2021年3月で廃止のバス路線まとめ【西日本】 変化大きい京阪神の北 市営由来の路線苦境
乗りものニュース より 210324 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)
2021年3月に廃止される近畿以西のバス路線をまとめました。
阪急バスの中でも変わった歴史を持つ路線や、市営のルーツを持つ路線、コロナ禍の影響を思わぬ形で受けた路線など、多くが姿を消します。
⚫︎京都・大阪・兵庫の府県境付近で大きな変化
年度末の3月は多くの地域でバス路線の整理が行われますが、2021年3月には、全国の名物路線も相次ぎ姿を消します。今回は西日本の主なものを見ていきます。なお、特記以外は3月31日(水)最終運行、4月1日(木)廃止です。
🚌阪急バスの山間部路線が整理
●阪急バス(元・阪急田園バス)「三田線」「武田尾線」 ・廃止区間:「三田線」三田駅北口~波豆、「武田尾線」波豆川~上佐曽利 ※いずれも区間短縮
前身から含めると100年近い歴史を持つ兵庫県宝塚市北部の阪急バス宝塚営業所「西谷出張所」が閉鎖され、同市西谷地区から三田市中心部に向かう路線などが運行を終了します。
1955(昭和30)年まで川辺郡西谷村(にしたにそん)であったこの地域は山深く、最寄り駅となる福知山線 武田尾駅(宝塚市)までの移動も困難を極めていました。上記の路線は、バスの開通を待望する住民の共同出資によって1924(大正13)年に発足した西谷自動車が開設したものです。戦後は阪急の資本参加を経て1997(平成9)年に阪急バスの子会社「阪急田園バス」に。さらに合併で「阪急バス」となったのは2019年のことでした。
西谷地区から三田市方面へ通じる三田線は、宝塚市側よりも中心部への距離が近いこともあり、地域からの強い要望で1957(昭和32)年に開設。しかし現在では1便あたりの利用者数も5人を切るなど低迷が続いていました。今後は、共同で路線を運行していた神姫バスによって三田市内のみの路線として運行され、市境近くに新設される「関西学院大学千刈キャンプ前」から宝塚市の「波豆」まで、1kmほどの区間で運行が途切れます。
●阪急バス「西能勢線」(73系統)、「妙見口能勢線」(74系統) ・廃止区間:能勢町宿野~能勢の郷(西能勢線)、能勢町宿野~奥山内(妙見口能勢線) ※いずれも区間短縮
大阪府の北端に位置する能勢町は、猪名川水系の複数の川が町内を流れ、谷筋から谷筋への移動は峠越えを必要とします。今回のダイヤ改正では、そのうちのひとつ「大坂峠」を越える区間が廃止に。大阪府内とは思えないヘアピンカーブを抜ける阪急バスが見られるのも、あと僅かとなりました。
今回の廃止区間はもともと阪急バスではなく、能勢町の北隣の京都府亀岡市をエリアとする京都交通(現・京阪京都交通)によって運行されていました。2003(平成15)年に同社は大阪府側から撤退しましたが、元来この辺りは、大阪から京都府の亀岡や園部などに至る古来からの街道が複数あり、かつては京都交通、阪急バス、高槻市交通部(高槻市営バス)が様々な府境越え路線を運行していました。なかには、いまでも峠道に朽ち果てたバス停が残っている場所もあります。
⚫︎引き継いだものの強力なライバルが…元・市営バス路線の苦境
「〇〇市交通局」など自治体が運営する路線バスは、かつては多く存在しましたが、民間への路線移譲が進んでいます。今春のダイヤ改正では、市営路線や市営の名残を残す路線の廃止や大幅減便などが行われます。
🚌●山陽バス「明石線」(60系統、67系統) ・廃止区間:明石市役所前・明石駅~朝霧駅
JR明石駅に乗り入れる山陽バスの2路線が運行休止となり、この改正によって山陽バスは明石市の市街地から姿を消すことになります。これらはもともと、2012(平成24)年に事業を終了した明石市営バス(明石市交通部)の路線です。
明石駅と朝霧駅を結ぶこの路線は、神戸市垂水区の市境にある「明石舞子団地」(明舞団地)を経由するため、ルートとしてはやや遠回りになるものの、団地と駅には相当な高低差があることから、住民の足として本数・系統ともに多く運行されています。
