日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-09-27 05:00:00
大統領府はなぜ中国に弱腰か
北朝鮮にも甘い「86世代」
歴史は繰り返すというが、今の韓国は「旧韓末」を彷彿とさせている。
李朝は、日本・清国・ロシアの各派閥に分かれて勢力争いをしていた。
現在の韓国政治は、政府と大統領府が別々の政策目標を持っており、両者の溝が深まっているようだ。
北朝鮮の度重なる核実験による安保危機。
中国政府の「THAAD」報復による経済危機。
いずれも、韓国の政治と経済の屋台骨を揺るがす「大事件」である。
だが、大統領府と政府の意見が食い違い、韓国国民を不安に陥れている。
文大統領の支持率も70%を割り込んで65%だ。
韓国は挙国一致という団結ができない民族である。派閥争いを好むのだ。
その根源は「宗族社会」の流れにある。
宗族とは、同一祖先の父系血縁の子孫として、共同して活動する集団である。
今なお、こういう分派的な動きが強烈である。
日本でも、明治維新の際は官軍・賊軍と別れて戦った。
賊軍とされた藩は塗炭の苦しみを味あわされた。
長州藩(官軍)と会津藩(賊軍)の対立がそれだ。現代ではむろん解消している。
だが、韓国では、根深い地域対立として残り、政治的摩擦の原因になっている。
ともかく、派閥争いが「三度の飯より好き」という異常性を帯びている。
中国政府は、韓国の「THAAD」(超高高度ミサイル網)設置に対して、強烈な妨害工作をしている。
その一環として、韓国企業への経済制裁という「嫌がらせ」をしているのだ。
これに対して、韓国政府はWTO(世界貿易機関)への提訴の準備をしていたが、大統領府が拒否した。
大統領府に陣取る「86世代」の「反米・親中朝派」が事大主義で中国へ「媚び」を売ったもの。私にはそう見える。
韓国企業が、最大の被害を受けながら、それを見殺しにしているからだ。こういう「売国的」政治が許されるだろうか。
大統領府はなぜ中国に弱腰か
『中央日報』(9月18日付)は、「青瓦台の一言でTHAAD報復抗議もできなくなった韓国政府」と題して、次のように報じた。
韓国は北朝鮮問題を巡って、中国から二つの不条理な扱いを受けている。
一つは、北朝鮮のミサイルと核の開発中止を依頼されながら、何らの行動もとらず「第三者」的な振る舞いを続け結局、ミサイルと核の実験を継続させたこと。
もう一つは、韓国が自衛措置として「THAAD」を設置した。
それが、中国の安全保障を阻害するとして、韓国へ経済報復を行なっていること。
この二点は、どう見ても韓国にとっては中国の「裏切り」行為である。
この中国の不条理な行為によって、韓国国内ではもはや中国を信頼しまいという傾向を強めている。
だが、大統領府の「86世代」は、「反米・親中朝派」であることから、政府の「米国接近」を快(こころよ)からぬ思いで阻止の動きに出ている。
韓国の国益を忘れて学生運動時代の思想信条に忠実な動きをしているのだ。この問題に付いては、後で取り上げる。
以上のように、韓国政治は「反米・親中朝派」の大統領府と、これに反対する「親米・反中朝派」が対立するという混乱した状態にある。
まさに、「韓末時代」の政治的な混乱を再現した形である。
民主主義国の韓国が、専制政治国の中国や北朝鮮に親近感を持ち、米国の政策に反対しようという動きは理解を超えている。
民主政治の有り難みを知らないと言うしかないのだ。学生時代の青臭さを紛々とさせる行状といわざるを得ない。
米国のトランプ大統領は9月20日、国連で北朝鮮批判の激しい演説をした。
韓国大統領府は、この後で北朝鮮への人道支援を決定している。
北朝鮮では人道支援を必要とするほど、国民の生活が窮迫しているならば、核やミサイルの開発実験をすべきでない。
ところが、韓国大統領府の「反米・親中朝派」は、米国に楯突く形で北への支援を発表した。これぞまさに、「86世代」の意思と読むべきだ。
(1)「 韓国政府は、10月6日に開かれる世界貿易機関(WTO)サービス貿易理事会で、韓国流通・観光分野に対する中国の報復措置の不当行為を指摘する従来の方針を見直すことにした。
