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紅夜叉は利用された

2007-01-27 07:26:09 | Weblog
現役続行を宣言したブル中野は全女側と今後をフリーのような状態で試合する事で合意した。
制約に縛られず色んな選手と戦いたい、という対抗戦を見据えての決断である。
もちろん全女のブル中野として対抗戦を戦うつもりだ。
今後の身の振り方についてブルはLLPWにも顔の利く宍倉に相談した。
  「中野さん、なんかまた痩せたんじゃない?」
「そうですか?皆からは若返ってるって言われてるんですよ」
そうですか、と宍倉は笑ったが何か淋しい感じがしてならなかった。
「今後は今まで戦ったことの無い選手と戦っていきたいんですけど・・どうでしょう」
  「ああ、対抗戦ですね。もう赤いベルトには未練は無いのかな?」
「ええ・・・それよりも他にファンの人達が望んでるカードがあるなら」
そうか、ブルの表情から王者としての険が消えたのか、と宍倉は気付いた。
  「中野さんならデビルや関西との対決も見てみたいけどな」
誰か戦いたい選手はいるの?と宍倉はブルに訊ねた。
はい、と急に真顔になりブルは宍倉に鋭い視線を向けた。
「LLPWの神取選手です。宍倉さんは彼女と仲良いんですよね?」
  「うん、仲良いよ。LLの連中とは結構ね」
宍倉は得意げに答えると、なぜ神取なの?と訊ねた。
「うん・・やっぱり女子最強と言われるほどの選手ですからね・・興味あります」
  「しかし神取は北斗が狙ってるからねぇ・・どうなんだろう」
「神取に勝って欲しいです。アタシと戦うまで神取は最強でいて欲し い」
神取-ブルか、それも悪くない、と宍倉は思った。
  「今度の後楽園大会に神取も来るだろうから挑発してみたら?」
「いいえ。神取とは別の機会に。余計な因縁とか関係なく戦いたいんです」
チッ・・ノリが悪ィな、と宍倉は心で舌打ちした。

会場はその全てが全女最強論支持者と言っても良い状況であった。
今日の試合に名乗りを挙げたハーレーの実力を確かめる、そんな気は毛頭無い。
ただ北斗が神取をどのように挑発するのか、その一点に観客の意識は集中していた。
女子最強は全女にこそ存在すべき、そんな選民意識が会場内に充満する。
半田は緊張の面持ちで出番を待っていた。言葉は無い。
イーグルと神取が平静を装い明るい口調で会話を進める。
ハーレーはただじっと目を閉じ北斗との戦いをイメージしている。
北斗は間接の取り合いが下手だ・・・それがハーレーが抱いた北斗のイメージだ。
いつも神取と練習しているLLPWが北斗に負けるはずが無い・・・
神取が何事かハーレーに声をかけ、肩をポン、と叩く。
何ですか?と聞き返すハーレーに神取は「何でもないよ」と笑った。

ゴングの音と観客の声援が聞こえる。セミファイナルが終わったようだ。
北斗が鋭い眼光で三田と下田を睨みつける。
「あんな奴等にナメられるなよ・・」
一方のLL控え室では神取が場を和ませようと軽い口調で呟く。
「さ、さっさと片付けてかえろうよ」
そして・・・・全女とLLPWの対抗戦が始まる。


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