日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研太字 (Ctrl+B)究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
中国、「習政権2期目」過剰債務処理は待ったなし「具体策は?」
2017-10-20 05:00:00
人民銀行総裁の苦悩
債務償却へ二つの道
第19回共産党大会で習政権の2期目がスタートする。これまでの5年間は、反腐敗闘争という名の下で、江沢民一派との闘争を続け、ようやくその目途がついた。
この間、無理を重ねた債務に依存する経済成長が、過剰債務を抱え込んでしまった。
習近平氏による、政権維持の「政治コスト」とも言える不条理な債務増加である。
これからの習政権2期目では、政敵を一掃した後だけに気兼ねすることなく、過剰債務整理=経済成長率減速に取り組まざるを得ない状況に追い込まれる。
こういう問題意識の反映か、周小川中国人民銀行総裁は、悲痛な発言をするほどになっている。
『ロイター』(10月9日付)は、次のように語った。
「中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、中国は引き続き自国経済を開放し、為替制度の改革を行うと同時に、資本勘定の管理を緩和する必要があるとの考えを示した。
同総裁は中国の経済誌『財経』のインタビューで、改革のタイミングは非常に重要で、改革実施の機会を逸すればコストが膨らむ可能性があるとの考えを示したもの」
現在のように、外貨準備高3兆ドル台を維持すべく、資本勘定の管理=資本規制によって資金流出を抑えていることは、中国経済をさらに不健康な状態へ追い込んでいる。
過剰貯蓄が国内に滞留して、不動産投機などのバブル資金になっているからだ。
こうした犠牲を払って維持する外貨準備高3兆ドル台が、いかほどの意味を持つのか。
中国経済は日々、悪化の道を辿っている。こうした危機感から、周氏は、「改革実施の機会を逸すればコストが膨らむ可能性がある」と言い切ったものだ。
人民銀行総裁の苦悩
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月12日付)は、「見え始めた中国経済改革の行方」と題する社説で、次のように指摘している。
この社説は、中国人民銀行総裁周氏の抱く中国経済への危機感を率直に述べたことに、全面的な賛意を表したものだ。
周氏の発言内容は、前記の『ロイター』記事に紹介した通りである。
周氏は、ちょうど5年前に非公式発言で重大な事実を指摘していた。
それは、中国の金融政策に対して、指導部から相当の圧力がかかっていたと暴露したもの。このブログでも紹介した。
周氏は、中国の不動産バブルが金融政策の失敗によって引き起こされた、とはっきり指摘している。
当時、「ここまで不動産バブルが悪化したのは金融政策への干渉による」と言ってのけたのだ。この裏には、周氏が人民銀行総裁再任はないであろうという、「気の緩み」が言わせたと解釈されていた。
今回の発言は、もはや3回目の総裁就任は年齢的にもあり得ない。そういう意味では、氏の「遺言」的なものでもある。
(1)「中国での経済改革を巡る議論が一気に関心を集めている。
中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁が10月9日、経済再編には不可欠との理由から、貿易自由化の促進と資本規制の撤廃を求めたのだ。
共産党大会を目前に控える中国にとって、これは大きな節目になるかもしれない。
周総裁は正しい。
中国経済が高水準の貯蓄と投資に長年頼ってきた体質を改めるには、交換可能通貨、すなわち人民元が鍵を握るのは確かだ。
資本規制は、貯蓄を国内の金融システムに滞留させ、資本コストを押さえ込み、さらに家計所得を犠牲にして投資を支えるものだ」
中国の対GDP比の貯蓄率は、2010年の50%台をピークにして低下しているが、それでも46%(2016年)と高水準である。
約16%ポイントの貯蓄率は現在の成長率に比べて、過剰とされている。
本来ならば、この過剰貯蓄分は海外で運用されるのがベストの政策である。
それが、政府の外貨準備高3兆ドル台維持という、政治的なメンツが働いて資本規制が行なわれている。
資本規制=外貨準備高3兆ドル台維持という間違った政策が行なわなければ、国内金利は上昇して、家計はより高い金利を手にできたから、不動産投機にのめり込む必要性が薄らいだはずだ。
また、過剰貯蓄が国内に徘徊しないので、不動産投機の度合いが減ったであろう。
要するに、中国政府は過剰貯蓄を国内に押しとどめて、海外へはメンツを優先して資本規制してきた。
その裏には、習近平氏の「二期目の政権」確立という思惑が優先し、国民生活を犠牲にしてきたことは疑いない。
(2)「こうした一連の流れ『金融抑圧』と呼ばれ、この10年間に融資が猛烈な勢いで拡大した一因となった。
中国経済が抱える債務総額は国内総生産(GDP)比280%の規模まで膨らんだとの推計もある。
