おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

茜色のお花畑 11(ハカリ)

2020年07月29日 | 茜色のお花畑


結構天気がいいのにこの後雨が降るらしい。
午前中に干した洗濯物がほぼ乾いているので取り込んだ。

今日、生協からこれが届いた。


ポイントがたまったので、申し込んでいた入浴剤だ。
今日は、別府温泉だな。

今、出来ることをと思うが、個人では限界がありそして何が真実かわからない。
ただ、わかっているのは今やり遂げようとしている事は完遂する事。

という事で今日は水曜日で「おはなし」です。
毎回書いていますが、興味がない方は読み飛ばしてください。
特に今日は、結構書くのに時間がかかり誤字脱字など満載で後から多分修正します。



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【茜色のお花畑 11(ハカリ)】

年が明けて1月になった。
会社内はなんだか暗くてどんよりしている。

社内の仕事は少なくなったとはいえ、人数が減ったのでにわかに忙しくなる。
リストラの対象になった人は会社からのせめてもという事で1月のお給料は出社してもしなくても出るという事になっていた。
退職金がない長く勤めていたパートの人に対してのせめてものと言う対処だったようだ。
ほとんどの人は、自分の持ち物の整理と引継ぎをしたら、出社しなくなる。
それは、当たり前なのだろう。
カミデさんは、年末まで出社をして私にいろいろな事を教えてくれたが、年があけると仕事もないからと出社されなくなった。
年末に恒例に行われているという、忘年会もなく暗い雰囲気のままでその年は終わった。

年が明けて人数がぐんと減り、従業員でまわしている掃除や、お昼のお茶を入れる当番なども早くまわってくる。
残った人で文句を言う人もいた。

「お給料もらっているのなら、その分来てくれたらいいのに」と。

私は、辞められた人の感情を思うととてもそんな気にならないだろう思う。
それに、今からもう就職活動始めている人もいるだろう。
ただ、今の世間の状況を見るととても簡単には仕事は見つかりそうにないが・・・。

私自身は、毎日毎日単調な組み立ての作業をする。
今までは、4人でたまには世間話をしながらしていた作業を一人でする。
図面の読み方などが、わからない時だけ聞きにいく。

マエダさんは、1月の間は休むらしい。
お姑さんの預け先をこの期間に探すのだと言っていた。

ヤマダさんとサトウさんとはお昼の休憩時に暗い雰囲気のまましゃべる。
サトウさんは、やはり今の仕事はかなりきついと言っていた。
もう、帰るころには腰が痛くてたまらないのだとか。
でも、仕事があるだけまだいいと言っていた。
もし、今から職を探すとなると絶望的だと。

ヤマダさんは、リストラの対象になったパートの事務の人の穴が思ったよりも大きかったと言っていた。
その人は、とても良くできる人だったらしいが、ずっとパートのままだった。
ヤマダさんよりは年上で中学生と高校生のお子さんが2人いるのだが、中学生のお子さんに疾患があり定期的に病院に通わないと駄目で、正社員では無理だったそうだ。
いつも時短を考えてテキパキと仕事をこなして、時間になると帰られていた。
ヤマダさんが言うには、彼女の上司の男性よりずっと仕事が出来る人だったそうだ。
彼女が、1時間で済ませていた仕事は、他の人がすると3時間ぐらいかかるのが、彼女が辞めてからわかったと言っていた。

こういった会社の悪いところは「仕事を遅くまでしている人が、よく働いている」と錯覚する事だと。
そしてヤマダさんは自分の事を指さし「結局、出来ない人が残ったのよ」と自嘲気味に笑った。

