きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

横暴旅行社 北へ ~ブラキストン・ラインを越えてどこまでも行く~ Oct.29, 2021

2021-12-27 01:01:08 | 旅行

 娘がなにやら北海道に用事があるそうで、

そのつきそいで非公式に同行。

というか勝手についていった人?

帰りの飛行機をまず予約されてしまった。

 

今回のこちらの目的は、

  1. 伊丹空港の克服
  2. 愛猫小枝ちゃんの散歩
  3. アイヌの言葉はネイティブ・アメリカンと似ているのか知りたい

 

  1. 伊丹空港という名前は、どうしても関東の人間にとって恐ろしく近づきがたい感じがしていたが、とうとう乗る機会がやってきた。ちょうどいい時間帯の関西空港発の便はない。神戸は良く知らない。小さい頃からJALはなじみがない。きっと行ってみれば普通の地方空港だろうと思う。

 

  1. 北海道は、小枝ちゃんの故郷アイダホと緯度が同じなので気候も似ているだろう。とっくの昔に死んでしまった本人(?)が今さらどう思うか知れないが、少し名残りを連れて行ってみよう。飛行機に持ち込む手荷物はよく調べるが、預ける荷物はそうでもないので、乗る時はそちらに遺骨を忍ばせる。 妙案が浮かんで黒の市松模様のスーツケースの留め具のチャックをまとめて紫の飾り紐であげ巻き結びにしてやった。骨董の茶壺の箱と同じで、これをほどいたら結び方を知らない人には直せないから、開けたかどうだかがすぐにわかる。しかも見た目がなんだか京の古式の呪いがかかっていそうで、あまり触りたくない感じだ。開けないでほしい。そして誰も持って行かないでくれと切に願う。

 

  1. そのアイダホの大学時代に、卒業単位には全く関係がないが興味があってネイティブ・アメリカン語の授業を受けてみた。教えてくれる先生はそこの部族のチーフの3つ編みの爺さん。近くに居留地があるのでクラスメイトの大半が3つ編みだった。そんな中、1人で参加しようという意欲はどこから湧いてくるのか知らないが、提供されている以上何の授業を取ろうがこっちの自由だ。謎の異邦人はさも当然といった顔でテキスト片手に末席に連なる。そこでチーフの喋る言葉を直接この耳で聞いた。その記憶と直感的につながるものがあるだろうか。アイヌ民族博物館(ウポポイ)で、ぜひ検証してみたい。決してゴールデンカムイの観すぎだからではない。

 

 

 

 ところが出発一週間前になって、思い付きで大阪の万博公園にある世界の民族博物館へ行き、熱心にジロジロ観てまわったら木彫りの仮面や古い竹細工などから発せられる古着屋のような匂いでノドがイガイガしてきて、次の日左の扁桃腺が腫れてダウン。弱しだ。こんなに繊細なカナリアちゃんだったとは。それが治らない。

 

 いつまで経っても高熱が出るわけでもなく、36.8℃とかいう中途半端な微熱と共にただ扁桃腺が痛いだけ。普段カゼを引いても扁桃腺は腫れない。まろやかに重度の全身症状になっていくだけだ。今回は扁桃腺だけ。あの微粒子がそんなにダメだったのか。

 

そういえばツタンカーメンの呪いってのがあったな。

 

 不吉なことを思い出してしまった。太古の呪いのメカニズムについて考え出すときりがない。とうとう前日まで違和感が残った。熱はないのだが、駅でバス乗り場はどこかなと首を曲げたら、やはり左に少し違和感があった。その前に腹ごしらえだ。八条口の辺にマックあんの知ってんだ。ヘヘヘヘ。地下鉄から上がって行ったらやっぱりあったので、水分補給用にドリンク(大)を買い、ハンバーガーにかぶりつく。

 

 京都駅から専用のバスに乗ったら伊丹空港に着くらしい。ロータリーを渡り、なか卯の隣のすさんだ券売機で切符を買う。列に並んで待っていると地上の係員が(バス)「空港には停留所が2箇所ある。航空会社によって別々。降り間違い防止のために荷物を入れる貨物スペースを分けたい。どこの会社か教えてくれ。」 ほぅ、賢いな。

 

 並んでいる(客)「ANA、じゃるじゃる、アイベックス・・・ハイ、私はANAで~っす♥」 (きの)「全日空だ」 後ろの老夫婦の(団体)「全日空、わしらも全日空(笑顔)・・・」 ほらみろ。全日空は全日空だろう。アナて何だ。そんなこじゃれた女王みたいな名前ではないわ!