米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスとS&Pグローバル・レーティングは今年、中国の国債格付けを引き下げた。
理由として、借り入れが急ピッチで増えていることを挙げたが、そうした状況は経験則で言えば金融危機につながる。
これだけの債務が満期を迎えた場合に中国に及びそうな影響としては、経済成長の減速や実質賃金の停滞が考えられる。
1990年代の日本の状況とうり二つだ。中国で投資リターンが低下している背景には、過剰生産能力に苦しむ産業が増えていることがある」
ここでは、「金融抑圧」という言葉が出てくるが別段、難しいことを言っている訳でない。
つまり、金利を人為的に引下げることが「金融抑圧」である。
この言葉が登場する前は、「人為的な低金利政策」と表現されていた。
私は、こちらの方になじみがあって、よく使ってきた。
さて、この「金融抑圧」は、貸出金利を実勢金利よりも引下げたので、銀行は猛烈な貸出競争に走った。
「信用創造」が活発に行なわれたのだ。この点では、日本の平成バブルを生み出した金融的な背景と、全く同じであることに気づいていただきたい。
こうした過剰融資によって、企業は一斉に事業を拡大した。
これが、中国の高い経済成長率の裏側にある金融的な側面である。
この貸出急増が、やがて不良債権化してきたのだ。これも日本が経験した道である。
そして今、金融機関は不良債権発生に懲りて、「貸し渋り」に入った結果、「信用収縮」「信用崩壊」が起こっている。
これも、日本が経験した通りである。
要するに、資本規制下での過剰貯蓄=金融抑圧=過剰貸出=不良債権=信用収縮という一連の過程は、日中で全く同じであり判で押したような過程を歩んでいる。
日中は、奇しくも「不動産バブルの双子」である。中国は、日本の失敗を学ばなかった。
(3)「中国政府は、消費主導の経済に移行すると同時に生産性の伸びを高める必要があることは承知している。
近年では、一部の工場を閉鎖に追い込み、支払い能力がない『ゾンビ企業』への融資をやめるよう銀行に命じる一方、研究・開発(R&D)に資金を投じてきた。だが、民間企業に比べて効率性も革新性も劣る国有企業を重視する姿勢に変わりはない」
消費主導経済とは、GDPの7割前後が個人消費経済を指している。
中国は、固定資産投資主導経済である。
対GDP比で約50%という、信じがたい高レベルを維持してきた。
その分が、個人消費にしわ寄せされたのだ。
固定資産投資主導経済とは、インフラや企業の設備投資などを積極的に行ない、これが、GDPを恒常的に10%台へ押し上げた要因である。
こうして、個人消費は今なお40%にも達しない経済が誕生した。
なぜ、こうした無理を重ねたのか。国民から選挙で選ばれた政権でないことにある。
正統性を維持するには、高い経済成長率が唯一の手段である。
共産党革命を賛美する人々は、その後の政権がいかに無理な政策運営を強いられるか。
そういう裏舞台に目が行かないのだ。
こういうタイプは、学生時代に抱いた単純で表面的な「理想追い人」であろう。もっとリアリストに徹して、歴史の裏表を知るべきだろう。
(4)「周氏は、資本を自由化すれば、政府が細かく管理しなくても企業が自律できるようになることを見抜いている。
同氏は2015年に国内金利の自由化に挑んだが、資本規制によって金利は依然として人為的に低く抑えられている。
中国の貯蓄者が海外でより高いリターンを追求できるようになれば、企業は市場価格での資金調達を余儀なくされるだろう。
また、銀行は預金を集めるために預金金利を引き上げざるを得なくなり、これは消費を刺激することにもつながる」
市場機構は、暴走しない限り経済の矛盾を自律的に調整してくれる。
価格がシグナルになって、市場が需給を調整する。
政府は、市場が暴走すを早めに発見して調整する役割だ。
周人民銀行総裁は、この市場機能の果たす役割を十分に理解している。
無理解者は、習近平氏を初めとする中国最高指導部である。高い経済成長率が、唯一の政策目標に収まってきた。
(5)「当然ながら、中国政府は人民元が投機筋の攻撃を受けていないときに、資本の自由化を進めようとするだろう。
周氏の発言が驚きを呼んでいるのは、中国政府がこの3年間、資本逃避と戦ってきたからだ。
15年後半に月間の資金流出額が1000億ドルを超えたことを受けて、政府は資本規制を強化した。
今年に入り世界の金融情勢が好転し、ドルが下落したことで人民銀行には金融緩和の余地が生まれている。一部では資金流出が続いているが、元の対ドル相場は上昇し、中国の外貨準備高は増加に転じた」
現在の中国は、資本規制という高い堰(せき)が築かれて、人民元相場も堅調である。
為替投機筋もなりを潜めている。この際、意表を突く形での資本規制解除や、変動相場制移行という思い切った政策へ転換する、またとない機会でもあろう。習氏は、このチャンスを生かすかどうか。習氏以外には、誰にも分からない。
習氏の二期目の政権では、過剰債務の処理が最大の課題になる。
これを実現するには、「デレバレッジ」(債務削減)の先行である。
