消えゆく飛田遊廓の記憶を残したい!
【達成のお礼とネクストゴールについて】
このたびは、私たちが進める写真集プロジェクトにご支援いただき、誠にありがとうございます。おかげさまで、クラウドファンディングのスタートから6日目で第一目標を達成することができました。心より感謝申し上げます。
私はたまたま「満すみ」の存在を知り、このまま失われるにはあまりにも惜しいと感じ、編集と執筆を専門とする私にできることとして写真集の制作に取りかかりました。実際のところ、どれだけの方に関心を持っていただけるかは全くの未知数でしたが、記憶を含め何かしらの形に「遺す」ということに、これだけ多くの方からご賛同いただけるとは思いませんでした。重ねて感謝申し上げます。
本文でも申し上げました通り、製本や配送、デザインなどの経費が第一目標金額以上にかかる見込みであることに加えて、写真集の販売に伴う利益の一部を寄付する予定であること、さらに満すみにある残置物や建物の保存に向けた取り組みなどを進めるために、第二段階の目標、NEXT GOALとして1000万円を設定したいと思います。
実際に写真集をお届けするまでにお時間をいただき恐縮ですが、もうしばらくお待ちいただければ幸いです。新型コロナが猛威を振るっておりますが、みなさまもお体をご自愛ください。
2021年1月21日
プロジェクト代表 篠原匡
飛田新地「満すみ」プロジェクトとは
はじめまして。プロジェクト代表の篠原匡と申します。現在、私は大阪・飛田新地の一角にある元遊廓物件の写真集を制作しております。映画『吉原炎上』や週刊少年ジャンプで連載された「鬼滅の刃」など遊廓をテーマにした作品は数多くありますが、今回、私たちが手がける写真集は実際に遊廓として使われていたリアル遊廓の写真集です。
この元遊廓物件は1929(昭和4)年に建てられ、1958(昭和33)年の売春防止法完全施行後は「満すみ」という屋号で、飛田新地に特有の「料亭」として風俗営業を続けていました。1990年代後半に廃業した後は、空き家のまま放置されております。長年、空き家として風雨にさらされた結果、建物の老朽化が進んでおり、いつ解体されてもおかしくありません。
もっとも、一歩中に足を踏み入れれば、大正から昭和初期にかけて、西洋文化と日本文化が融合した時代の妓楼建築の特徴が至るところに遺されています。
例えば、1階にあるバーカウンターを併設した空間。満すみが建てられた昭和初期は古めかしい遊廓建築よりもモダンな西洋建築が好まれていた時代です。遊び方も、従来は茶屋で遊興した後に妓楼に上がるという形が良しとされていましたが、大正時代になると女給のいる「カフェ」が登場するなど、性サービスのコンビニエンス化が進みました。満すみに併設されたダンスホール然とした空間はその時代の名残です。
満すみからは当時の感染症対策も見て取れます。
飛田遊廓が開発された大正から昭和初期にかけて、公衆衛生上の脅威は肺結核でした。その感染リスクを少しでも減らすため、飛田遊廓の建物には中庭が設けられました。日中、中庭に太陽の光が当たることで上昇気流が発生します。その上昇気流を利用して、室内の空気を上空に逃がしていたのです。
このほかにも、満すみの内部からは結核にかかった女性が体温を記録したメモ、大阪新聞の4コママンガの切り抜き、高級時計を買った際の割賦支払いの契約書など、この場所で暮らしている経営者や女性たちの生活の痕跡が遺されていました。
本プロジェクトでは、江戸時代から続く遊廓の歴史や建築としての特徴、建物を通して垣間見える文化や習俗を後世に伝えるため、建物が解体される前に満すみに遺された遊廓の記憶を写真集という形で記録します(海外でも販売するため、日本語と英語の2カ国語表記)。既にブックデザインは完了しており、今回のクラウドファンディングで造本費などを集めた後、写真集の印刷に入ります。クラウドファンディングの対価として、定価5000円のところ30%引きで写真集をお渡ししますので、ふるってご参加下さい。
プロジェクトが立ち上がった経緯
満すみの存在を知ったのは、日雇い労働者の町として知られる大阪・釜ヶ崎の高齢化を描くべく、私(篠原)と元𠮷でドキュメンタリーを撮影していた2020年2月にさかのぼります。この時の取材を通して、今回のプロジェクトに名を連ねる物件管理者の杉浦と出会い、廃屋のまま放置されている満すみのことを知りました。
近現代史に登場するような歴史的な遺構とは異なり、人々の日常の中にあった施設は受け継がれることなく歴史の藻屑として消えていきます。刹那の快楽を求め、無名の性と生が交錯した遊廓もその一つでしょう。ただ、錆び付いたシャッターを開け放ち、湿り気を帯びた室内に足を踏み入れ、垢にまみれた過去の記憶に触れた時、この存在は後世に遺すべきものだと強く感じました。
