在宅・施設での臨床を行っていると、抗けいれん薬やジゴキシンを内服している方も、結構いらっしゃいます。そのような方の血中濃度を測ることもあるのですが、それに対する明確な基準は自分たちのなかであまりなく、正直言って、「最近とっていないし、一応とっておくか」と血中濃度の採血をオーダーすることも多いです。お恥ずかしい・・・。ということで、勉強会で「薬物血中濃度 (抗けいれん薬、ジゴキシン)の測定を定期的に行う必要があるのか?」というテーマを扱いました。前提として、抗けいれん薬は必ずしも血中濃度を有効濃度にする必要はないこと、ジゴキシンはむしろ血中濃度が日本の基準より低い方が予後がよいことなどがあります。それらを前提として、血中濃度測定がどのなのかという話しになります。
<薬物血中濃度 (抗けいれん薬、ジゴキシン)の測定を定期的に行う必要があるのか?>
★日本神経学会 てんかん治療ガイドライン(2010)
血中濃度測定は、①血中濃度上昇による副作用出現時、②薬剤の服薬状況の確認、③投与量決定の際に測定が推奨(グレードB)
多剤併用時・妊娠前・妊娠中・肝障害・腎障害など臨床上必要があるときに測定(グレードC)
★ILAE(国際てんかん連盟)の勧告(2008)
①望ましい臨床効果が出たとき、後の変化にそなえてその患者の治療域を確認する、②臨床的な中毒の診断補助、③コントロールが悪い患者のコンプライアンスの評価、④小児・高齢者・処方変更時など、⑤薬物動態が変化する際(妊娠時・相互作用を有する薬物の追加や中止)、⑥フェニトインの用量調整
★Tomson TらのSyst Rev(コクラン2007)
1個のRCTが根拠:新たにてんかんと診断された患者を対象に血中濃度測定群と非測定群で、「12か月発作がない」、「副作用の出現」で差がなし。
単剤治療に関してはルーチーンで血中濃度測定するエビデンスはないと結論(ただし、多剤など特殊な状況ではわからない)
★Jannuzziらの報告(Epilepsia 2000):上記のRCT
部分発作・全般発作をおこし薬剤投与が必要と判断された6~65歳の患者を対象に血中濃度測定群と非測定群に割り当て。
主なアウトカムは上記。フェニトインのみが、血中濃度測定が効果的であった。
★ACC/AHAの心不全ガイドライン
いったん投与量が決まったら、次の状況で血中濃度測定を推奨
①腎機能低下など中毒になりやすいパラメーターの変化、②相互作用のある薬の追加や中止、③アドヒアランスを評価、④ジギタリス中毒を疑う症状ある時
★Kathleenらの報告(J Manag care pham 2011)
カルテレビューの後ろ向き調査:ジギタリス内服中で9か月の間に血中濃度測定を行っている90例のプライマリケアの患者を対象。
⇒38.9%はルーチーンの検査。(そのうち半数弱はKや腎機能チェックなし)
中毒症状でないかの確認:33.3%、投与量の変更後5.6%、薬剤相互作用のチェック3.3%、アドヒアランス評価1.1%・・・。
適切なジギタリスの血中濃度測定がされていないのではと結論。
以上、勉強会で調べた内容でした。まず、抗けいれん薬に関しては定期的な採血は必ずしも必要ないのかなとおもいます。ただし、副作用を疑う時、てんかんのコントロールがうまくいかない時、相互作用のある薬剤の中止・追加などに関してはチェックしたほうがよいのかなと感じました。その半面、高齢者や腎・肝機能障害のある患者に関してエビデンスが少ないので、どうなのかあと感じました。 ガイドライン含めて根拠となっている論文は高齢者はまったく対象としていないので、そのあたりが難しいところです(多剤併用も)。ジゴキシンは、あまりエビデンスはないのですが、ルーチーンではなく、ガイドラインを参考にすると、やはり副作用を疑ったときや相互作用のある薬をのんでいるとき、あと薬物動態的にも腎機能障害があるときなのでしょうか。今回調べてみて、この内容に関してはガイドラインなどの内容も意外とエビデンスが多いわけではないのだなとおもいました。