安倍辞任にぬか喜びの韓国が「日本への非礼」と反日を反省しだしたワケ
勝又壽良
2020年9月13日
安倍首相辞任の報道を受け、韓国では日韓雪解けへ向かうとの期待が高まった。
しかし、第2・第3の安倍が続くだけだと認識したのか、今度は「韓国反省論」が現れだしている。
(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
「日韓関係に雪解けが始まる」安倍退陣を歓迎する韓国
韓国が外交面で揺れている。行き詰まった日韓関係打開の手がかりがないからだ。
一方で、米中対立は冷戦と呼んで差し支えない状況である。
韓国は、これまでの二股外交で「経済は中国、安保は米国」という、二刀流がしだいに難しくなってきた。
中国か、米国かと二者択一を迫られる時期は、刻々と迫っている。
この認識が、韓国大統領府の一部に出始めた印象である。
それは、韓国報道を細大漏らさずチェックしていると、微妙な「化学変化」に気付くのである。
安倍晋三首相が突然、健康を理由に辞意を表明した。
韓国では、安倍首相が退陣すれば日韓関係に雪解けが始まる。そういう期待報道が現れた。以下の記事が、その典型例である。
「病気で退く安倍首相には申し訳ないことですが、我々には良い機会です。日本との外交関係を改善できる糸口になるかもしれないからです。安倍首相は実際、わが国には最悪の首相でした」。
「安倍首相は日本国内の保守世論と新冷戦という国際情勢の変化を背負っていたからです。
それでも後任の首相は、安倍首相のように強硬派ではないでしょう。
今から準備して先に手を差し出さなければいけません。
失われた20年といわれますが、日本はまだ経済大国です。
経済から解決すればよいはずです。歴史は最後に解決しても…」。
以上は、『中央日報』(8月29日付コラム)だ。
「第2、第3の安倍が登場する」安倍後も変わらぬ日本を認識
この安倍辞任後への期待論は、間もなく大きく変わった。
「第2、第3の安倍が登場する」との認識になってきた。
「何よりも日本社会全般の雰囲気が変化した点をわれわれは冷静に認識しなければならない。
<中略> そのため安倍氏が退いても、第2、第3の安倍氏が登場するよりほかはない。
それが今の日本政界の現実で、社会全般の雰囲気だ。
いわゆる『主流の交代』が確固として実現したのだ。日本と戦って最後までいこうが、話し合いで問題を解決して和解しようが、一応このような日本国内の事情を正確に把握しておくことが優先だ」
「もう一つ深刻な問題は、日本国内で親韓派が消滅直前になった点だ。たとえ残っていたとしても、自分の主張をするのが難しい雰囲気だ。
これは日本のせいばかりにするのはなく、韓国側にも問題がないかどうか振り返らなくてはならないことだ。
親韓でも反韓でもなかったが、最近になり確実な反韓に立場を固めた人も珍しくない。
次期首相として有力な菅義偉官房長官もそのような部類に属すると考える」
「昨年、東京で会った政界消息筋によると、
菅氏は自身の作品といえる慰安婦合意を文在寅政府が、事実上覆したことに対して反感と失望を私席で表したことがあるという」 以上は、『中央日報』(9月8日付コラム)が報じた。
韓国の論調が、短期間にこれまでの日本批判一点張りから、「韓国原因論」に触れるようになっている。
日本が、絶対に韓国と妥協しないと考えるようになった結果だ。日本全体で、嫌韓ムードが高まっているのである。
日本人の半数以上が嫌韓へ
日本経済新聞が昨年10~11月に実施した全国18歳以上の男女を対象にした郵便アンケート調査で、国・地域に対する友好意識を確認した結果、韓国に対しては回答者の66%が「嫌い」と答えた。
前年調査では、61%であったから1年間で5%ポイントも増えた計算である。
前記調査で昨年の「嫌い」国のトップは、北朝鮮(82%)、中国(71%)が1位と2位を占めている。韓国が、これら諸国に次いで「嫌いな国・地域」で3位だ。
北方領土問題を抱えるロシアは、嫌いな国・地域で53%になり4位に下がった。