明石駅~明舞団地間は、同じく旧市営バス路線である神姫バス80系統も運行していますが、「競争原理とリタンダンシ―(補完性)確保」との目的で、長らく途絶えていた山陽バスの明石駅への乗り入れが市営バス廃止とともに実現した経緯があります。しかし競争の厳しさとともに運転手の確保も難しく、コロナ後に利用者数が3~4割減少したことで廃止の決断に至りました。
🚌●北九州市営バス(5つの系統で起終点見直し、巡回バス化) ・廃止区間:熊手四ツ角(黒崎ひびしんホール側)~八幡西郵便局前、久岐の浜市営住宅前~久岐の浜1号公園前、縄手(旧道側)~浅川小学校前
(3月20日廃止)
北九州市交通局(北九州市営バス)は運行の効率化と路線の維持を図るべく,今回のダイヤ改正で路線を「幹線」系統と、これに接続し比較的狭い範囲で乗り換え,バス停と主要施設を結ぶ「支線(フィーダー)」系統とに分け,うち5つの系統で起終点などを変更し「巡回バス」とする再編を行います。これにより八幡西区で8つのバス停が廃止される一方,これまで西鉄バス北九州の路線のみ乗り入れていた「JCHO九州病院」への延伸も行われます。
旧若松市交通局を母体とする北九州市営バスは、おもに北九州市の西側にあたる若松区、八幡西区の輸送を担ってきました。しかし近年では乗客数が全盛期の3割と厳しい状況が続き、民営化しても移管後の路線維持に補助金がかかるため、当面は公営のまま維持される見通しです。
その代わりとして事業計画で定めた合理化を進め、2020年春にも休日ダイヤの4割削減と大規模な路線再編、8路線でワゴン車の導入と、大ナタをふるったばかりです。その後もこまめに変更を行い、利用が少ない区間は車両をワゴン車化する一方、利用者が多い区間は快速を設定するなど急ピッチで対策を進めています。
⚫︎「ベタ踏み坂」を行くバス廃止 ローカル路線や観光路線にもその波が
今回のダイヤ改正では、新型コロナウィルスの感染拡大による影響も各所に見られます。観光客の減少などが直接の原因となって路線を整理するケースもあれば、思わぬ形で煽りを受けるケースもあります。
🚌●一畑バス「松江境港シャトルバス」 ・廃止区間:松江駅前~境港駅前
島根県と鳥取県にまたがる湖「中海」に架かる「ベタ踏み坂」こと江島大橋を渡るこの路線も、3月をもって廃止。
橋の東側の鳥取県境港市は、故水木しげるさんの出身地として知られ、「鬼太郎ロード」をはじめとする観光資源が豊富です。この境港と島根県松江市を周遊するうえでバスは重要なルートでしたが、緊急事態宣言後は観光客数が大幅に減少し、路線の維持が困難になりました。
なお米子鬼太郎空港から松江市内へ向かう空港シャトルバスは変わらず運行されるほか、JR境港線や境港市内の多くの路線バスも空港を経由しています。
🚌●伊予鉄バス「河中線」(73系統)、立岩線、丹波線(14系統)・五明線(70系統、71系統) ・廃止区間:松山市駅~米野々(河中線)、北条~庄府・小山田(立岩線。難波経由含む)、松山市駅~森松~丹波(丹波線)、伊台~城山・野外活動センター、伊台~向陽第一公園前、道後平入口~南白水三丁目(以上、五明線。部分廃止)
松山市を中心に事業を運営する伊予鉄バスは、一挙に4路線の廃止(うち1路線は区間廃止)を発表しました。各路線とも市東部の山脈に分け入る系統で、全体の減収の影響を、こうしたローカル路線が受けた形となります。
山あいにある河中線の終点では、かつて多くの地域で見られたバスの停泊運用施設(運転手の宿泊施設)の名残りも見られます。道路事情が良くなかった頃は、地域の人々が市街地に出るため、泊まり込みで早朝便を運行しており、ゆったりとした待合所などにかつての賑わいを感じ取ることができます。
伊予鉄バス北条営業所。ここから庄府・立岩方面のバスが廃止される(宮武和多哉撮影)。
4路線の運営はコロナ禍の前から厳しく、立岩線の沿線地域では住民の強い要望によって買い物施設への無料送迎バスが運行されていたり、丹波線の沿線では新道沿いに他社の特急バスが運行されていたりすることも、廃止に至った要因です。
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🚌このほか、滋賀県大津市では江若交通の路線バスが大幅に再編され、堅田葛川線の名物バス停、その名も「途中」発着の系統が廃止され、「途中」は文字通り途中のバス停となるなどの変化が生じています。