産業通商資源部は9月13日の韓中通商点検タスクフォース(TF)会議で、中国に対するWTO提訴検討とともに流通分野などの問題を提起する方針も決めた。
しかしこうした方針が変わる可能性が高まった。
政府の立場の変化は青瓦台(注:大統領府)が事実上提示した『ガイドライン』の影響が大きい。
青瓦台の朴洙賢(パク・スヒョン)報道官は韓中通商点検TF会議の翌日の14日、『韓中間の難しい問題については戦略的な疎通と協力をさらに強化しながら解決していきたい』と述べた。
WTOに提訴しないという方針を事実上明らかにしたものと解釈される発言だった。政府の公式発表を一日で覆したのだ」
韓国政府は、中国による不当な経済制裁をWTOに提訴する方針を固めていた。
ところが大統領府は、この政府決定をひっくり返したのだ。
理由は、今後の北朝鮮制裁で中国の協力を得たいというのが理由である。
だが、北朝鮮のミサイルや核の問題は、すでに米中の二カ国に解決の鍵がゆだねられている。
ここで、韓国がその調整過程へ割って入る余地はなくなっているのだ。
韓国は、日米韓三カ国の一員として行動する以外、選択の方法がなくなったと言うべきであろう。
事態は、そこまで悪化していることに気づくべきだ。
(2)「青瓦台が政府の従来の立場を翻して韓国内部の食い違いを表したのは軽率だったという指摘がある。
特にWTO提訴は実現するかどうかに関係なく、国際社会で公論化して中国に圧力を加える『交渉カード』だった。
金鉉宗(キム・ヒョンジョン)産業部通商交渉本部長は9月13日、WTOに提訴するかどうかについて記者らに対し『オプションとして持っている。カードは一度使ってしまえばカードではない』と話した。
WTO提訴に対する戦略的なあいまい性を維持し、必要に応じて相手に圧力を加えるという意図だった。今後このカードを使用できなくなる可能性が高まった」
韓国大統領府は、極論すればどこの国の利益を慮(おもんばか)っているのか。
韓国企業や韓国国民が、中国の不当な「THAAD制裁」で苦しんでいるのに、それを一顧だにせず、中国のメンツばかりを重視する姿勢は理解を超えている。
国益とは何か。外交の基本はここにある。韓国大統領府が、中国の利益を優先させることは正しいだろうか。
戦時中の日本で、ソ連のスパイを働いた日本人がいた。朝日新聞記者の尾崎秀実(ほつみ)である。
ゾルゲ事件と言われる大掛かりな国際スパイとして、日本の最高機密をソ連に渡していたもの。死刑に処せられた。
尾崎の場合、「日本帝国主義からソ連を守る」目的であったという。
彼は、国内では積極的に日中戦争を鼓舞していた点で、明らかに日本国民を裏切った。日本の軍事力を中国に向けさせ、ソ連を防衛しようと意図したのだ。
尾崎のスパイ事件と、韓国大統領府の「86世代」に共通しているのは、共産主義を信奉している点であろう。
私には、「86世代」が尾崎と同じ行動をとると言い切る証拠はないが、すでに韓国国益を踏みにじっている点に一抹の懸念を持つのだ。
北朝鮮にも甘い「86世代」
北朝鮮のミサイルと核の開発についても、大統領府と政府では見解が異なっている。
政策の最終決定権は大統領府にあるが、大統領府の秘書官の3割は「86世代」の学生運動家上がりの人たちである。
専門性に秀でている訳でなく、文大統領の「お友達」に過ぎない。
換言すれば、政策の素人集団である。
この人たちが、政策の専門家である政府官僚の意思決定をひっくり返している点に危機感を覚える。
本当に大丈夫だろうか、国益を損ねないだろうか、という危惧の念が強まるばかりだ。
ここへ、「尾崎秀実」が現れたら、素人集団は簡単に騙されるだろう。
『朝鮮日報』(9月19日付)は、「北朝鮮危機、右往左往ばかりの韓国政府」と題する社説を掲げた。
文大統領は、最近の北朝鮮問題について「朝鮮戦争以来、最大の危機」と発言している。
だが、大統領府は相変わらずの「能天気」な発言を重ねている。
専門家でない素人集団であるから、事態の深刻さが分からないという面もあろう。
