かづの駄日記  ~ kadzuno・da・nikki ~

秋田県鹿角市から気ままに綴る、名も無き田舎者の喜怒哀楽、一期一会。

今は昔 桃の恩返し・・・

2021-09-26 09:55:54 | 鹿角(かづの)
昔 爺さまと婆様、娘と孫娘の四人が暮らしている家がありました。
そこは、町はずれで夜ともなれば真っ暗でとても寂しい一軒家でした。

十五夜の前の日の夜の事です。夕ご飯を食べようとしていると トントン、トントンと戸を叩く音がしました。
爺さまが「どなたです?」と尋ねると「夜分、すみません」と真っ暗な戸口から女の人の声が聞こえました。
爺さまは暗くなってしまった時間に誰かはわかりませんでしたが「ちょっと待ってください、今開けるから」とそっと戸を開けました。

するとそこには薄い赤い色の着物に白いかぶり物をした若い女の人が立っていました。
爺さまの顔を見るとその女の人は「桃、要りませんか?ハジキ桃。ハジキだけど甘いです」というのでした。

爺さまは「食べ物のことだと俺には分からない、チョット待ってくれ」と娘を呼びました。
娘はその女の人が桃は荷車にあるというので見に行きました。



しばらくして娘が戻ってきて「30個も有るって。一日中売り歩いて、売れ残ったのでまとめて買ってほしいって」
婆様が「30個もだと多いねでも、何処の人かはわからないけど、断ったら持って帰るんだろうね 気の毒なことだ」
爺さまは娘に「お前と同じくらいの年前だな、家には子どもがいるんだろうな、いいから買え」と
娘が「そうだね、甘くておいしいと言っているしね」と 女の人からハジキ桃30個を受け取りました。
女の人は深々とお辞儀をして、桃を戸口に置くと暗闇の中、何処かへと見えなくなりました。
ハジキ桃は少し小さく、そしてリンゴのように固い物もありましたが女の人の言う通りとても甘い桃でした。

次の日、満月の十五夜に婆様が餅とナシと枝豆、そして昨日買ったハジキ桃をお供えしました。
爺さまが「一生懸命育てても、ハジキだと二束三文にしかならないからな。気の毒だ」と言いながらハジキ桃を手に取って言うのでした。

それから何日経ったでしょうか? その夜は爺さまと婆様は寄合があって、娘と孫娘が留守番をしていた日の事です。
日が暮れたころにトントン、トントンと戸を叩く音がしました。
娘が「どなたですか?」と尋ねると、戸の外で「前にハジキ桃を買っていただいた者です」と女の人の声がするのでした。

娘が戸を開けるとその時の女の人が立っていました。
娘が「あの日は美味しい桃、ありがとうございました。甘くて甘くて・・・でも食べきれなくてまだ何個か残っているんですよ」と言うと
女の人は「そうですか、今日はお礼に上がりました。あのハジキ桃を十五夜のお供えにしてくださったのですね、ありがとうございます」
「あの桃たちは買っていただけなければ捨てられるか潰されるのでした。それを十五夜のお供えにしていただいて」とお辞儀をするのでした。
娘が「あんなに甘くておいしい桃ですから、お月様もきっと大喜びしたでしょうね」と言うと
女の人は「これはお礼ですので召し上がってください」と大きな立派な桃を差し出しました。
そして「これが今年の最後の桃です」と告げると又、暗闇の中に消えてゆきました。



寄合から戻り、その話を聞いた爺さまと婆様は、外に出てまだ丸いお月様に手を合わせるのでした。

どっとはらえ


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