私はズキンと心が痛んだ。
出来ない人・・・それは私の事だ。
カミデさんの何倍もの時間がかかっている。

毎日、毎日何でこんな作業をしているのかとわからないまま過ぎて行った。

反動のように家で作るマスコットの数は増えて行った。
ホノカちゃんが新しいデザインを持ってきてくれて、それを作る作業に平日の夜や休日は没頭する。

マスコットは、値段の付け方が良かったのかよく売れた。
評価なども励みになった。
私の作るもののファンですとも言ってくれる人もいた。
会社で働いていて作業していても意味がないと思えることが、同じように手を動かしているのにまったく違う気持ちだ。
ホノカちゃんにデザイン料を払うと利益と言うのはそこまでないけど、毎月のハナのご飯代ぐらいにはなった。
ハナは来月か再来月あたりに、病院で去勢手術を受けないといけない。
もう、そろそろですねと先日検診に連れて行った時に先生が言われた。
値段は、他の病院に比べてとても安いらしいが、私にとってはとても大きい金額だ。
お給料から少しずつ貯めていたもので、なんとかはなるけどその後もいろいろとかかるだろう。
手に何かあたるので横を見るとハナが顔をゴンゴンとあてていた。
「ハナちゃん、ご飯だよね」というと
「ピャー」と嬉しそうに鳴いた。



たとえ、先が見えなくても働かないと駄目だと思う。
しかし・・・。

会社には行っているけど、再び引きこもるような状態になった。
タクミやホノカちゃん、そしてミエコさんが来てくれるが、前のように楽しくしゃべれない。

そんなある日、ノグチさんから久しぶりに「蕎麦の会」しませんか?と誘われた。
とても美味しいお蕎麦屋さんがあると営業先の人から聞いたそうだ。

私は、とてもそんな気になれず断った。
するとノグチさんが

「それならば、ちょっと僕の買い物に付き合ってくださいませんか?少し選んでほしい物があるので」と言われた。

どうしようかと迷ったけど、とても真剣に言われたので少しだけの時間ならと付き合う事になった。

日曜日にノグチさんと行ったのは、キッチン用品の専門店だった。
最近、少し凝った料理を作り始めたと言っていた。
今までも自分で冷凍食品などとチンしてお弁当などは作っていたけど、夕飯などは買って来た惣菜が多くて、今回の不況で早く帰れる日が多くなり、ちゃんと作ってみよう思ったのだそうだ。
なので、いろいろと買いそろえたいけど、どれがいいかわからないしそれといい年のおじさんが一人で入るのには勇気がいるのだと。

私自身も料理初心者ですけどというと
「それがいいんです」と言った。
初心者同士だから、使いにくい物がきっとわかるだろうと。

包丁やボウル、そして竹製の「鬼おろし」。
鬼おろしはテレビで見ていて、これを使ってみたいと思ったそうだ。
最近、ミエコさんから料理を習っていて初心者だから、包丁はあまり切れない方がいいのではというと、「それはかえって怪我するから駄目」と言われたことなどを話した。
ステンレスのボウルも祖母が使っていたものが、いまでも現役で傷もあまりついていないと話すと、ずっと使うならといい値段をしているものを選んだ。

お菓子作りにも挑戦するそうで、その他にも泡だて器なども。
そして、最後にキッチンスケールのコーナーに。

その中でひときわ値段が高い物を選んだ。
「これね、知ってます?」と。

昔ながらのキッチンスケール・・・秤だった。

「うちでこの秤の部品を作っているんですよ。イトウさんがちょうど組み立ている部品がこのあたりかな」と指さした。

「ここのメーカーは、今は医療機器とか業務用の秤とか専門に作っていて、その部品もうちで請け負っています。とても精度がいる部品なので、うちの社が注文を受けているという事は誇りですね。こんなに値段するのにファンがちゃんといて、売れ続けているんです。だから、うちに注文が入りイトウさんが作っている」と。

他のメーカーの3倍ぐらいする値段のその秤はとても重厚で綺麗だった。

そうか・・・私はこの中の一部を作っているのか・・・。
見えていなかった事が見えた気がした。

私もこの秤を購入した。
何かあったらこれを見ようと思った。
私がこの一部を作っている。
そして、私の作るマスコットと同様にこの秤を気に入り買っていく人がいる。

気持ちが軽くなっているのをノグチさんがわかったようで、二人でノグチさんが最初に言っていたお蕎麦のお店に行った。
そこは、本当にお蕎麦だけのお店だったがとても美味しかった。
今日買った秤の会社に営業に行った時に聞いたお店だという事だ。
そこは社員の人は、高齢の人が多いが生き生きと働いているように見えると。
自分の仕事に誇りを持っているのだろうと。