※一部修正しました(3月24日11時08分)。
※※※※※※※※ 追補※※※※※※※※ 3/25
2021年春の廃止路線、開業など高速バスに関する動きをまとめました。感染症拡大による移動の自粛が長引き、かつてドル箱であった路線も休止せざるを得ない中、これまでにない発想の高速バス路線も生まれています。
頼みの綱「羽田空港発着」もならず 名物夜行バス廃止
2021年春には、高速バスも路線の廃止や新設などのダイヤ改正が行われます。全国の主な動きをまとめました。
🚌京急バス 夜行から完全撤退
●京浜急行バス ・廃止:品川・渋谷~鳥取・倉吉線「キャメル号」(共同運行先の日の丸自動車・日本交通とも)
・休止:品川・渋谷~徳島線「エディ号」(共同運行先の徳島バスも)
・撤退:横浜~東京~宮古・山田線「ビーム1」(岩手県北バスは運行継続)
・撤退:横浜~東京~弘前・五所川原線「ノクターン号」(弘南バスは運行継続)
京急バスは今回のダイヤ改正で、長距離夜行バスの全路線から事実上の撤退を選択しました。各路線とも新型コロナの影響などで2020年から運休が続いており、そのまま2021年3月15日をもって運行を終了しました。
いずれの路線も運行開始は1986(昭和61)年から1989(平成元)年と30数年の歴史を持ち、「首都圏から鉄道では到達しづらい地方を結ぶ」「鉄道より低運賃 」という、今の高速バスの先駆けとして成功を収めた路線ばかり。この後起きた「夜行高速バスブーム」ともいうべき参入の波は、都市圏の事業者だけでなく、経営基盤が弱い地方の事業者にも大きな利益をもたらしました。
また各路線とも利用者数は極めて多く、特に当時、智頭急行線や鳥取自動車道などが未開通だった鳥取を目的地にした「キャメル号」は年間利用者が5万人以上、青森を中心とする鉄道網から外れていた弘前・五所川原を目指した「ノクターン号」は年間利用者数7.6万人、もちろん何台もの車両によって運行されていました。
そしてこれらの路線が華やかなりし頃の姿を、図らずもテレビ番組「水曜どうでしょう」の人気シリーズ「サイコロの旅」で見た人も多いのではないでしょうか。
次の移動手段をサイコロで決める同シリーズで、「キャメル号」は1997(平成9)年放送のシリーズ第3弾に、「ノクターン号」は1999(平成11)年放送の第6弾で登場。ノクターン号は追加料金で乗車できた「スーパーシート」(当時)の広さ・快適さに「東日本の女王」との賛辞が送られています。その他「エディ号」「ビーム1」も選択肢に登場し、今はなき夜行バス・列車も多く登場する同番組の映像は、歴史的な価値があるといえるでしょう。
しかし近年では競合の増加などで各路線とも低迷が続き、「キャメル号」も2020年4月に、京急のお膝元ともいえる羽田空港(羽田エアポートガーデン)への乗り入れによって打開を図ろうとしていました。しかしこのタイミングで感染症が拡大し、乗り入れの延期ののちにバスの運行そのものも休止を余儀なくされました。なお、夜行バス以外でも、羽田空港に発着する鬼怒川温泉、鹿島神宮方面の路線から撤退するなどしています。
⚫︎直撃「インバウンド路線」の苦境
岐阜県高山市を中心に路線バス・高速バスを運営する濃飛バス(濃飛乗合自動車)も、複数の高速バス路線を2021年4月1日付けで廃止すると発表しています。
🚌●濃飛バス ・廃止:高山~富士山線(共同運行先の富士急バスも)
・廃止:高山~扇沢線
・廃止:特急バス神岡~平湯温泉線(共同運行先の富山地方鉄道も)
濃飛バスが拠点とする岐阜県高山市の周辺は、新型コロナの流行前は外国人観光客に人気を博し、同社はさらに「立山・黒部アルペンルート」の入口である扇沢や、定番スポットといえる富士山など、他の観光地と自社エリアを高速バスで結び、さらなる滞在の増加をうながす戦略をとっていました。しかし、上記の各路線とも2020年4月から運休が続き、再度運行することなく今回の廃止に至っています。
