文在寅が「戦犯」…韓国経済の「複合不況」がとんでもないことになってきた!
尹大統領の「ネック」にもなる
武藤 正敏 -韓国経済が「大変なこと」になっていた
韓国の尹錫悦大統領は6月1日の地方選挙の大勝利にも浮かれてはいなかった。
物価統計が発表された6日、尹錫悦氏は「(韓国は)経済危機の台風圏に入っている」と危機感をあらわにした。
尹大統領は、地方選挙勝利は論評せず、経済危機の克服に全力を傾ける意思を強調したわけだ。
尹錫悦政権の支持率は、就任以来上昇してきた。
しかし、上昇要因となった米韓首脳会談や統一地方選挙が終わり、これからは尹錫悦氏の国内政治の実績が問われることになる。
その中で一番大きいのは韓国経済や国民生活の動向である。
李明博大統領時代、リーマンショックが起きた時、韓国はすべてのOECD諸国に先駆けて経済を回復させた。その言動力となったのが財閥系輸出企業の競争力である。
しかし、現在の韓国経済は、文在寅前大統領が反財閥・親労組的体質に変えてしまったため、逆風への抵抗力がなくなっている。
尹錫悦大統領は、大統領選挙中から経済は民間・市場主導に変えていくと語っていたが、6月16日、民間の主要経済団体を集めた会議では、そうしなければ複合危機を乗り越えるのは難しいと述べ、物価の安定に総力をあげること、規制の解除を進めていくこと、法人税を引き下げることを明らかにした。
これは、市場経済への介入、最低賃金の急激な引き上げ、非正規職の正規職への転換、脱原発、労働組合活動への支援を重視した文在寅政権の経済政策とは180度異なるものである。
尹錫悦政権は、韓国経済を再び軌道に乗せるため、文在寅体質からの脱皮を最優先課題としている。
文在寅が「破壊」した韓国経済
文在寅政権は経済の実態を見ず、自画自賛で経済の悪化を見逃すとともに国民から自らの経済失政を隠蔽してきた。
良質の雇用が失われても、高齢者に対する財政を活用した短時間のバイトを就業者に組み入れ、失業率の悪化を隠して雇用の実態を繕ってきた。
コロナ前の2019年、実質経済成長率が1%台に落ち込みそうになると、年末の財政出動で経済成長率を2.0%まで引き上げた。
韓国の経済成長率が1%台になるのはIMF危機やリーマンショックなど世界経済が困難であった時のみである。
このように経済の実態を小手先でごまかしてきたため、有効な経済対策が打てるはずはない。
その上、各種規制の導入で経済体質を社会主義的なものに変えてしまい、民間の投資意欲を失わせた。
尹錫悦政権はコロナ後初めて「景気減速の憂慮」を認めた。
企画財政部は17日、「6月最近経済動向(グリーンブック)」で「対外環境悪化など物価上昇が続く中、投資不振及び輸出回復の鈍化など景気減速が憂慮される」と明らかにした。
秋慶鎬(チュ・ギヨンホ)経済副首相兼企画財政部長官は6月14日の緊急幹部会議で「一言で複合危機が始まり、こうした状況は当分続くだろう」との悲観的見通しを述べた。
韓国経済の悲観的評価の背景には、これを支える輸出と投資が減少傾向にあるからである。
6月1-10日の輸出は12.7%減少した。
5月には輸出が増加していたが、それは中国が封鎖解除した影響であった。貿易収支も3月から5月まで連続で赤字となり、しかも赤字額は拡大している。
「中国経済の悪化」に「物価上昇」も追い打ち
大韓商工会議所は、「下半期以降対外不安要因の拡大で輸出サイクルが転換(悪化)する」と予想した。
その最大の要因が中国の経済減速であり、対中輸出が10%減少する場合は国内の経済成長率は0.56%下落するという。
これも文政権の親中政策で韓国の対中貿易依存が高まっていることも背景にある。
4月の産業活動動向によると、4月のサービス業生産(1.4%)はコロナにともなう規制緩和で小幅増加したが、鉱工業生産(-3.3%)が大幅に減り、全体産業生産(-00.7%)も減少した。
特に減少幅が大きいのは設備投資(-7.5%)である。
さらに、最近になって景気の足を引っ張っているのは物価上昇である。
物価高はさらに高金利・ウォン安をもたらしている。
当分は5%台の物価上昇率が続くだろうと見られている。
原油と国際原材料価格が依然として不安定であり、新型コロナ防疫措置の解除で消費が増えていることも物価上昇に拍車をかけている。
6、7月には6%台とする見方もある。物価高が続けば、金利は上がって経済成長率は落ちるだろう。中長期的には潜在成長率の低下基調が懸念される。
韓国経済の成長をもたらす要因が見えない。
「債務不履行世帯」が急増へ
韓国銀行は追加利上げを既成事実化している。
この場合家計の負債(3月末基準で1895兆ウォン、約194兆円)に火をつけることになりかねない。
金利が上昇すれば債務不履行世帯が増加する恐れがある。
政府は、民生対策を出し物価安定に乗り出した。
秋慶鎬は農協の市場を訪れ、物価を点検しながら「農畜産生産・流通・販売全般にわたり価格安定化に努める」と述べた。
具体的には小麦粉価格の安定に向けた支援及び飼料・肥料購入費支援事業や豚肉など価格不安定品目を中心に割引クーポンを支給する事業である。
