2017.5.21 17:00
更新
【iRONNA発】
文政権の経済政策 どん底の韓国経済はこれからどうなる
田中秀臣氏
韓国大統領に就任した文在寅(ムン・ジェイン)氏は、厳しい船出を強いられている。
緊張が続く北朝鮮情勢、慰安婦問題をめぐる日本との関係、どん底の韓国経済…。
内外で文政権の姿勢を問う声が高まる。今回はその中でも文政権の経済政策を中心に展望してみた。(iRONNA)
文政権の経済政策の課題として、朴槿恵(パク・クネ)前政権が倒れた要因の一つともいえる、若年層を中心にした雇用の悪化をどうするのか、というのがある。
さらに、長引く雇用悪化により社会の階層化、分断化が拡大している事実も忘れてはいけない。
韓国の15歳~29歳までの若年失業率は11%超に上る。全体の失業率は直近では4・2%であり、完全失業率が2%台後半と考えられるので、高推移の状態であることは変わらない。
文政権の経済政策は、基本的に雇用改善に力点を置くものになっている。
もちろん、政権発足から間もないのでその実体は不明だ。
だが、新しい雇用を公共部門で81万人、民間部門では50万人を生み出す、さらに最低賃金も引き上げるという文政権の公約は、主に財政政策拡大と規制緩和を中心にしたものになりそうだ。
リフレ政策の不在
ただ、増税の選択肢は限られたものになるだろう。
政府の資金調達は国債発行を中心にしたものになる。
政府債務と国内総生産(GDP)比の累増を懸念する声もあるが、完全雇用に到達していない韓国経済の前では、そのような懸念は事態をさらに悪化させるだけでしかない。
不況のときには、財政政策の拡大は必要である。ただし文政権の財政政策、というよりも経済政策の枠組みには大きな問題がある。
それは簡単にいうと、「韓国版アベノミクス」の不在、要するにリフレ政策の不在だ。
リフレ政策というのは、現在日本が採用しているデフレから脱却して、低インフレ状態を維持することで経済を安定化させる政策の総称である。
韓国でもインフレ目標が採用されている。
対前年比で消費者物価指数が2%という目標値である。一方、韓国の金融政策は、政策金利の操作によって行われている。
具体的には、政策金利である7日物レポ金利を過去最低の1・25%に引き下げており、その意味では金融緩和政策のスタンスが続く。
実際、韓国の経済状況をみると、最近こそ上向きになったという観測はあるものの、依然完全雇用にはほど遠い。
さらに財政政策を支えるために、より緩和基調の金融政策が必要だろう。
韓国経済の現状を見ると、高い失業と極めて低い物価水準が同居する「デフレ経済」のため、金融政策の大胆な転換が必要条件である。
だが、文政権に金融政策の大きな転換の意識はない。
むしろ民間部門を刺激する政策として、財閥改革などの構造改革を主眼に考えているようだ。
だが、そのような構造改革はデフレ経済の解決には結びつかない。
慰安婦問題の再燃
韓国の歴代政権が、超金融緩和政策に慎重な理由として、ウォン安による海外への資金流出を懸念する声もある。
しかし超金融緩和政策は、実体経済の改善を目指すものだ。
さらに無制限ではなく、目標値を設定しての緩和である。
日本でもしばしば聞かれる「超金融緩和をするとハイパーインフレになる」というトンデモ経済論とあまり変わらない。
私見では、リフレ政策採用による韓国の急激な資金流出の可能性は低いと思うが、もし「保険」を積み重ねたいのならば、日本など外貨資金が潤沢な国々との通貨スワップ協定も重要な選択肢だろう。
だが、現状では慰安婦問題により日本との協議は中止している。
それでも保険はあるにこしたことはない。
特にリフレ政策を新たに採用するときには、市場の不安を軽減させるため、日韓通貨スワップ協定が相対的に重要性を増す。
その意味では、慰安婦問題を再燃させる政策を文政権がとるのは愚かなだけであろう。
もっとも、日本側からすれば相手の出方を待っていればいいだけである。
ただし、文政権がリフレ政策を採用する可能性は今のところないに等しい。
その意味では、韓国経済の長期停滞、特に雇用問題が本格的に解消する可能性は低い。
◇
iRONNAは、産経新聞と複数の出版社が提携し、雑誌記事や評論家らの論考、著名ブロガーの記事などを集めた本格派オピニオンサイトです。各媒体の名物編集長らが参加し、タブーを恐れない鋭い視点の特集テーマを日替わりで掲載。ぜひ、「いろんな」で検索してください。
◇
【プロフィル】田中秀臣 たなか・ひでとみ 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者。昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。
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【iRONNA発】