一方の神岡~平湯温泉線は、JR富山駅・富山空港から上高地・乗鞍への玄関口である「平湯温泉」へダイレクトに乗り入れる路線ですが、2016(平成28)年の路線開設から早々に一部便のワゴン車への車両変更・運転本数減など、厳しい状況が続いていました。神通川の上流にあたる高原川沿いの霧深い谷を分け入り、3時間近くかけて運行されるこの路線は、「インバウンド向け秘境ローカル路線バス」とも言える佇まいがあり、その廃止が惜しまれます。
🚌●宮崎交通 ・廃止:宮崎~大分線「パシフィックライナー」(大分交通ほか共同運行5社とも)
・休止:宮崎~鹿児島線「はまゆう号」(共同運行先の南国交通も)
・休止:延岡~宮崎線
宮崎交通も4月1日付けで、1路線を廃止、2路線を休止します。九州の高速バスは、エリア内が安価で乗り放題となる「SUNQ(サンキュー)パス」の利用者が多く、近隣の地域からパスで宮崎へ立ち寄る際の選択肢が一気に減少するといえます。
「パシフィックライナー」は2015(平成27)年、東九州自動車道の大分~宮崎間が全通したことを受けて開業したものです。大分~宮崎間のバス路線はかつて一般道経由で存在したものの、道路事情などから長く営業できず、宮崎交通にとってはリベンジといえる開業でした。しかしこの高速道路を経由する数系統のバス路線も利用がなかなか伸びず、いずれも早い段階で休止・廃止となっています。
また1982(昭和57)年の開業当時から毎時1~2本程度の運行が確保されてきた「はまゆう号」は、宮崎・鹿児島両県の県庁所在地を結ぶだけでなく、宮崎空港・鹿児島空港からの利用も多かったため、空港利用者の大幅減も影響が大きかったと見られます。
高速バスの次なるトレンドは「密なし通勤」「近くへ快適に」?
「地方から大都市への足」「観光地への足」など、高速バスがこれまでの成功事例に頼ることが難しくなる中、「近距離」「主要鉄道駅を経由しない」「通勤時間でリモートワーク」など、新たな需要に路線に活路を見出す事例が増えています。
🚌●神姫バス ・開業:姫路市内~三宮・神戸空港線「快適特急 らっきゃライナー」 ※実証実験
・増便:三田~大阪線(阪神バスが共同運行に参入)
JR神戸線の新快速で約40分の姫路~三宮間、一見すると高速バスが参入する隙間はないかに見えます。しかし「らっきゃライナー」がカバーするのは姫路市北部の田寺・横関・大寿台など、渋滞などによって姫路駅へのアクセスに時間がかかる地域ばかり。市の中心部である姫路駅・姫路城近辺を経由せず三宮方面を目指す新路線です。
神姫バスはほかにも今回のダイヤ改正で、兵庫県三田市郊外の「ウッディタウン」から三田駅に寄らず大阪市内へ向かう路線の大幅増便、終バス繰り下げなど、思い切った施策を行っています。姫路と三田はともに「市のJRの中心駅から乗っても座れない」(手前側の駅から混雑している)ことで知られ、鉄道と違って「座れる」という利点を発揮しているといえるでしょう。
また、こうした通勤目的のバスでは、東急バスが2021年2月から4月の平日に実証実験として運行している「Satellite Biz Liner」(たまプラーザ駅~東京駅)も特徴的です。「シェアオフィスバス」とのキャッチフレーズでリモートワークの環境を整え、東急田園都市線ユーザーへ新しい通勤スタイルを提案しています。
🚌●京成バス・小湊鉄道 ・開業:松戸駅~三井アウトレットパーク木更津線
京成バスと小湊鉄道も3月16日から、「近場の買い物」に主眼を置いた新路線を開設。松戸に近い外環道を活用したもので、松戸駅と三井アウトレットパーク木更津をノンストップ、最短75分で結びます。高速バスのトランクルームにベビーカーや大きな荷物も預けられ、ショッピングの役に立ちそうです。
※ ※ ※
このほか、路線の統合や延伸も行われます。
🚌東急バスはフジエクスプレスと共同(富士急湘南バスから変更)で4月1日から、日吉・たまプラーザ~御殿場プレミアム・アウトレット線を、山中湖や富士急ハイランド・河口湖まで延伸します。日吉方面~河口湖方面の直行便と、御殿場プレミアム・アウトレットパーク線を統合する形です。
また山梨交通と京急バスも4月16日から、これまで別々に運行していた竜王・甲府~羽田空港線と、竜王・甲府~横浜駅線(特定日のみ運行)を統合し、横浜駅経由の羽田空港線として装いを新たにします。