食べながらノグチさんが言った。
「母がもう、長くないんです。今まで母がいないといろいろと楽だろうなと思っていたんですが、いざとなったら情けないほど動揺している自分がいて。何のために仕事をして何のために頑張っているのかよくわからなくなりました。今回、人員整理は実は僕も少しいろいろとあったんです」

私は、驚いて野口さんを見た。

「僕の場合は、辞めて欲しいとは言われなかったけど母の事でよく仕事を抜けたり休んだりするのを指摘されまして・・・。会社はわかってくれていると思っていたので、ショックでした。それなりに時間をちゃんと調整して時間内に仕事は終わらせているつもりだったので。人が減るので出来る限り休むのと抜けるのをやめてほしいと言われました。」

ノグチさんの営業の部署からリストラの対象になったのは、以前ノグチさんに「嫁さんもらえよ」と言った人だ。
まだ、大学生のお子さんがいるそうでなんとか残れるように頼んだらしいが、会社の答えはNOだった。
だけど、その時にその人の奥さんが言ったそうだ。
「大丈夫、なんとかなるわ。二人で頑張りましょう」と。
実はこの人の奥さんも働いていてずっと共働きだったと言うのを最近知った。
ノグチさんによると、今仕事を探しながら料理を作って奥さんの帰りを待ってのだと結構清々しい笑顔で言ったそうだ。
そして、こうも言ったと。

「今まで料理や掃除なんかしてこなかった。今してみてすごい労力だとわかったよ。これを嫁は働きながら子育てをしながらずっとやってきたのだと思うと反省と恥ずかしさで胸がいっぱいになった。実はいろいろと話したんだけど、嫁はもう子どもが大学を卒業したら、俺と別れようと思っていたらしい。今までも何度も思ったんだと。子どもがいないと俺と一緒にいる意味が見つからないと。危機一髪だっただな」と。

人生を見直す転機はどこでやってくるのかわからない。

ノグチさんはその人に触発されて、料理を本格的に始めてみようと思ったのだと言った。
「蕎麦も打ってみたいと思っているんですよね。」と続ける。
そういえば、蕎麦打ちの道具も買っていた。
鬼おろしも、その一環なのだろう。

「店を出すとかそんなのじゃなくて、何か無心に出来るものが欲しいと思って」

私は、気持ちがよくわかるので頷いた。
私も無心になれるものが欲しかった。

「だけど、母がもう長くないと分かった時にその蕎麦や料理を食べさせるのか?とふと考えました。母自身実はもう流動食しか食べられなくて、その流動食でさえもう無理になってきています」

そこで一旦ノグチさんは言葉を切り、私に向かっていった。

「イトウさん、僕と一緒に住んでくれますか?そして僕の作ったものを食べてくれますか?」と。

えっ・・・と思ったのと同時に心の隅になんとなく言われそうな気がしていた。

でも・・・

「ごめんなさい。ノグチさんはいいお友達で大好きです。ヤマダさんやサトウさんと一緒の。失くしたくない存在だし、ずっとこれからの友人としての関係を大事にしていきたいです」と私は頭を下げた。

顔をあげるとノグチさんが笑ってそして、逆に頭を下げた。

「ごめんなさい。実は僕も同じ気持ちなんです。これまで女性とこんなに友達付き合いが出来るとは思ってはいなかった。少し母の事で動揺をして誰かが一緒にいて欲しいと思ったら、イトウさんの顔が浮かんで・・・。つい言ってしまいました」

