核・終末高高度防衛ミサイル(THAAD)・慰安婦といった懸案を越え、韓国外交の根本的挑戦となっている。
新政権の新たな外交パラダイム(認識の枠組み)が必要だ。
一時、韓国の外交は保守系政権であれ進歩(革新)系政権であれ中国の台頭に注目し、バランス外交を志向してきた。
韓国大統領が中国の戦勝記念日に天安門に立つという出来事すらあった。
だが、THAAD配備に対する報復や北朝鮮の核問題をめぐる状況はバランス外交の現実を示している。
THAADも慰安婦も北朝鮮の核も究極的には韓米関係に帰結する問題だ」
ここで、筆者が主張していることは極めて現実的な対応を提案している。
こうした見識の持ち主が、韓国の外相に就任すれば、韓国外交も少しは理念型から現実型へ変わるであろう。
注目すべきは、「THAADも慰安婦も北朝鮮の核も究極的には韓米関係に帰結する問題だ」と言い切っている点である。
つまり、米韓関係が不動の関係であれば、中国も北朝鮮も、背後の米国の存在が抑止力になることを言っているのだ。
日韓関係は、日米関係に吸収されているのが現実である。
慰安婦問題がシビアになっていた背景は、米国が韓国の立場を応援していたからだ。韓国が米国へ告げ口することで、日本は不利な立場に立たされた。
だが、15年12月の日韓慰安婦合意で、日米関係は大きく前進した。
日本が謝罪する形(10億円支払い)で決着させたことで米国は納得し、日米韓3カ国が一体になって中朝に対峙する関係を構築したと見てきた。
ところが、文大統領の出現で、この3カ国関係が振り戻しになりかねない。
米国は正直、文氏の大統領就任が迷惑な存在に感じているはずだ。
この歓迎されざる事実を冷静に受け止めるべきだろう。文氏は個人的に不快でも、韓国の安全保障問題として眺めれば、米韓関係が基軸であることを受け入れるほかあるまい。
(2)「このような問題を解く最も核心的な『てこ』(目的達成手段)は韓米同盟だ。
中国・日本・ロシアを相手にしている韓国外交の『てこ』はバランス外交ではなく韓米同盟であることを、そして韓国外交の根幹は堅固な韓米同盟であることを原点から再確認する必要がある。
そうした点で、文在寅大統領がトランプ大統領と初めて電話会談し、『韓米同盟は韓国の外交安保政策の根幹であり、今後もそうだろう』と強調したことは良いスタートだったと言える」
韓国外交の基本は、米韓関係にあると指摘している。
その通りであろう。
朝鮮は、李朝時代から外交の基本概念に欠けてきた民族である。
周囲の大国の影響を受けやすく、それぞれ派閥が形成されるパターンだ。
李朝末期は、日本・清朝・ロシアと3派に分かれ、互いに闘争するという「非愛国的」行動に走った。
結果的には、英米の支持の下に日韓併合になった。
本来は、内輪もめをやめて一本化すべきだが、争い続ける民族である。
今再び、それが起こっている。
中朝に接近するのでなく、米国との関係を密にする段階なのだ。その延長で、日韓関係を良好にすれば、米韓関係がうまくいく政治的な環境を認識しなければだめなのだ。
(3)「北朝鮮の核問題は急務だが、解決は容易でないことも認識しなければならない。
何よりも国民を北朝鮮の核の脅威から守ることができる圧倒的な抑止力を一日も早く備える必要がある。
韓国には依然として北朝鮮の核の脅威に対処できるような、これといった資産がない。
信頼できる抑止力があってこそ、余裕を持って平和的解決を推進できる。
また、南北関係にもこだわり過ぎるべきではない。北朝鮮は韓国のこれまでの政権が南北対話にどれだけ恋々としてきたのかをよく知っている。
北朝鮮は、太陽政策(対北朝鮮融和政策)を掲げていた金大中(キム・デジュン)政権さえ、ほぼ2年間にわたり相手にしなかった。
必要があれば北朝鮮の方から会おうと言ってくるはずだ」
北朝鮮の金独裁体制は、自己保身が最大目的になった政権である。
この独裁体制と話し合っても成果は上げられず、むしろ延命=核武装に手を貸すことになる。
そういう危険性を察知すれば、安っぽい「人道主義」を振りかざしたヒーローのような振る舞いは逆効果となろう。
米国トランプ政権が、過去の対北朝鮮交渉はすべて失敗であったと総括した。その意味がこれだ。
(4)「南北関係よりも重要な死活問題は多い。
韓国社会が直面している中産階級の崩壊・若者の失業・格差社会などの問題は先進民主主義国に共通した現象であり、グローバル化の構造的問題だ。
だから、韓国国内の処方だけでは絶対に解決できない。
グローバルな観点から外交的なアプローチが必要だ。
特に、グローバル・ガバナンス(国境を越えて問題解決に取り組む政治的相互作用)への参加を強化し、問題解決を模索しなければならない。
グローバル・ガバナンスで影響力のある国として浮上することが超不確実性時代に切実に求められる外交戦略だ」
韓国では、内政問題で行き詰まると南北統一問題を話題にするパターがある。
国民の関心をそらす効果があるのだ。
朴前大統領も突然に統一を言い出し、明日にも可能といった楽観ムードを振りまいた。
統一が民族の悲願とはいえ、金独裁体制が継続している限り不可能だ。
この現実を認識すれば、文大統領が選挙前に発言した「当選後、最初に金委員長に会いたい」という発言は軽率そのものである。
会えば、資金援助を要求されるだけだ。
外交は、ときに冷淡に振る舞い、相手の出方を見定めることも必要である。いつも「太陽政策」が成功する訳でない。文大統領はその認識が足りないのだ。
(2017年5月20日)