企業にも生産性の向上などで価格上昇要因を最大限に吸収するよう要請している。
こうした中、主要企業も緊急戦略会議を開くなど緊迫した状況である。
電気自動車向けバッテリーの調達担当者はほぼ全員海外に出張し、素材メーカーからの調達に奔走している。
大企業のCEOは最悪の状況を前提にしたシナリオとシミュレーションを作成、対策つくりを進めている。
あるCEOは「外部の不確定要素に対し、影響を防ぐこれといった策はなく、被害の軽減に集中している」と述べた。
複合危機は「一層深刻化」する
文在寅政権は過激な政治活動を行う全国民主労働組合総連盟(民主労総)に引きずられ、「貴族労組」の利益を代弁する経済改革を次々に実施した。
ちなみに民主労総が活動拠点とする現代自動車では、ブルーカラーを含めた平均賃金が年収約1000万円である。
最低賃金を5年間で5倍に引き上げることを目標に、無理な賃金拡大政策を進めた。
これは、国民の所得を増やし、格差の是正を図るとともに、所得増の結果として消費を拡大するという所得主導成長を追求したものである。
しかし、無理な賃上げ拡大で、企業の廃業・倒産や労働者の解雇を招き、所得格差は拡大した。
労働時間規制の上限を週52時間とした。
従来は最長68時間まで残業できた。そこへきて、非正規労働者の正規職への転換を促した。
民主労総に支配された労組は企業経営にも口をはさんでいる。
現代自動車労組は、同社が米国で行う8000億円規模の新規投資と現地での電気自動車生産方針に反発している。
これは国内での雇用の減少を懸念してのことであるが、労組側は「海外投資を強行すれば、労使の共存共栄は遠のく」と強硬である。
しかし、現代自動車の国内労働者の平均賃金の高さを考えると当然の方針である。
さらに文在寅政権は脱原発を推進した。
月城原発廃棄を巡っては経済性評価を捏造して強引に月城原発の早期閉鎖に追い込んだ。
その経済的損失だけで約570憶円規模である。
しかし、ウクライナ情勢を巡るエネルギー価格の高騰は脱原発政策の妥当性に疑問を投げかけている。
こうした規制の強化により、韓国における製造業の事業環境は急速に悪化している。
昨年韓国の製造業では18万人の雇用が失われた。これはサムスン電子と現代自動車の就業者に匹敵する人数である。反面韓国企業が海外で雇用する人は42万人増加している。
困難な経済状況の中で襲った、資源・食料価格高騰による物価高・金利上昇・ウォン安を克服するため、尹錫悦氏は、文在寅時代に導入した経済体質を白紙化することから始めなければならない。
慢性的な「二極化」
尹錫悦大統領は、6月16日に開かれた「新政府経済政策方向発表」会議の冒頭「危機に直面するほど、民間・市場主導に経済の体質を大きく変えなければならない」と述べた。
尹大統領は「慢性的な低成長と二極化(格差)問題を解決しなければならない」「民間が多くの雇用を創出し、国民が新たな機会を得られるよう、政府の力を結集すべきだ」と力説した。
そのためまず挙げたのが規制改革である。
尹氏は「政府は民間の革新と新産業を妨げる古い制度と、法令にない慣行的な規制はすべて取り除く」と強調し、「公正な市場秩序を乱す不公正な行為が入り込む余地がないよう、起業家精神を高め、法と原則に基づいて企業が投資できるようにする」と述べた。
政府は経済政策方向を検討する会議で、規制と許認可遅延で足を引っ張られている企業投資が53件、337兆ウォン(約34兆円)に達するという調査結果も発表した。
文在寅の「否定」から始まる
雇用労働部の李正植(イ・ジョンシク)長官は「労働時間構造を合理的に改編する。実労働時間を業種と職務の特殊性に適合した方式で運営するよう自律的選択権を拡大する計画」と述べた。
また、国民の力は文政権で成立した重大災害事故発生時の最高経営責任者(CEO)処罰軽減を骨子とした改正案を発議している。
しかし、文前政権と尹現政権の目指す方向はまったく異なる。
文在寅氏は韓国経済を財閥の支配から解放し、分配を改善することで格差を是正する、労働者の権利を拡大するというものである。
これに対して尹進悦氏は民間・市場主導で経済の活力を取り戻すことに力点を置き財閥の経済活動を支援するというものである。
尹錫悦氏がやろうとしていることは文在寅氏の経済政策の否定である。
文在寅前政権としては、自らの政策を全否定することを放置できないだろう。これを改めるためには法改正が必要なものがある。現在の国会の状況から民主党の抵抗をどう切り抜けるかという課題がある。
韓国経済の動向が「キーポイント」になる
政府はさらに具体的な施策として法人税の引き下げと投資税額控除を打ち出した。
法人税引き下げによって「少なくとも金利引き上げを相殺できる」、海外で競争して対応できる程度の強力な投資税額控除が必要だとの立場である。
特に先端産業分野は戦時のような状態であり、それに見合った控除が必要だとしている。
韓国の国内問題の核心に迫れば、与野党の立場の違いから対決局面に移行していくだろう。
そのためにも尹錫悦政権にとって世論の支持率を高めていくことは不可欠であり、経済問題をいかに進めるかが最初の関門である。