つまりそれは、友人としてという事か。
気が抜ける。

二人で笑う。
ただ、ちょっと失礼だなと思ったが・・・。

「蕎麦をちゃんと打てるようになったら、タクミ君やホノカちゃんとまた一緒に来てください。それがきっと励みになると思います」
と言われて「喜んで」と言った。

その後、私を送ってくれてノグチさんは帰って行った。

部屋で秤の梱包をほどくとハナがうれしそうにじゃれついた。

寂しいもの同士、寄り添っていくのもいいかもしれない。
しかし、それではきっと寂しいままのような気がする。

「あっ、こら!」

ハナが秤の上に乗ろうとしていた。
ハナが来た頃はこの秤で量れただろうけど、もうとっくにこれの最大を越えている。

慌てて降ろしてキッチンに置こうと思ってやめる。
そうだ、作品をいつも発送するときは向こうで量ってもらっていたが、今度からは家で確認しよう。
少しの違いで配送料が違ってくるから。

秤を作業している部屋に置くと不思議なほど溶け込んだ。
まるでトロフィーのようだ。
そうそう、これにお金使っちゃったから頑張ってまた貯めないと駄目だなと思った。

                          <つづく>

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あと、残り1回です。

ノグチさんとはやっぱり友人のまま。
どう話を展開させようとしてもこうなる。

話に出てきた秤の会社もモデルがあり、ずっとカミデさんのモデルの人が部品を作ってました。

私が仕事を辞めたときにコブちゃんがうちに。
ちょうど、雇用保険が切れたばかりの時でしばらくは家に居ようと決心したとき。
溝でピャーピャーとでっかい声で鳴いていた子猫を息子が見つけたけど、捕まえられなくてあきらめていたら、翌日に前の家の人に捕獲されたのね。

その捕まえられなかった時に
「うちの子になる?」ってコブちゃんに言ったので来たんだと思う。

物語の中では病院での手術は他より安いとしているけど(今通っている病院がモデル)、最初に連れて行った病院は他の多分1.5~2倍ぐらいの金額で、失業している私にはすごく負担だった。
特にコブちゃん手術したときは、私の最後に使えるへそくりが全部飛んだし。
でも、その病院もいい面もたくさんあったのはあったし、動物に対してはとても丁寧でそして後でとてもお世話になったけど。
だけど、そのあとどうしても金銭的に無理で、今の病院に。
節約しないと暮らしていけなかったのね。
お金は残しておかないと息子を高校・大学(大学院まで行ったし)に行かせられなかったので、ものすごく頑張った。
今の病院と出会ったのもラッキーだった。
コブちゃん、3歳の時に少し調子が悪くなって、休日でたまたまその日空いている所が調べたら今の病院だった。
すごくちゃんと見てくれて、支払える範囲の金額。
びっくりしたわ。
5分の1ぐらいの値段だったから。
それまでの病院は、フードが出たり容器代がいったりしていたけど、一切そういったのが要らないせいもあったからだと思う。
薬などは必要な物だけをもらい、その後は猫が負担になるだろうからと検査だけ容器で持って行った(後の値段が500円だったのを覚えている)
幸いなことにそれで完治していた。

参考に手術代は料金表を見ると半額ぐらいだった。
これだけは、ちょっと後悔なんだな・・・料金云々よりどこで受けても一緒だったのかもしれないけど「名残」がずっと残ってしまって、ずっとコブちゃんに負担が増えた。
ちゃんと調べなかった私が悪かった。

動物病院も、利益を出さないと経営は難しいとは思う。
でも、その時におとーさんとも話したんだけど、自分たちが出来る範囲の事はちゃんと飼ったのだからしようと。
という事で今の病院だ。
今の病院は支払う金額は安いけど、治療はかなり適正で相談もちゃんとのってくださる。
最初からここに・・・と思うけど、後年の事を思うとこれも運命だったのだと感じる。

来た時・・・

やさぐれていた。
めっちゃ目つき悪い。


子猫だったのですぐに慣れたけど。


この頃お気に入りの、「わっか」


かわいー。
コメント (3)
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