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「田下畑上」とアブラチャン

2022年06月06日 | 集落

田下畑上(たじりはたがみ)とは田んぼや畑の境界を表す言葉。田下(たじり)は畦畔法面の下が境界。田んぼの畦畔は水を貯めることや農作業の通路で極めて需要。

畑上(はたがみ)とは畑の法面の上が境界となる。これらが平坦な土地なら中心線になるだろうが畑地は傾斜地が多い。

私の地区では土地の境界は、田下畑上と昔から呼ばれてきた。そして境界にはお互いの承認で目印になる木を植えた。それが境界木と呼ばれる。山林の境界は多くは大きな石や沢、境界木として多いのはカラマツが多い。境界木は道路と屋敷などにも植えられアブラチャン、モッキ(ムクゲ)、エゴノキ、スギ、ヤマモミジ、サクラ、カツラ、スギ等がある。

境界木についてはあまりにも日常的な光景で特に関心などなかった。昨年の暮れ、土蔵の冬囲いをしていた時に集落の「k」君が見知らぬ人を連れてきた。

我が家の屋敷は南北と長く、住宅と土蔵は一体化している。南側に位置する土蔵との境は他家の畑で、他の人が来ることなどめったにない場所だ。「ちょっと」声をかけられビックリし慌てて振り向いたら見知らね若い人と「k」君が立っていた。

初めて会う青年は「つくばの農研機構」から畑、屋敷、道路の境界木調査で秋田に来たという。

集落の道路際や畑の境界に多くあった、アブラチャンが目にとまったのだろう。私の屋敷と畑の境界の木を指さして名前を知りたいという。その木はアブラチャンだと答えた。秋田の県南では通称はジサキ。

ジサキ(アブラチャン)の花は黄色で雪消え時に咲く。私が通称名ジサキの名がアブラチャンと知ったのは所属している「雄勝野草の会」の自然観察会。里山でのジサキはそれほど注目される木ではない。畑境界等の木は耕作放棄地の拡大で見事な灌木に育っている。早春のアブラチャンは黄色の花を咲かせる。早春の自然木で黄色の花はマンサクが最も早く、アブラチャン、クロモジが続く、豪華な花はアブラチャンだ。

          アブラチャン開花 22.4.18 川連町麓       

それにしてもアブラチャンとは変わった名だ。アブラともかくとしてチャンとつく名は珍しいが、「アブラちゃん」ではない。

調べてみるとジサキ(アブラチャン)(油瀝青)はクスノキ科クロモジ属の落葉低木。アブラは油、チャンは瀝青のこと指し、木全体が油分が多いことが名の由来とされる。チャン(瀝青)はアスファルトを敷く前に散布する石油精製品名の中国語読みからきているという説。クスノキ科の特有の芳香がある。

冬道を歩く「かんじき」には軽くねばりがあって折れことがなく、雪のつかない材のアブラチャンが使われた。材のしなりとねじれに強いことを利用し、縄の代わりに茅葺屋根の材結束の際のネリソ(ネソ)や、柴を結束することに使われた。昭和40年ころまでに燃料用の薪木、柴切には結束用に使った。通称「ネジリ木」と呼び「アブラチャン」の他、「クロモジ」、「マンサク」等が良くつかわれた。

かつてその子実は多量の油を含み燈火用に、樹皮、枝葉に精油を含みたいまつにも使用されたという。生活には欠かせない木だったといわれている。

各地方でアブラチャンの呼び名はムラダチ、ズサ、ヂシャ等多様だ。呼び名が多いのはそれだけ生活と密着した樹木だったからといえる。

         アブラチャン 満開 22.4.23 川連町麓

我が家の畑、屋敷の境木にはアブラチャンの他にマユミ、スグリ、コウゾ等大きくならない灌木。大きくなるトチ、ケンポナシがある。大きくなる木は境界中心から少し離れて植えられている。他家の境界木にスギ、エゴノキ、キリ等がある。                                                                                   

ケンポナシ(玄圃梨)は地元の呼び名はアマゴジ。ネット検索では「肥前地方で、ケンポコナシと呼ぶ。その名はドイツ人シーボルトは日本名計無保乃梨(ケンポニナシ)、別名を漢名シグとしたとある。

果柄の肉厚に太っている様、さらにゴツゴツと折れ曲がっる様が手の指のように見える様、ナシのような味がすることなどから「点棒梨」(テンポナシ)が転訛してケンポナシ(玄圃梨)となったとの説もある。

実の付け根分は甘みがあって食べられる。子供ころはよく口にした独特な甘みが忘れられない。枝葉や実から抽出されるエキスは二日酔い防止に効能があるという。材はケヤキに似て木目がきれい。我が家のケンポナシは直径が50㎝ぐらいある。約60年前に屋敷木としてあまりにも大きくなったので先代が高さ5ⅿほどのところで切りつめてある。途中で伐られても側枝がにぎやかに出てくるが2、3年毎に伐り落とすので近年は花も実もつけることがない。

  

 ケンポナシ 22.4.22 川連町麓

大雪の続いた近年、境界木や庭木の被害が甚大だった。大きくなる木は伐り倒されている。生活習慣が大きく変わり、屋敷木や庭木等の関心が薄くなってきている。生活と密着していたこれらの樹木が切り倒される姿は、何かと寂しく時代の変化がみられる。

時代が変遷しても畑、屋敷の境界は残る。アブラチャン等境界木はそれぞれの場所で役目を担っていくに違いない。