あるいは、「86世代」の「親中朝派」の立場から、あえて重大に捉えずカムフラージュしているという点も考えられる。この期に及んで、なんとも閉まらない話である。
(3)「米国のホワイトハウス、国務省、国防省が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権に対する軍事的な選択肢について再び言及を始めた。
外交的圧力の効果を高めるための駆け引きである可能性が高いが、しかし論理的観点だけから見れば『外交面での努力が実らなければ、最後に残るのは軍事行動』というティラーソン国務長官の発言にもそれなりの説得力はある。
ホワイトハウスのマクマスター国家安保補佐官も『必要であれば軍事的選択肢の準備に早急に取り掛からねばならない』と述べた」
米国連大使は、外交交渉で解決できなければ、後は米国防長官の出番である、とまで言うようになってきた。
その国防長官は、ソウルに被害が及ばないような戦術を採用するとまで発言している。
むろん、北朝鮮を交渉のテーブルに引き出すための発言という意味もあろう。
だが、外交交渉が行き詰まりの色を深めていることは否定できない。
後は、10月18日の中国第19回党大会の新人事決定で、習近平氏が北朝鮮問題に本腰を入れられるか、どうかにかかってきた。
習氏が本格的に介入するとすれば、韓国がWTOへ「THAAD」問題で提訴しなかった見返りではない。
米国の「通商法301条」による経済制裁を恐れているからだ。
ここで、韓国がWTOへ提訴すれば、米国の「通商法301条」調査と併せて効果はさらに上がるはずだ。
韓国大統領府は、「親中朝派」である故、中国の逆鱗に触れないよう逃げ回っているに過ぎないのだ。
(4)「このような状況で韓国の外交・安全保障政策の担当者やその周辺の動きには心底懸念せざるを得ない。
例えば、韓国国防部(省に相当、以下同じ)の宋永武(ソン・ヨンム)長官が『金正恩氏を殺害する斬首部隊を創設する』と発言すると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特別補佐官がこれに反対した。
すると宋長官は『学者の立場から騒ぎ立てている。安全保障特別補佐官とは思えないほど嘆かわしい』と批判した。
しかしその宋長官もつい先日まで『米国の戦術核兵器再配備を検討する』と明言していたものの、最近は『検討しない』と言い出した。大統領がこれに反対しているのがその理由だろう」
韓国国防長官が、「金正恩氏を殺害する斬首部隊を創設する」と発言した。
大統領府がこれを否定するというちぐはぐな動きだ。
「86世代」の「親中朝派」からすれば、考えもつかない発言に映るのだろう。
大統領府が恐れるのは、彼らに「尾崎秀実」的なしがらみがあるからだろうか。
疑わしい動きである。
戦術核兵器の再配備問題でも、国防部と大統領府は食い違っている。
政府と大統領は事前に意見の摺り合わせをしていないに違いない。となると、韓国には二つの政府があるようなものだ。
(5)「この重大問題を巡って、国防長官の言葉がわずか数日で180度変わるなど尋常ではない。
また韓国統一部は、北朝鮮に800万ドル(約8億9000万円)規模の人道支援を行う方針を明らかにしている。
国防長官は『支援の時期はかなり遅らせる』としている。
8月、北朝鮮が発射したミサイルについて、韓国大統領府が『放射砲だった』と発表した。
しばらくして、国防部が『弾道ミサイル』と訂正する騒ぎが起こってからまだ20日しかたっていない。
誰が正しくて、誰が間違っているか。そういう問題以上に、このような状態で文大統領が、『6・25戦争(朝鮮戦争)以来最大の危機』と語る、今の現状をどう越えていけるのだろうか」
大統領府が、北朝鮮発射のミサイルについて、「放射砲」と発表した。
これについて、国防部が「弾道ミサイル」と訂正した。
この一件こそ、大統領府が北朝鮮のご機嫌伺いをしている感じを否めない。
だから、北朝鮮の横暴を許す結果になるのだろう。毅然とした対応する気構えが微塵もないのだ。
「86世代」は、「親中朝派」という根本的な欠陥を抱えている以上、それは政権内部に「尾崎秀実」を抱えているのも等しいことだ。
(2017年9月27日)