顔認識が支持政党や性的指向まで判別…AIの発達が招きかねない恐怖とは
Mi Molet より 加谷 珪一 210313
人の顔の特徴をAI(人工知能)が分析することで、性的指向や支持政党までも判別できるという米国の研究が波紋を呼んでいます。顔の特徴だけで人格を判断することは不可能というのがこれまでの標準的な見解であり、この研究に対しては「トンデモ科学」との批判も出ているようです。
一方で、顔つきや表情などから、相手についてある程度までなら推測できるという話は、(科学的な根拠はなかったものの)人と会うことを仕事にしている人の間では共通認識でもありました。これまで曖昧なままにされていた話が、AIの発展によって顕在化してしまったわけですが、これは非常にやっかいな問題といってよいでしょう。
スタンフォード大学の研究者によると、顔認識アルゴリズムを使って100万人の顔を分析したところ、分析対象者がリベラルなのか保守なのかという違いについて約7割の確率で判別できたそうです。
これはAIが多数の顔を見て学習した結果ですから、どのような理由で判断したのか明確な基準は分かりません。ただ、政治的傾向によって、カメラにまっすぐに顔を向けているかどうか、嫌悪の表情が見られるかといった部分が影響した可能性があるとのことです。
AIをビジネスに応用するという視点においては、7割の正答率というのは成績が良い部類には入りませんが、個人の性格や政治思想がある程度までなら推測できるということになると、政治的、社会的には話が変わってきます。
実はこの研究者は、AIによる分析で性的な指向も推定できるという論文を出しています。仮にAIによって政治思想や性的指向が推測できるということになると、危険な事態をもたらす可能性があります。誰でも思い浮かぶのはやはりナチスドイツでしょう。
ナチスドイツは特定の民族を弾圧しましたが、その矛先は同性愛者など性的マイノリティにも及びました。人権を無視する人たちは、基本的に決め付けで物事を進めますから、正答率が低いAIであっても、政治的には悪用されてしまう可能性が十分にあるわけです。
これまでは、人の表情を見ただけでは、その人の内面は分からないというのが科学的な常識であり、表面だけで人を判断してはいけないというのは社会道徳でもありました。仮にAIで人の思想を推定できるということになると、この技術を社会としてどう扱うのか、大きな問題に発展するのは間違いありません。
一方で、表情や顔つきから相手の考え方を想像するという行為は、私たちも日常的に行っています。人材の採用やマネジメントなどに携わるビジネスパーソンの中には、実際に仕事に応用している人もいるというのが現実です。
筆者の知人の企業経営者は、人の採用にあたって、経歴など十分に吟味した上でという前提条件付きですが、最終的に候補者の顔つきや表情を重視すると語っていました。実際、長年会っていなかった人と再会すると、顔つきが大きく変わっていてビックリすることがありますが、話をよく聞くと、仕事の環境が変化していたというのはよくあるケースです。
AIによって思想を分析できるというこの研究結果が正しかった場合、私たちが無意識的に行っていた心の中の作業をシステムが代行し、明示的に結果が示されるということになります。確かに両者は同じ行為かもしれませんが、個人が心の中で実践するものと、システムが機械的に実施するものとでは社会的な意味がまるで違ってきます。
私たちの知らないところで顔認識技術の応用は着々と進んでおり、個人のプライバシーは丸裸にされつつあります。心の中の問題までAIが立ち入るということになると、さらに社会は息苦しいものとなってしまうでしょう。
この研究は、あくまでひとつの研究でしかありませんから、今、もっとも大事なのは、本当にAIで思想を分析できるのか検証を進めることでしょう。
完全に結論が得られていない段階で、トンデモ科学と決めつけたり、差別を助長するので研究を禁止するといった措置を取っても根本的には何の解決にもなりませんし、逆に不完全な研究成果をもとに実務に応用することもあってはなりません。
まずはこうした表情分析が本当に可能なのか検証を行い、仮に実現可能という結論が得られた場合、その技術が悪用されないよう、社会的な合理を得ていく必要がありそうです。
テクノロジーが進化すると、必ず負の面が顕在化してきますが、これはいつの時代でも同じ事です。人間は常にテクノロジーがもたらす弊害についてうまく対処し、プラスの面を活用することで文明を発達させてきました。AIの分野においても、きっと同じ解決策を得ることができるはずです。
💋国家権力維持に最適な技術…既に…