 

 後ろの方の席に座り、さてと・・・飲み物がない!しまった。さっきの券売機のとこだ。バスの中で好きだけじゅうじゅう啜ろうと思ってほとんど飲んでない。そしてまだ早いからトイレにも行っとこうかな。(きの)「すいませ~ん」 (バス)「はぁ?もう出るよ?」 (きの)「何で?」 (バス)「・・・それはあなたが1つ前のに乗ったからだ!」 おぉそうだったか。

 

 すでに券はちぎってしまったとのこと。ご厚意で、地上の係員が覚えてて次のバスに託してあげようか?という提案もあったが、せっかく乗ったので(きの)「じゃあ、飲み物だけ取りに行っていい?」 (バス)「どこに??」 (きの)「あそこ」 (係)「・・・よし、行ってこい」 (きの)「びよん。ダダダダ」 飛び降りて病み上がりが走らされる。

 

 走って戻り定刻通りに出発。せっかくなのでこれ見よがしにコーラを飲みまくる。最初は混んでいたが、その内高速道路のようなものに入ってなめらかになった。外を見ていたら大きな(顔)「チラリ」 あぁ!!あれは太陽の塔だ!先週も見たぞ。また会ったな。ということは近くなのか。

 

 空港に誰よりも先に着いてしまい、だいぶ時間があるので敷地内をうろつきまわる。関西空港の近代的で誰も寄せ付けないようなガラス建築と違って、伊丹空港は日本中にある地方空港をちょっと大きくしたようなものだった。成田と羽田の関係のようなものか。

 

 いつからチェックインしていいのかわからないが、とりあえずやってみるとしよう。(きの)「早すぎるかな?」 フェイスシールドの案内(係)「機械でやってくれ」 そこはかとなく対応が冷たい。コロナで非接触を心がけているだけなのだろうけど。いいじゃないか。聞きに来た人ぐらい対面でやってあげても。機械にうとい婆さんとか見えない人にもそう言うのか?

 

 手続きを終えて奥に進むと、妙にシャレた食べ物屋がいっぱいあって屋上にハイセンスな家具屋もあったが、空港で家具を買ってどうするのだろう。広い展望デッキもあった。全日本空輸はどこかな。おぉいたいた。最新の飛行機は輪郭がシャープだね。やはり青と白の有田焼のような色合いが素敵だ。

 

 バスの案内では、うやうやしくこちらの空港には南ウィングと北ウィングがございますなどといったような80年代風の気取った姿勢が垣間見えたが、よく見てみればこの空港にメインの滑走路は1本しかない。貨物かもっと小さい空港に行く便かわからないが、小型のプロペラ機がびゅんびゅん飛び立って行くのが見えて楽しい。なぜこうも空港に来ると気がはやるのだろう。飛行機大好き。

 

 Dean&Delucaのスタンドがあったので飲みものを買おう。デッキの日なたでうっかり長時間過ごしてしまった。そして氷をガリガリやって頭の温度を冷やす。今だけ売り出し中のジャスミンなんたらレモネードというメニューがあったので、これだ!とばかりに頼んだ。写真では深紅のラズベリーが添えてあるのかと思っていたが、赤いひしゃげたドライフラワーが乗っていた。まずそうだ。

 

 人々の行き交いを眺めながらジュースを一気に飲んでしまい、氷を食べようとするのだが、さっきつついた時にバラバラになった花びらが入ってきてこの上なく不味い。何の花だろう。この大きな菊のようなものはマーガレットだろうか。食べていけないことはないだろうが美味しくない。なんだか口のまわりが仏壇を思わせるような心地になった頃、問題の保安検査場に向かう。

 

(立て札)「37.5℃以上の人は搭乗できません」か。そんなにないな。検温センサーの前をすんなり通過。ここを通ればもうこっちのもんだ。スキップで通り抜けようとしたが検査場の(係)「ブーツを脱いでください」 ウポポイはほぼ野外だと聞いたから履いてきた特製の対北海道仕様のブーツを(きの)「はぁ?ここで?」

 

 驚いて思わず聞き返しただけだが、可愛らしい係のねえちゃんは言うだけ言って柱の陰に逃げてしまった。呆然としていると見かねた別の係員がイスを持ってきて(係)「こちらをお使いください」 そんな親切いらんわ!と立ったまま脱ごうとしてよろけてコンベアに乗っていきそうになり、大人しく座る。

 

 待合室に着いたら、混雑を避けるために窓際の席の客から先に搭乗しろというアナウンスが始まったので、そのまま歩いていって流れるように通過し一番乗りで機内に入る。通りがかりに見たがずいぶん大きなエンジンだった。国際線のジャンボジェットではないから2個も付ける必要はないだろうが、つるりとした中型の機体の薄い羽根に1個だけ不釣り合いなほど大きな輪っかが付いているのは、長靴をはいた猫みたいでアンバランスな感じがした。ボーイングの787シリーズだと思うが(787-8?)、最近の流行りだろうか。

