経済発展できない文化要因
汚職認識度で世界100位
第19回党大会で、習近平氏が21世紀半ばまでの「大風呂敷」を広げて見せた。すなわち、次のようなものだ。
① 2035年までに近代化された社会主義国家を建設する。
② 2049年までに米国に対抗できる一流国家を建設する。
習氏の長期統治を前提にした青写真であろう。
だが、中国共産党政権創立100年の2049年、米国に対抗できる経済・軍事・文化などを蓄えた世界強国の夢は実現できるのか。
率直に言って、その可能性はゼロであろう。
習氏は、経済発展の原動力が何であるかを認識していないようだ。
労働力と技術力のほかに経済制度が、経済発展の基盤にほかならない。
経済制度とは、市場ルールに則ったもので、政府干渉を極力、排除して民間企業の創意工夫が原点になっている。
現在、先進国とされる諸国は全て市場経済ルールが基本である。
この裏には、民主主義という普遍的な価値観が認められる。
この事実は先験的なものでなく、試行錯誤によってたどり着いた結果である。
中国は、あくまでも「中国的社会主義」という一党支配を継続する意志であり、先進国のような政治制度の採用を拒否している。
中国は、独裁体制下で米国と肩を並べる「強国」に発展できるはずがない。
経済発展できない文化要因
中国には、資本主義的経済発展できる素地のない哀しい現実がある。
資本主義経済は、信仰心に裏付けられた経済倫理が不可欠である。
売買という契約は、必ず履行される保障があって成り立つものだ。
その契約概念は、市民社会という自主的な相互支援の組織が基本になっている。
中国4000年の歴史には、一度も市民社会の経験がなく、「上意下達」という上からの一方的な命令・指示に従って動かされてきた。
住民が自主的に統治した歴史を持たない社会である。
中国は、市民社会を基盤とする自主的なルールが存在せず、上からの命令・指示しか与えられなかったゆえに、常に脱法行為が用意されてきた。
「汚職」はその最たるケースである。
「人縁」を使って抜け駆けを行なう。
「上に政策あれば、下に対策あり」で抜け穴探しに狂奔してきた。
この悪しき習慣は今なお生き続けている。
「汚職」の蔓延が、中国の経済と社会の発展を蝕んでいる。
これは生活のなかに組み込まれたものだけに、悪しき文化という側面になっている。
この歴史は、秦の始皇帝が中国を統一した2200年前から続いているもの。
習近平氏がしゃかりきになって取り締まっても根治は不可能だ。
中国人の血となり肉なっている以上、楽をして金儲けできる汚職に手を染めることは防げない。
財産形成に異常なまでの関心を持つ中国社会である。
習氏がいくら汚職防止に励んでも、習氏がその任を退けば、元の木阿弥であること請け合いである。
私は、汚職を希薄な経済倫理と表裏一体のものと理解している。
これは、経済発展において最大のブレーキである。
汚職が、公正な競争を阻害するからだ。
この汚職が、儒教倫理の社会に根付いていることに理由がある。
儒教倫理自体が旧習墨守であり、古い秩序を守ることが鉄則であるからだ。
多分、身分の下の者が目上の者に貢ぎ物をする習慣が、やがて賄賂となって定着したのであろう。
ことほど左様に、中国では古い仕来りから脱却できない社会である。
共産党革命自体も、中国伝統の「易姓(えきせい)革命」の一つである。
中国の「革命」は、西欧で意味する「過去との断絶」の革命でない。
易姓革命と言って、王朝が変わるだけに過ぎず、過去との連続性が特色である。
歴代の王朝で元が民になり、その民が清になったという変化が、現在は共産党にとって代わられただけである。
だから、王朝時代と同様に、国民に選挙権が与えられず、共産党独裁政権である。
習氏は、このことについて平然としており、「中国式社会主義」と呼んでいる。
さも、中味が変わったごときイメージを打ち出しているが、それは欺瞞そのものである。
GDP世界2位の中国が、未だに自由選挙も行なわずにいるのか。その背景には必ず、文明的な要因が潜んでいるはずだ。それを突き止めなければならない。
ここで、私は英国の歴史家、アーノルド・トインビー(1889~1975年)の著作を取り上げて、中国の復古主義の原点を見定めたい。
これを見れば、中国の「宿痾」を知ることができ、その改革が不可能であろう。
トインビーは、著作『試練に立つ文明』(1948)において、次のように指摘している。以下の記事は、私のブログ(2014年12月17日)を採録した。
「中国は、英国の歴史家アーノルド・トインビーが分析したように『狂信派』(ゼロット)に属する。
異なる文明に遭遇したとき、それに挑戦せずに逃避して自らの文明に閉じこもる保守派だ。
4000年の歴史を持ちながら、今なお専制政治から抜け出せない臆病の原因は、新しい文明に挑戦せずに逃げてしまうことが理由である」