文政権の経済政策 どん底の韓国経済はこれからどうなる
田中秀臣氏
韓国大統領に就任した文在寅(ムン・ジェイン)氏は、厳しい船出を強いられている。
緊張が続く北朝鮮情勢、慰安婦問題をめぐる日本との関係、どん底の韓国経済…。
内外で文政権の姿勢を問う声が高まる。今回はその中でも文政権の経済政策を中心に展望してみた。(iRONNA)
文政権の経済政策の課題として、朴槿恵(パク・クネ)前政権が倒れた要因の一つともいえる、若年層を中心にした雇用の悪化をどうするのか、というのがある。
さらに、長引く雇用悪化により社会の階層化、分断化が拡大している事実も忘れてはいけない。
韓国の15歳~29歳までの若年失業率は11%超に上る。全体の失業率は直近では4・2%であり、完全失業率が2%台後半と考えられるので、高推移の状態であることは変わらない。
文政権の経済政策は、基本的に雇用改善に力点を置くものになっている。
もちろん、政権発足から間もないのでその実体は不明だ。
だが、新しい雇用を公共部門で81万人、民間部門では50万人を生み出す、さらに最低賃金も引き上げるという文政権の公約は、主に財政政策拡大と規制緩和を中心にしたものになりそうだ。
リフレ政策の不在
ただ、増税の選択肢は限られたものになるだろう。
政府の資金調達は国債発行を中心にしたものになる。
政府債務と国内総生産(GDP)比の累増を懸念する声もあるが、完全雇用に到達していない韓国経済の前では、そのような懸念は事態をさらに悪化させるだけでしかない。
不況のときには、財政政策の拡大は必要である。ただし文政権の財政政策、というよりも経済政策の枠組みには大きな問題がある。
それは簡単にいうと、「韓国版アベノミクス」の不在、要するにリフレ政策の不在だ。
リフレ政策というのは、現在日本が採用しているデフレから脱却して、低インフレ状態を維持することで経済を安定化させる政策の総称である。
韓国でもインフレ目標が採用されている。
対前年比で消費者物価指数が2%という目標値である。一方、韓国の金融政策は、政策金利の操作によって行われている。
具体的には、政策金利である7日物レポ金利を過去最低の1・25%に引き下げており、その意味では金融緩和政策のスタンスが続く。
実際、韓国の経済状況をみると、最近こそ上向きになったという観測はあるものの、依然完全雇用にはほど遠い。
さらに財政政策を支えるために、より緩和基調の金融政策が必要だろう。
韓国経済の現状を見ると、高い失業と極めて低い物価水準が同居する「デフレ経済」のため、金融政策の大胆な転換が必要条件である。
だが、文政権に金融政策の大きな転換の意識はない。
むしろ民間部門を刺激する政策として、財閥改革などの構造改革を主眼に考えているようだ。
だが、そのような構造改革はデフレ経済の解決には結びつかない。
慰安婦問題の再燃
韓国の歴代政権が、超金融緩和政策に慎重な理由として、ウォン安による海外への資金流出を懸念する声もある。
しかし超金融緩和政策は、実体経済の改善を目指すものだ。
さらに無制限ではなく、目標値を設定しての緩和である。
日本でもしばしば聞かれる「超金融緩和をするとハイパーインフレになる」というトンデモ経済論とあまり変わらない。
私見では、リフレ政策採用による韓国の急激な資金流出の可能性は低いと思うが、もし「保険」を積み重ねたいのならば、日本など外貨資金が潤沢な国々との通貨スワップ協定も重要な選択肢だろう。
だが、現状では慰安婦問題により日本との協議は中止している。
それでも保険はあるにこしたことはない。
特にリフレ政策を新たに採用するときには、市場の不安を軽減させるため、日韓通貨スワップ協定が相対的に重要性を増す。
その意味では、慰安婦問題を再燃させる政策を文政権がとるのは愚かなだけであろう。
もっとも、日本側からすれば相手の出方を待っていればいいだけである。
ただし、文政権がリフレ政策を採用する可能性は今のところないに等しい。
その意味では、韓国経済の長期停滞、特に雇用問題が本格的に解消する可能性は低い。
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iRONNAは、産経新聞と複数の出版社が提携し、雑誌記事や評論家らの論考、著名ブロガーの記事などを集めた本格派オピニオンサイトです。各媒体の名物編集長らが参加し、タブーを恐れない鋭い視点の特集テーマを日替わりで掲載。ぜひ、「いろんな」で検索してください。
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【プロフィル】田中秀臣 たなか・ひでとみ 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者。昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。