バイデン政権に見限られた韓国、文在寅大統領
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■ バイデン大統領は含むところがあるのか?
自己顕示欲の強い(? )韓国メディアは大騒ぎだ。
米大統領が就任後、同盟国や友好国の首脳に電話するのは半ば外交儀礼になっている。
ジョー・バイデン氏もご多分に漏れず菅義偉首相には1月28日未明に電話してきた。
直近の歴代大統領は、日本の首相に電話会談した翌日か、遅くとも2、3日後には韓国大統領に電話している。
ところがバイデン氏は3日経っても4日経ってもしてこない。
「何か、あるのか」
「バイデン氏は、文在寅大統領に何か含むところがあるのか」
韓国メディアは連日のように書き立てている。
(http://english.hani.co.kr/arti/english_edition/e_international/981053.html)
青瓦台の大統領側近たちも落ち着かぬ。
記者たちには「米大統領との電話は、いつという時期ではなくて、その中身だ」と強がって見せているが、内心戦々恐々。
胸に手を当てて考えれば、文在寅氏には思い当たるフシがあるはずだ。
新年演説では「バイデン政権の発足に合わせて、米韓同盟を強化する」と述べたまではいいが、
その後、「米朝対話、南北朝鮮対話の再開に最後の努力を尽くす」と宣言した。
米朝首脳会談の再開に仲介の労を取ろうというのだが、米朝ともに再開には慎重だ。
しかも双方ともに文在寅氏など信用していない。
演説が国内向けだというのであればともかくとして、その内容は瞬時に世界中に流れる。
1月18日の記者会見では、「金正恩書記長の非核化の意志は明確だ。シンガポール宣言(2018年6月の米朝首脳会談で合意)から改めて始めねばならない」と自信ありげにぶち上げた。
金正恩氏が新春早々要求した米韓軍事合同演習中止についても、「必要であれば南北朝鮮軍事共同委員会を通じて北朝鮮と協議してもいい」と言い放っている。
あたかも米韓軍事合同演習の「主役」は韓国であるかのような発言だ。
在韓米軍によれば、南北朝鮮首脳会談以降、4年間、兵力・装備を大規模で移動させる「機動演習」(FTX)は実施されていない。
キーリゾルブ(KR)など米韓三大合同演習は2019年に全廃されてしまった。
ロバート・エイブラムス在韓米軍司令官は最近、韓国政府高官に苦言を呈している。
「野外機動演習のないコンピューター演習では連合防衛能力に支障が出る。実践の状況になったら兵士たちは胆をつぶすだろう」
文在寅発言を受けて、徐旭・国防長官は1月27日、
「3月の米韓合同軍事演習はコンピューターで行う。あくまでも防御的で年次的な演習になるだろう」と応じている。 どこまでも米政府、米軍との事前協議はなし(? )で話を進めているようなのだ。 そのうえで文在寅氏は記者会見で、「バイデン氏とは朝鮮半島をめぐる現状認識を深めたい」とも述べている。
自分の希望的観測からくる独りよがりの認識を滔々と述べた後にバイデン氏との「朝鮮半島問題への認識を深めたい」とは、本末転倒も甚だしい。
■ 金正恩メッセージを届けたトリオ再起用 文在寅氏はバイデン新政権発足を機に1月20日、外交安保チームの刷新を決めた。
政権発足時から最後まで在職してきた唯一の閣僚、康京和・外交部長官が更迭され、後任には鄭義溶・前安保室長が任命された。
また安保室長には徐薫・国家情報院長、徐氏の後任には朴智元氏がそれぞれ任命された。
この3人は2018年3月、文在寅大統領の特使として平壌に赴き、金正恩委員長からドナルド・トランプ大統領(当時)に伝えるメッセージを届けたトリオだ。
メッセージは「非核化に同意する」というものだったが、その後、非核化どころか、北朝鮮の核能力は強化された。
金正恩氏の非核化の意志を忖度し、伝えたのか。
あるいは、勝手に解釈して伝達したのか。最初から同氏が意図的にトランプ氏を騙したのか。