「日本は、このゼロット派の対極にある『ヘロデ派』である。
異文明に遭遇したとき挑戦して、そこから問題解決のヒントを得る。勇敢なタイプである。
明治維新、太平洋戦争敗戦という大きな歴史的な変曲点を傷つきながら乗り越えてきた。
現在は、『アベノミクス』である。世界最初の少子高齢化社会が、いかに経済的活力を取り戻すか。実験に取り組んでいる。
今回の衆院選挙は、この改革断行にあたって執り行われた最後の『政治的儀式』である。この意味を理解しなければなるまい」
「中国は、『中華帝国』の殻からどうしても抜け出せない宿命を負っている。
それは、『狂信派』ゆえに、民主政治への挑戦が恐怖に満ちており、一歩も踏み出せないのである。
共産党政権を失うのが怖い。
共産党天下が、自らの利益になるから権益を捨てたくないだけである。
その点、明治維新の下級武士は偉大だった。
支配階級としての既得権益を投げ捨て、日本人という民族全体に奉仕した。
中国は常に汚職が付きまとい、自己利益が優先される社会である。
日本が清廉であるのは、目先の利益で動かない社会構造になっているからだ。これが、ゼロット(中国)とヘロデ(日本)の根本的な相違点である」
以上の私の分析によれば、21世紀後半に中国が米国と肩を並べる「強国」になる文明史的な基盤を欠いていることが分かるであろう。
中国は、鄧小平の「改革開放」(1978年)以来、超高度成長を続けてきた。
この裏には、「一人っ子」政策の開始(1979年)によって、
総人口に占める「生産年齢人口」(15~59歳)比率の急増が、
一挙に労働力人口を増やして、GDPを押し上げた。
この「人口ボーナス期」が2010年まで続いたのだ。
中国の急成長は、人口要因によって100%説明可能である・
だが、2011年以降の「生産年齢人口比率」は低下局面にある。
いわゆる「人口オーナス期」に入っている。
労働力減少は、GDP成長率を押し下げるのだ。
現に、経済成長率は下降している。これを補うには、制度改革を含めた「イノベーション」が不可欠である。
だが、期待薄である。中国が、前記の「ゼロット派」で守旧派であることだ。
市場経済に恐れをなす中国政府が、早急な過剰債務の解消に手をつける望みは薄い。「改革よりも安定重視」という政策運営が予測されるからだ。
汚職認識度で世界100位
中国社会の経済倫理が、いかに低いかを証明するものが汚職である。
非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル(本部・独ベルリン)」が2014年12月、世界175カ国・地域の「汚職ランキング」を発表した。
正式には、「腐敗認識指数ランキング」と呼ばれているものだ。これによると、中国は100位である。
中国のGDPは世界2位。
世界汚職ランキングが100位。
このギャップの大きさに、誰でものけぞってしまうであろう。
国家として恥ずかしいという思いがないのだろう。
「猫に鰹節」、「魚心あれば水心」の喩えの通り、金儲けの臭いがすれば、理性を忘れて吸い寄せられる。
人間としてこれほど恥ずかしいことがあるだろうか。
それでも相変わらずの「大言壮語」(ほら吹き)を続けている。習氏は、21世紀に「世界強国」と目標を立てるが、自分の足許をしかと見つめるべきなのだ。
中国は、世界汚職ランキングで2013年の80位から14年は100位へと大幅な後退をした。
笛や太鼓で騒いだ「反腐敗闘争」でもランキングの順位を落とす結果に終わった。
問題の根がどれだけ深いかを示していおる。
次に、「清潔度の高い」国々を紹介したい。
1位 デンマーク
2位 ニュージーランド
3位 フィンランド
4位 スウェーデン
5位 ノルウエー
5位 スイス
12位 ドイツ
14位 イギリス
15位 日本
17位 香港
17位 アメリカ
35位 台湾
43位 韓国
100位 中国
デンマークなど北欧諸国が「トップ5」に入っている背景には、プロテスタントの信仰が厳しくモラルを規制していると考えられる。
ドイツ・イギリス・アメリカもこの流れに入っている。
日本の15位は、「武士道精神」に基づくものであろう。
それは、「武士は食わねど高楊枝」という諺に現れている。
腹を空かしても、不条理なカネには手を出さない。
人間としての尊厳を守ることが、いかに重要かを諭したもの。
中国の底知れぬ「腐敗構造」と、日本は完全に世界を異にしている証明だ。
日中の価値観は、180度も違うことに注意していただきたい。日本人が、中国に違和感を持つ理由の一つはこれだ。
香港が17位であるのは、英国の植民地であったことの影響であろう。
この同じ植民地の線上には、台湾(35位)と韓国(43位)がある。
日本の植民地による近代教育の導入が、中国の伝統的な腐敗構造を薄めさせたと言える。
戦前に日本式教育を受けた台湾人は、「日本の先生が、嘘を言ってはいけないと熱心に教育してくれた」。
