奈良県 奈良市法蓮町 不退寺裏山墓地五輪塔
不退寺の北、直線距離にして100mほど、門前の細い道を左にとって小さい池の横を通り、ウワナベ古墳の森を広い国道越しに左手に見ながら150mほど北上すると右手、人家奥の斜面に墓地がある。墓地に入ると左手、奥まったところの斜面下に大きい五輪塔があるのがすぐわかる。四角く形成した黒っぽい安山岩を組合せて区画して一段高い基壇状に作っているが、石材の断面が新しいことから基壇状の区画は当初からのものとは考えられない。おそらく今の場所は原位置ではなく、どこか近くから移されたのではないかと思われる。火輪は地輪と少し時計と逆方向にずれている。在原業平の墓というのは、もとより伝承に過ぎない。複弁反花座は、一辺5弁の蓮弁を持ち、蓮弁の傾斜は緩く、側面の高さは全体の1/3程度と低い。地輪は低めで、水輪はやや重心を上にとった球形で、厚めに切った火輪の軒反りは力強く、風輪は少し背が高い椀形、空輪はやや押しつぶしぎみの宝珠形を呈する。各部のバランス、保存状態ともに良好。隙のない整美な姿に厳しさを秘めた佇まいを見せる。無地で無銘。総高246cm、塔高222cmと大きい。きめの細かい青みがかった良質の花崗岩製。典型的な鎌倉後期仕様の大形の五輪塔である。台座の蓮弁5枚という例はあまり多くなく、天理市長岳寺五智墓に集中して例がある。不退寺と長岳寺を結ぶものは何であったのだろうか。いずれにせよ何らかの律宗系の影響下に1300年を前後する頃に、高僧の墓塔ないし墓地の惣供養塔として造立されたものとみて大過ないのではないだろうか。
参考:清水俊明 『奈良県史』第7巻石造美術 128ページ
(財)元興寺文化財研究所 『五輪塔の研究』平成4年度調査概要報告