(http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2021/01/29/2021012980077.html)
いずれにせよ、文在寅氏はそのトリオをまた対北朝鮮対応に再起用するとは、米国としても理解に苦しむところだ。
第一、経緯を徹底的に精査しているバイデン政権の対韓ブレーンが良い心象を持つはずがない。
1月21日には、文在寅氏はバイデン氏の大統領正式就任を祝ってツイート。
「保健(コロナ対策)、安全保障、経済、気象変動など世界的な懸案の協力を通じて米韓同盟が一層強化されると信じている」
何やら奥歯にものの挟まったような表現だ。米韓同盟の主軸たる軍事が他の懸案と横並びになっている。なぜだろう。
1月26日には中国共産党創設100周年を祝うとの名目で習近平国家主席にかけた電話で文在寅氏はこう述べた。
「中国共産党創立100周年を心からお祝いする」
「新型コロナウイルスを克服する過程で習近平国家主席閣下が発揮したリーダーシップを高く評価する。中韓両国はコロナ防疫を通じて友好と互いへの信頼を高めた」
「来年の中韓修好30周年を前に、防疫・経済・文化・教育・気候変動の領域で中国との協力を続けていくことを願う」
これに対して習近平氏はこう応じた。
「2020年以来、コロナの大流行で100年間なかった世界的な大変化が交差し、国際情勢と地域情勢は深刻に変化した」
「中韓の戦略的協力パートナーシップを新たな段階へ推進することを願っている」
社会主義国家ならいざ知らず、自由民主主義を建前にする国の首脳が中国共産党に対して創立祝いをするのは異例である。 (https://www.chinadaily.com.cn/a/202101/27/WS6010a4e7a31024ad0baa5436.html)
中国メディアは今回の電話会談を大きく扱っている。
米国内では米議会はじめメディアが目の敵にしているのは中国共産党だ。
それを讃えている文在寅氏を米国が面白く思わないのは想像に難くない。
バイデン氏も例外ではない。
北朝鮮対応での食い違いを露骨に明言 バイデン政権は、この間、米韓首脳電話会談に向けて準備していた。
1月22日にはジェイク・サリバン大統領安全保障担当補佐官が叙薫・国家安全保障室長と電話協議。
協議後、ホワイトハウスは以下のようなコメントを発表した。
「サリバン補佐官は、米韓同盟がインド太平洋域内の平和と繁栄の核心軸だと述べた。民主主義、法治の価値を共有する同盟だと述べた。北朝鮮の核問題に対する米韓間の調整の重要性を強調した」
サリバン氏はいわばバイデン氏のアルターエゴ(分身)だ。
分身の発言は、一字一句、バイデン氏の生の声と思えばいい。
そのサリバン氏が、北朝鮮の非核化で、意見の食い違う文在寅氏とじっくり調整する必要がある。それが重要だとクギを刺している。
国防相レベルでは、翌1月23日にはロイド・オースチン国防長官が徐旭・国防部長官と電話会談し、こう述べた。
「米韓同盟は北東アジアの平和と安定の核心軸だ。この同盟は最も模範的な同盟だ。米韓同盟関係をさらに強固に発展させるよう緊密に協力しよう」
1月26日、アントニー・ブリンケン国務長官がすでに退任が決まっている康京和・外務部長官と電話対談。
米国務省によると、ブリンケン長官は以下のように述べた。
「米韓同盟を継続させる力と重要性を確認する。米韓同盟は自由でオープンなインド太平洋地域と全世界の平和と安全保障、繁栄の中心軸だ」
「日米韓の三か国協力を継続する重要性、北朝鮮の非核化の継続的な必要性、米韓同盟強化に対するバイデン大統領の公約を強調する」
ここまでの米韓政府高官による準備は通常通りだった。
ところが1月26日以降、米サイドからは沙汰なし。
大統領に就任した1月の月を越してしまった。
青瓦台は「2月第1週には電話がある」と記者団に答えている。
電話の遅延については米メディアは一切報じていない。
