非がん終末期の患者さんと関わっているなかで、家族と状況を共有して苦痛軽減を目的にケアを行っていく方向性となったときに、時々経管栄養や点滴が苦痛を強めているのではないかと感じることがあり、医師間や他職種で協議したのちに、それらの人工栄養を減量(点滴は時に中止)することがあります。そうすると、痰が減ったり、肺炎となる頻度が減ったりして苦痛が軽減されているような状況となることを経験していました。そのようなこともあり、今回は下記の内容について調べてみました。がんでは点滴を中心に様々なエビデンスがありますが非がんにおいては少ないのが現状ではありました。
<終末期における人工栄養の減量・中止は苦痛の軽減につながるのか?>
人工栄養の中止を行った重度認知症のナーシングホーム入所者178例を対象に前向き観察研究。
Discomfortのスケール(Discomfort Scale-Dementia of Alzheimer Type)を経時的に測定。
Discomfortスケールの平均値は中止時が最も高く、その後、日が経つにつれて低下。(苦痛症状の平均数も日が経つにつれて低下)
⇒論文の結論:人工栄養の中止はDiscomfortスケールの高さとは関連しない(ただし、対照群がないので解釈は注意)。
重度認知症患者においては、人工栄養の中止は容認できる意思決定であろう。個別性があとは重要。
Pasman HRらの報告(Int Psychogeriatr 2006)
人工栄養の中止を行った重度認知症のナーシングホーム入所者178例を対象に前向き観察研究。(最長6W)
59%の患者は中止後1週間以内に死亡。
呼吸苦・アパシーがある患者、施設の医師が重度の状態と判断した患者は有意に死亡。不穏状態の患者は有意に高い生存率であった。
Buiting HMらの報告(J Pain Symptom Manage 2007)
ヨーロッパの6か国で死亡届をもとに2万例程度調査。人工栄養の中止を行っていた割合はイタリア2.6%からオランダ10.9%まで。人工栄養の中止は、女性・80歳以上・悪性腫瘍・神経疾患(認知症含む)で有意に多く認めた。
1つめの論文が疑問に近いものでありましたが(というかあとの2つはおまけのようなものでのせました)、様々な研究の制限はあり、このまま実臨床に結び付けるのは難しいのかもしれません。(対照群がないのは大きな制限でしょうか・・・スケールの内容からみても亡くなる直前になるにつれてスケールは自然と低くなる可能性もあるかと思います) このような内容は倫理的側面で医師に葛藤がおこる部分であると思います。このような分野での研究がさらに進めば、適切な看取りのケアが推進させるのではないかなと感じました。