私が台湾旅行した際、現地の年配ガイドはこう懐かしみを込めて振り返るのだ。
日本は、韓国と台湾に対して、近代教育を伝授した。今日の経済発展の基礎をつくったことは間違いない。
『大紀元』(10月11日付)は、「習近平政権、5年間で200万人以上汚職幹部を処分」と題して、次のように伝えた。
この記事では、中国の汚職が専制政治と絡まった構造的なものであることを指摘している。
習近平氏は、「反腐敗闘争」により就任以来今年6月までに、合計206万人の党幹部を追放したという。愕くべき数字である。
問題は、この「反腐敗闘争」によって汚職の種が一掃されたのか。
それは、一時的な現象であって、国家主導経済では許認可事項が増えても減ることはない。
よって、賄賂の温床は相変わらず残っている。
完全な市場経済へ転換して、優勝劣敗の原則が確立されない限り、賄賂の火が消えることはない。
習氏が、いくら強国論を打ち「大言壮語」しても、腐臭を帯びる中国の本質に変わりはない。
(1)「中国共産党中央紀律検査委員会が10月7日、公式ウェブサイトで公表した資料によると、
習近平氏が12年11月から今年6月まで、汚職腐敗で処分を下した『郷科級およびそれ以下の党員幹部』が134万3000人で、『農村部党員幹部』は64万80000人になった。
また、この5年間に、当局は党中央組織部が直接管理する高級幹部『中管幹部』280人、庁局級幹部8600人と県処級幹部6万6000人に対して、調査し処分を下した。当局が処罰した各レベルの党幹部の数は206万5800人余りとなった」
汚職で追放された党幹部は、206万人余である。やはり世界汚職ランキング100位の名にふさわしい数字である。
中国では、名刺代わりに賄賂を持参する。日系企業が、地元警察に付け届けをしなかったら、警察署から飲食代の「ツケ」が回されてきたという。
公務員は、昼食や夜の飲食費を払わないのだ。私の東海大学教員時代、中国からの院生留学生が党員であり、自慢げに話していたほどだ。
公的な環境調査でも、企業から賄賂を掴まされて現地調査で手心を加えていたことが発覚。公務員が逮捕されている。
それ以降、公害調査は厳しくなっている。
零細企業では、公害防止設備が設置できず廃業に追い込まれる例が増えた。
「賄賂天国」中国も、少しは正常化機運もあるが前途多難だ。
(2)「幹部らが私腹を肥やした金額もおびただしい。12年11月以降反腐敗運動で失脚した高級幹部の中に、収賄金額が1億元(約17億円)に上った省部級の幹部は12人いた。
中国当局最高指導部の中央政治局常務委員だった周永康と軍制服組元トップの郭伯雄は、収賄・横領で不正蓄財した金額はそれぞれ1000億元(約1兆7000億円)以上と言われている。
しかし、当局は具体的な金額を発表していない。当局が、公表すれば国民から強い反発を招き、共産党政権を揺るがしかねない事態に発展するのを恐れているとみられる」
賄賂の金額も半端でない。
超大物になると、1人で1000億元(約1兆7000億円)以上だという。
それほどの巨額賄賂を何に使う積もりだろう。見当もつかない話だ。
捕まらないで海外逃亡している例では、現地で不動産を購入し、家族揃って栄耀栄華な王侯貴族の生活を送っているという。
これもまた、中国人らしい「物質第一」の人生観を表している。
(3)「中国の経済学者周有光氏(故人)は生前、『深刻な腐敗の原因は汚職官幹部にあるのではなく、共産党の専制政治にある。民主制度では、政府官僚が汚職すれば国民から選ばれなくなる。
しかし専制政治では、このようなことは起こらない』と批判したことがある。
2015年4月、貴州省凱里市の洪金洲・元市長(庁局級副職)が1億2000万元(約19億2000万円)の収賄容疑で、当局の取り調べを受けた際、『公務員なら無能なバカでも金が集まる』『権力を手にした者には、黙っていてもカネが集まってくる』と話した。
中国の深刻な腐敗問題の核心を突いた発言だ」
孫文は、『三民主義』で汚職追放のために選挙制度を提案している。
腐敗公務員を選挙で追い払うという主旨である。
孫文の方が、毛沢東よりも民主主義への理解があった。
土地も私有制度を認め、地価上昇分は課税で吸収する案も提案していた。
習氏も最低限、孫文の線まで改革すれば、それだけでも随分と中国社会は明るくなるはずだ。
毛沢東主義の継承である「習思想」は中国を破綻に追い込むであろう。
中国で深刻なのは、「売官制度」である。
人民解放軍内部では、昇格に当たって階級別に金額が決まっていたという。
現在の将官クラスでも巨額の賄賂を払っている。
とすると、自らは昇格できても、「売官制度」が禁じられた手前、「支払い損」になっている。
潜在的に、自ら支払った賄賂を回収したい欲望に駆られているはず。
賄賂の歴史が古いだけに、「反腐敗闘争」で根絶やしにできるはずがない。
(2017年10月26日)