韓国が、「嫌いな国トップ3」であることは、安倍首相の存在に原因があるという感情論を超えている。
日本人全体が、強い「嫌韓」意識を抱いていることを示めしているのだ。
一方で、日本に深く染み込んでいる「韓流」が、両国国民の文化的距離を縮めてくれるのでは、という楽観論も聞かれる。
だが、「韓流」で日本社会が融和に向かうとの期待は過剰であろう。日本にとって韓国が、物珍しかったのは20年前の話である。
韓国の生きる道は妥協しかない
韓国メディアに現れてきた「韓国反省論」を見ておきたい。
その内容は、旧徴用工賠償問題解決以前に、日本の凍った「嫌韓論」の雪解けに動くというもの。
従来の韓国の高姿勢とは、打って変わった内容になっている。
『中央日報』の金玄基(キム・ヒョンギ)編集局長は、「両国関係悪化の日本側要因は安倍首相個人にあるのではなく、日本人全体の韓国に対する不信から始まっており、指導者交替での関係改善は期待できない」とし、「文在寅(ムン・ジェイン)政権が、日本の首相交替を機会として活用する意思があるのかも鍵だ」と話した。以上は、『聯合ニュース』(9月8日付)が報じた。
この背景として、日本人の間で
「韓国は約束を守らない国」「反日で日本を困らせる国」という嫌韓意識が広まって、日本の政治指導者がこれに逆らうことは難しいという認識である。
韓国が旧徴用工問題で画期的な提案をするか、以前より柔軟な交渉姿勢を見せない限り、日韓関係の好転期待はできない、という見方が韓国で散見されるようになった。
安倍首相が辞任すれば、日韓関係が雪解けという認識は、あまりにも日本の現実を理解しない空論と指摘しているのである。
韓国の「米中二股外交」が破綻する
前記の中央日報編集局長は、具体論として東日本大震災(2011年3月11日)の10周年記念日に、文大統領の震災地訪問を提案している。
金大中元大統領がかつて、日本を訪問して日韓雪解けの機会をつくった例に倣えというものだ。
金大中氏が、思い切って日本と和解に動いたのには理由がある。
韓国経済が、1997年の通貨危機で瀕死の重傷を負ったからだ。日本と提携関係を深めざるを得なかったのである。
文在寅大統領が、日本と和解せざるを得ないのは、経済的な問題のほか、国際情勢の急変がある。
米中対立が深刻の度を加えている中で、韓国の米中二股外交は困難になっている。
米国が米中デカップリング(分断)に踏み切れば、中国の金融と半導体産業が、壊滅的打撃を受けるはずだ。そうなれば、中国は韓国の主要輸出市場でなくなる。
こういう状況では、韓国の「米中二股外交」が破綻するだろう。
中国へいくら秋波を送っても、米国からさらに冷遇されるがオチである。
韓国は、このデメリットの大きい二股外交から足を洗う最終段階に差し掛かっていることに気づき始めたのでないか。そう思える「証拠」を後で取り上げたい。
国際感覚に疎い「86世代」の限界
文政権は、「86世代」という学生運動家上がりの猛者が、大統領符秘書官の6割を占めている。
1960年代生まれで80年代の高度経済成長の学生時代に、「反資本主義」「反軍事政権」「反日米」を連呼して火焔瓶を投げつけてきた人たちだ。
そう言っては失礼だが、学生時代に真面目に学問へ立ち向かわず、そのまま社会人になったと思われる。
だから、国際感覚が「1980年代」のままで止まっているのだ。
新たな米中冷戦開始という歴史的事件を十分に咀嚼できずに、生半可な80年代の知識の延長で「親中朝・反日米」の立場を踏襲してきた。
それが、韓国外交の障害となって立ちはだかってきたのだろう。
中国からの「脅迫」と米国の「圧力」に直面して、自らの外交知識の不足に直面していると見られる。
こうなると、「反日米」路線を修正しなければならない。
行き詰まった対日外交をどう立て直すか。
「親日排除」という国内政治路線を「反日」に結びつけるデメリットの大きさを知ったに違いない。
近隣国・日本との関係見直しを迫られているのだろう。それが、外交路線変更のワンステップとなるのかも知れない。
文正仁特別補佐官は転向した?
