7月に入ると田んぼでは赤とんぼの羽化が始まる。赤とんぼとは正確に言うとナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボの3種類のトンボが水の張られた水田で一斉に誕生する。今年最初に確認できたのが7月3日だった。約15日間が最盛期。ナツアカネは田んぼ周辺や住宅地に移動、アキアカネやノシメトンボは近くの山に向かい、産卵期の9月になると田んぼに戻ってくる。
朝の田んぼで畦畔を歩くとこれらのトンボは慌てて飛び立って又すぐ止まる。
羽化直後
ノシメトンボの和名は、成虫の腹部の黒い斑紋が熨斗目模様に似ていることに由来する。羽の先が濃色でわかりやすいが、今年はノシメトンボはいつもの年よりやや少ない。
ノシメトンボ 引用
羽化早々のナツアカネ、アキアカネの区別は難しい。「翅胸第1側縫線に沿う黒条の先端が、アキアカネが尖るのに対して、ナツアカネは角状に近く、その黒条の太さの個体差は大きい」等といわれているが素人には判別が難しい。9月下旬の産卵期になるとわかりやすい。
ナツアカネ雄は成熟すると全身赤くなり、「赤トンボ」という名前にふさわしい。雌は腹部背面が赤く色づく。ナツアカネの産卵は雄が前で連結して稲の上から産卵する。空中から卵を振り落とす「打空産卵」と呼ばれている。
アキアカネ産卵は雌雄が結合したまま飛びまわり、稲刈りの終わった水田の水溜りのような産卵適所を探索する。交尾が終了するとやはり雌雄がつながったまま水面の上に移動する。産卵は水面の上で上下に飛翔しながら雌が水面や水際の泥を腹部先端で繰り返し叩き、その度に数個ずつ産み落とす。これらの産卵は午前中が主で午後になるとほとんど単独行動になる。
今年のナツアカネ、アキアカネの発生は何時もの年より数倍多い。田んぼの見回りで畦畔を進むと羽化後飛び出す数が異常に多い。1平方メートル当たり5~7匹は確実。坪当たりにすると20匹前後となり10アール換算で6000匹、30アールの田んぼで2万匹。7月早々から20日頃まで続いている。田んぼで羽化したトンボは数日後住宅周辺へ山に移動したので、発生数はどのくらいになるのだろう。
すべての田んぼが同じなのではない。私の田んぼは除草剤一回使用、極力トンボの幼虫に害を与えない栽培に徹している成果かもしれない。慣行の栽培では田植時に殺虫剤がまかれる。自然乾燥「赤とんぼ乾燥米」をと呼んで30数年を経過している。秋の収穫をコンバイン作業で行うと田んぼ一面に稲わらがばらまかれ、アキアカネの産卵場所が制限される。「赤とんぼ乾燥米」の刈り取り作業では田面がむき出しになり稲刈り時の産卵場所に事欠かない。さらにハサがけなのでアキアカネの休憩場所も多くなっている。
アキアカネは生理的な熱保持能力は高く、活動中の体温は外気温より10-15℃も上昇するが、高温時の排熱能力は低い。そのため暑さに弱く、気温が30℃を超えると生存が難しくなり、標高の高い場所に移動するとされている。今年のように気温の高いと移動距離も長くなる。夏の間高地で成熟した成虫、特に雄は体色が橙色から鮮やかな赤に変化し、通常秋雨前線の通過を契機に大群を成して山を降り、丘陵地や田んぼに帰ってくる。
自宅の小さな溜池でもトンボの誕生が繰り返される。今年もニホンカワトンボはすでに移動してしまい、今はイトトンボとシオカラトンボ類の世界になっている。イトトンボ類は種類が豊富だ。イトトンボにあまり詳しくはないが、わが家の坪池のイトトンボはモノサシトンボだろうか。
モノサシトンボの産卵 止まっているのはヒツギグサ(スイレン)の葉
モノサシトンボがペヤを組み産卵を始めた。二組が常時飛び回っている。ペアで雌が水面に突っ込むように産卵する。イトトンボのすべては腹部第9節にある産卵管で植物の組織内に卵を埋め込むと言われている。
オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、シオヤトンボを一般的にシオカラトンボと呼ばれているている。見た目は同じように見えてはいるが微妙に違う。シオヤトンボは春から初夏にかけてよく見られる。大きさはアカトンボとほぼ同じでシオカラトンボの仲間で一番小さい。
シオカラトンボとオオシオカラトンボの主な違いは体色はオオシオカラトンボの方が青味が強い。腹部先の黒い部分は、シオカラトンボの方が大きい(広い)。複眼がシオカラトンボは青緑色だが、オオシオカラトンボは黒褐色。
成熟してくると体色の青みはさらに濃くなって精悍さが強まる。
ビロードモウズイカとオオシオカラトンボ
家の周囲20m以内に隣家と併せて小さな池が五つある。オオシオカラトンボをはじめ他のトンボ達は行き来しているらしい。このオオシオカラトンボはビロードモウズイカがお気に入りらしい。羽化してまもないオオシオカラトンボ。
交尾中のペア オオシオカラトンボ
毎日のように眺めている中で交尾中の雄雌ペアに出会うことはまれだ。ペア中のトンボに別の雄のトンボが襲う。襲われてもたちまち追い返した。