新規貸出を抑制して既貸出の回収という荒療治である。
当然、経済成長率は減速する。
これによる社会不安は、盤石の構えである治安当局に取り締まらせる。こういう体制整備はすでに完了した。
となると、習氏は何ら恐れることなく過剰債務整理に着手できる体制になっているのだ。後は、習氏の決断次第であろう。
(6)「この休息(注:人民元相場の安定や外貨準備高の微増)は長続きしないかもしれず、中国政府は一刻の猶予も許されないとの周氏の見方は正しい。
来年3月に退任予定の同氏は、改革志向のテクノクラートの意見を代弁しているだけなのかもしれない。
しかし、今回周氏が打ち上げた信号弾はおそらく、最高指導者の習近平国家主席が今月の共産党大会で権力基盤を固めた後、経済不均衡の問題に対処しようと考えていることを示しているとみられる。
これは短期的にリスクをもたらすものの、長期的には中国の経済成長と繁栄を促進するだろう」
習氏が二期目の政権発足後、周氏の危機感を真っ正面から受け取り、短期的な痛みをこらえて、長期の経済発展と繁栄に寄与する大手術に踏み切れるか。習氏の手腕が問われる。
第三期目で大統領制を目指すとすれば、2000年までに成果を上げなければなるまい。ただ、警察力だけ整備して反対派を黙らせるという強権発動では「大統領」は無理な話となろう。
債務償却へ二つの道
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月12日付)は、「中国の新5カ年計画、主役は再び国家へ」と題して次のように論じた。
中国企業の抱える負債の多くは、国有企業部門の債務である。
政府のインフラ投資が、国有企業の債務行為で行なわせた結果である。
本来は、財政資金を投じるべきところを、見栄を張って国家財政赤字を少なく見せるという欺瞞行為である。
どこまでも、メンツを重んじる中国らしいやり方である。
こうして発生した過剰債務の処理は、最終的に政府の責任で処理すべきである。
こういうアイデアが、この記事では提案されている。つまり、財政資金の投入である。
そうなると、今後の中国財政が、「火の車」になることは不可避である。これまでの高い経済成長の尻ぬぐいが始まる。
(7)「中国は活気ある民間部門に経済成長を依存している一方、政治的アジェンダを推し進め、社会を統制し、経済政策を実現させるためには国有企業は欠かせないツールだ。
国有企業の財務状況が悪化すれば国の経済に重くのしかかるだけでなく、共産党の支配が弱まることにもつながる。
民間部門がすでに同国経済の70%を占めるなか、習氏や側近らは鍵となる国有企業の市場支配力を高め、債務負担を軽減させるなど、彼らを再び強化する方針を決めている」
中国政府はこれまで、二つのマジックを使ってきた。土地の国有制と国有企業である。
一つは、地価の値上がりによって、膨大な売却益を歳入源に使ってきた。
もう一つは、国有企業に債務を背負わせてインフラ投資を敢行し、GDPを好きなだけ押し上げる魔法使いであった。
これら二つの魔法がもはや限界に達している。「年貢の納め時」になったのだ。
地価のさらなる押し上げ行為は不可能である。購買力を上回る地価高騰はあり得ない。
国有企業の負債は、最終的に財政部門の負担になってくる。
一時の便法で国有企業を利用してきたが、これも限度を超えている。国有企業の改革とは、国有企業の抱える債務の整理という意味もある。
(8)「中国の企業債務はその大半が国有企業のものだが、 JPモルガン によれば、第2四半期には対国内総生産(GDP)比で減少を見せた。
これは2011年以降で初めてだ。その代償として、中国経済の成長スピードは鈍化した。
足下で株価が堅調な中国の各銀行は、肥大化した国有企業を今後も支え続けなければいけないだろう。また、これら国有企業は国内に巨大資本を必要としているため、人民元の変動相場制移行は遠い夢であり続ける」
国有企業の債務が減った理由は、不良債務を資産管理会社に売り渡した結果である。
帳簿上の債務は減っても、実質的には債務の「移し替え」に過ぎない。
中国は、こうした目先を変える「目くらまし」が得意である。
騙されてはだめなのだ。国有企業の抱える債務には、海外からの負債も多いので、人民元相場安が見込まれる変動相場制移行は困難である、と指摘している。
人民元は、IMFのSDR(特別引き出し権)に昇格したものの内実を伴わず、真の国際通貨への衣替えは不可能な状態だ。
中国は、SDR入りを果たした後、資本規制撤廃や変動相場制移行という「義務」を果たさず、食い逃げ状態にある。
(9)「債務には2つの対処方法がある。政府が清算するか、当該企業が民間に資産を売ったりするなどして清算するかだ」
国有企業の抱える債務の最終処理には、二つの道しかない。
一つは、政府が債務を引き取る、つまり、財政資金の投入で償却する。
もう一つは、国有企業の資産を売却して、債務返済に充当することである。
習政権2期目で、これらの道のいずれかが実行を迫られる。もはや、債務棚上げという逃げ道は塞がれている。
(2017年10月20日)