私たちは売買春を良しとは思っていませんし、見る人が見れば、遊廓制度は抹殺すべき忌まわしき歴史かもしれません。今の世の中を見ても、人身売買に近い形で性サービスに従事している女性はいるでしょう。そのような現状を追認するつもりは毛頭ありませんが、20年以上ジャーナリズムの世界に身を置いて感じるのは、「今」を描き出すだけでなく、消えゆくものを可視化し、意味を与えることもジャーナリズムの役割だということです。そして、それだけの価値が満すみにはあると思っております。
今回は写真集という形で遊廓跡に遺された記憶を後世に伝えていきたいと思います。なお、今回の写真集の販売による利益の一部は、女性の貧困解消に向けて活動している団体に寄付する予定です。
Facebookのグループページ「元遊廓『満すみ』の記憶」で随時、情報を発信していますので、こちらもご覧ください。インスタグラム「@house_of__desires」
写真集の主なコンテンツ
満すみの内観や外観、残置物の写真と解説に加えて、以下の方々の話を談話形式でまとめております。以下の写真はページの抜粋です。なお、表紙デザインや本文レイアウトはここで掲載しているものから変わる可能性があります。
01:最後の色街「飛田新地」の記憶と継承
(飛田新地料理組合組合長 徳山邦浩氏)
02:飛田遊廓は「短時間」「安価」「直接的」な性売買の先駆け
(大阪市立大学大学院文学研究科 日本史学専修教授 佐賀朝氏)
03:飛田遊廓は江戸遊廓に対するオマージュ
(建築史家 橋爪紳也氏)
04:セックスワークの「是非論」そのものに違和感
(ノンフィクションライター 井上理津子氏)
05:遺すということ
(作家・ジャーナリスト 金田信一郎氏)
※144ページ、220x330mm、ソフトカバー、タイトル金箔押し、フルカラーオフセット+特色
クラウドファンディングについて
今回のクラウドファンディングでは、まず250万円を目標に資金を集めさせていただきます。ただ、造本費や送料などの経費はそれ以上にかかる見込みのため、第一段階の目標を達成したあかつきには、第二段階の目標、NEXT GOALを設定させていただく予定です。ご理解のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
プロジェクトメンバー
篠原匡(しのはら・ただし) 編集者・ジャーナリスト
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長などを経て、2020年4月にジャーナリスト兼編集者として独立。著書に『腹八分の資本主義』(新潮新書、2009年)、『おまんのモノサシ持ちや!』(日経新聞出版社、2010年)、『神山プロジェクト』(日経BP、2014年)、『ヤフーとその仲間たちのすごい研修』(日経BP、2015年)、『グローバル資本主義vsアメリカ人』(日経BP、2020年)などがある。
※以下は、本プロジェクトになったドキュメンタリーのYouTube動画。
元𠮷烈(もとよし・れつ) 映像作家・フォトグラファー
2006年渡米、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツで映画制作を学ぶ。長編ドキュメンタリー映画の編集アシスタントを務めた後に独立し、撮影、編集、監督として数多くの短編ドキュメンタリー作品に参加、主なドキュメンタリー作品に日経ビジネス「アメリカのリアル」「アメリカ国境のリアル」シリーズ、VICE「Outliers」がある。また、監督・脚本をした短編劇映画は欧米の映画祭で上映されている。ニューヨーク在住。
門馬翔(もんま・しょう) アートディレクター・グラフィックデザイナー
高校卒業後に渡米。ニューヨークのFIT(ファッション工科大学)にてデザインを学ぶ。2008年に卒業後、ニューヨークのデザイン事務所で、ガゴシアンギャラリーをはじめとした、国内外の著名なアーティストやギャラリー、ミュージアムの展示会のブランディングやカタログの制作に携わり、2018年後半に独立。Vice mediaやスワロフスキー、Garage Magazineとのコラボレーションや、J. PRESS USAのキャンペーンのAD・デザインを担当。アート、ファッション、カルチャーを中心に、ニューヨークと東京をベースに活動中。
杉浦正彦(すぎうら・まさひこ) 「満すみ」の不動産管理者・サミット不動産代表
2015年に自身で宅地建物取引士を取得後、同地区の萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社にて宅地建物取引業を開業。現在は大阪府簡易宿所生活衛生同業組合の事務局長を務める一方、2019年に株式会社サミット不動産を開業、代表取締役として現在に至る。満すみの物件管理と再生を担当している。