先に、「証拠」をお見せすると前置きしたが、それは、韓国の文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保担当特別補佐官が、私人(延世大学名誉特任教授)肩書きで『ハンギョレ新聞』に寄稿した注目すべき論文である。
私のブログでも取り上げたが、文特別補佐官の真意を表わしているとすれば画期的な内容である。
それは、中国政治を覇道と批判したからだ。
これまでの文特別補佐官は、「親中朝・反日米」で一貫していた。
それが、大きくカーブを右に切ったのである。次のように指摘している。
「中国は米国を凌駕する道徳的リーダーシップで、世界の人々の心をつかむことはできるのだろうか。
THAAD(高高度防衛ミサイル)問題で韓国に示した態度、南シナ海での行動、コロナ禍以降人口に膾炙(かいしゃ)する「戦狼(せんろう)外交」など、振り返ってみると、中国の外交は王道ではなく、覇道と強権に近いものに見える」(『ハンギョレ新聞』9月7日付「中国が新冷戦を避ける道」)と論難している。
ここでは、中国が道徳に従う王道政治へ進むべきと指摘している。覇道とは、武力を用いる政治である。孫文は、辛亥革命(1911年)を行ったが、彼の思想体系は『三民主義』に示されている。中国は、王道を求め覇道を拒否する宣言した。現在の中国は、孫文思想と真逆の覇道政治である。辛亥革命は、後の共産党革命に乗っ取られて現在の中国になった。
文正仁氏は一時の戯れでなく、本心でこの寄稿を書いたとしたら、韓国外交のハンドルは、「左」から「右」へ動いて軌道修正が行われるだろう。
大統領府の「86世代」には、眠れないほどの衝撃を与えたはずである。
あれだけ崇め奉ってきた中国が、王道政治でなく覇道政治とすれば、彼らのこれまでの「信念」はコペルニクス的転回を要求される。
日韓「素材・部品・装備特許戦争」が始まった
韓国は、日本と角突き合いを続けられない事情がある。
昨年7月からの半導体主要3素材の輸出手続き規制強化後に「素材国産化」運動を始めてきた。
いち早く成果が出たと、鼻高々であったが、日本から「特許侵害」の訴えを起こされ始めている。
日本の輸出手続き規制強化以降、韓国が素材・部品・装備の国産化にスピードを出すとともに、日本が「特許」を武器に反撃に出ていると韓国メディアが報じている。
韓国特許専門家の間では、韓国政府と企業が性急に素材・部品・装備の国産化に出れば、日本の特許の罠にかかりかねないとの懸念が出ているという。
日本が今年、素材・部品・装備と関連し、韓国を相手に提起した特許訴訟は6件だ。昨年は4件だった。
大韓弁理士会のパク・スングァン研究官は、「韓国国内で発生する特許紛争が年間で通常50件程度である点を考慮すれば決して少ない数ではない」と指摘する(『中央日報』9月7日付)
注目すべきは、次の点である。
日本で提起された訴訟の大部分が「異議申し立て」形式という。
異議申し立ては、特許無効訴訟や侵害訴訟に先立ち、「特許資格がないので登録を取り消してほしい」として起こす訴訟である。
前記のパク・スングァン研究官は、「異議申し立てが、法人だけでなく利害関係のない個人も出すことができる。
本格特許訴訟の前段階で、企業がしばしば使う戦略」ということだ。
日本の相次ぐ特許異議申し立ては、本格的な日韓「素材・部品・装備特許戦争」の序幕というのである。以上は、前記『中央日報』が報じた。
日本の技術属国に変わらず
技術貿易収支という統計がある。技術輸出から技術輸入を差し引いた金額である。
特許や製造ノウハウの輸出入の差額である。これが黒字であれば、「技術立国」と言える。赤字であれば「借り物技術」で脆弱性を示している。
<技術貿易収支(2015年 OECD調査)>
1位:米国(419億4,300万ドル黒字)
2位:日本(276億5,300万ドル黒字)
3位:英国(197億8,000万ドル黒字)
4位:ドイツ(181億200万ドル黒字)
5位:スウェーデン(122億1,900万ドル黒字)
34位:台湾(42億6,000万ドル赤字)
35位:韓国(60億100万ドル赤字)
これを見ると、技術貿易収支で大赤字の韓国が、黒字国2位の日本技術にかなり依存していることは確かであろう。
日本が、技術面で韓国の前に立ちはだかることは疑いない。
日韓紛争が、こういう形で韓国企業の首根っこを抑えるのだ。
韓国は、民族主義で無闇やたらと日本と争っても、技術の壁でどうにもならない現実を受入れるべきだろう。
韓国は現在、米中冷戦という不可避的な紛争の中で、いかに生き延びるかという選択がかかっている。
1980年代の国際感覚のままに、「親中朝・反日米」という路線が破綻していることを知るべきだ。
「親日米」に転換しない限り、韓国の将来はないであろう。