日米豪印クワッドは米外交の根本的基盤 米東部時間の2月1日現在、正午を過ぎても(ソウル時間2日午前)バイデン大統領からの電話のベルは鳴らない。
1月29日、ダメ押しのようなサリバン補佐官の発言が飛び出した。
ワシントンで開かれたU.S.平和研究所(U.S. Institute of Peace)*1 のオンライン会議で同補佐官はこう述べた。
*1=1984年、米議会が資金を拠出して設立した超党派のシンクタンク。
「日米豪印のクワッドは、インド太平洋地域における米国の実質的な政策を構築していく上での根本的な基盤だ。クワッドの構成(Format)とメカニズムを(トランプ前政権から)継承し、発展させたい」
この発言は、トランプ政権で国家安全保障担当補佐官を務めたロバート・オブライエン氏の以下の発言を受けてのものだった。
「(中国に対抗して)同盟国と協力できるのは素晴らしいこと、特にクワッドがそうだ。クワッドは北大西洋条約機構(NATO)以降に構築された最も重要な(同盟)関係になるだろう」
韓国はクワッド参加を保留してきた。
その理由は「特定の国(中国)の利益を排除するのは良くない」(康京和・外交部長官=当時)ということからだ。
バイデン政権が「米政策の根本的基盤」と明言したクワッドとは、袂を分かつと言っている文在寅政権下の韓国。
その韓国との同盟関係に異変が生じているのはむしろ当然の流れのようにも思える。
(https://www.usip.org/events/passing-baton-2021-securing-americas-future-together) (https://www.usip.org/sites/default/files/Passing%20the%20Baton%202021%20Transcript.pdf)
嘘つきの原因は自己言動調整能力の欠如
その韓国を米国のアジア問題専門家はどう見ているのか。
日中韓北朝鮮との外交交渉に長年携わってきた元政府高官がバックグラウンド・ブリーフィング(直接の引用を避けることを前提条件に行う背景説明)で筆者にこう吐露している。
一、左翼民族主義者の文在寅氏は、米国と米韓同盟に懐疑の念(Scepticism)を抱いている。
一、同氏は日本に対しては主情主義(Emotionalism)を抱いている。
日韓併合政策、植民政策に対する憤りと制裁措置を強く望んでいる。
一、北朝鮮に対しては民族的なロマンチシズム(Romantism)を掻き立てられている。
北朝鮮との良好な関係を模索する背景には、南北が統一すれば東アジアの大国になるという信念がある。
一、中国に対しては、絶対的な重要性と脅威を感じている。
韓国経済、南北朝鮮問題解決にとっては中国は必要不可欠な存在だと考えている。
これらを尺度にして文在寅氏の年頭からの言動を見てみると、その本音が透けて見えてくる。
日本に対しても米国に対しても平気で国際公約を破る、約束を反故にする、ウソをつく、前言を翻す――。
その理由について、この米政府の元高官はこう断定する。
一、文在寅政権には自らの言動の食い違いを同時に調整するだけの能力が欠如している。
一、文在寅政権には、北朝鮮について、日本や米韓同盟についての核心的な態度を公けにするだけの能力がない。
一、文在寅政権は、韓国は安全保障面で米国に引き続き頼らざる得ないという憤懣やるかたない現実を認めざるを得ない。
もしこの元米政府高官の分析が正しいとすれば、任期をあと1年を残した文在寅政権とバイデン政権とのラポーシモ(Rapprochement、フランス語で和解の意味)はほとんど不可能かもしれない。
だとすれば、バイデン大統領からの鳴らない電話を待っている文在寅氏は、よほど空気が読めない人、ということになる。
高濱 賛
東京都1941年6月8日生まれ。 1965年カリフォルニア大学バークレー校卒業(専攻はジャーナリズム・ 国際関係論)。 1967年読売新聞社入社。 ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。