 

 飛行機はしずしずと誘導路を外れ滑走路へ向かう。なぁんだ、やっぱり普通の空港だった。むしろリニューアルしたらしく小ぎれいな部類だ。離れていく建物の壁面に古臭い文字が残っているのが見えた。「大 阪 国 際 空 港」 ここ国際空港だったの??関西空港ができる前は、そういえばここが大阪の唯一の空港だったんだ。黒い明朝体のタイルに、ロッキード事件のニュース映像のような昭和感が漂う。トレンディーな(死語)屋上デッキからは見えなかったが、まるであの文字だけが昔を覚えているといいたげに整然とそこにあった。

 

 なぜ新しくしないのか。はっきり言ってちょっと不気味なのだが、誰もあれに違和感を覚えないようだ。そうこうするうちスルっと飛び立ってしまった。すぐに小さくなる滑走路。住宅街に近すぎでは? あ!あれは太陽の塔(顔)「ギギッ」 あっという間に遠ざかっていく。行ってきまーす。(塔)「フハハハハ」 見送ってくれた。先週お守りも買ったしね。

 

 機内では救命具の説明をモニターで上映している。歌舞伎の親子はそれはそれで面白いが、スチュワーデスさんのライブパフォーマンスを観る場でもあると思っている。出発時の舞いとでもいうのか、あの儀式を経てからでないと無事に飛べないような気がする。

 

 窓の下には大きな湖。ひょうたんの真ん中でつながって、これ琵琶湖? とすると、その向こうの馬のひづめに囲まれるようにしてコチャコチャと繁栄しているあれが山城の国か。その向こうにも住宅街らしき大阪の白いコチャコチャが遠く広がっている。どうした訳か京都の人間は山は生垣とでも思っているのか、そこにだんだん家を建てて登って行って向こう側の人たちと繋がりたいとは思っていないらしく、どんなに混んでてもあの内側からは出ないで、山並みだけはいつまでもそのままの形で残っている。琵琶湖も離れていった。 おぉっと翼の動きはどうかな。忙しい。

 

 他に空席もあったのに、メカ的な動きを見るためにわざわざうるさい翼の後ろの席を取ったのだ。ほう、そこまでエラを出すか。今、真ん中のフラップがベロっと下がったのにはどんな意味があるのか。前のスクリーンで全部解説してほしい。飛行機がトランスフォーマーだったらいいのにな。それか「うしおととら」のフスマ現れないかな。あれは翼にかかってくる雲のたなびきが元になっているのかななどと考えながら、心地よく窓の外の景色を眺める。途中の山には早くも白い粉砂糖のようなものが降りかかっている。雪だ。飛騨山脈か。

 

 反対側の列の窓に1カ所だけ青い窓がある。なんだろう。あそこだけ割れたからって臨時で違うの嵌めたかのような。まさかね。そういえば、この飛行機窓につきもののシェードがない。手元の何段階かあるようなボタン何だろう。(きの)「ポチポチ・・・」 押してみた。窓がだんだん青くなっていった。(きの)「おぉ!」 感動して何度も色を変えて遊ぶ。青Maxの状態で外は見えるが寝れるほど眩しくないという訳か。へ~~。ずいぶん自然に青くなっていくが、ライトが点灯している様子はない。どういうしくみになってるんだろう。ポチポチ・・・ポチポチ。子供か。

 

 この機体の羽根の先端は薄くてとてもしなやかだ。こんなに速いスピードで飛んでいるのに折れもせず(当たり前だ)、余裕でビワンビワンたわんでいる。いつか流行ったステンレスのブレードをふりまわす健康器具のようだ。昔のライト兄弟のような飛行機と違って翼の形は平行ではなく、どちらかというと三角形のものが寸詰まりの胴体にがっちりと付いている。逆に根元は太い。エイというか、何に一番近いかと言われたらフカヒレ?銀色だし。大きかったエンジンも後方は幅の広い翼に隠れて見えない。

 

 最近の機体は風を切る目的か羽根の一番先が90°上に折れ曲がっている。LCCなどは「これが最新!」とばかりに誇らしげに尖ったものが突き出て攻撃的な感じがするが、この機体の羽根は、先の方が飛行中の空気抵抗で控えめにひるがえっているだけ。それがまた深海の有機生命体みたいで、美しい。

 

 いつまでも左側から暮れない夕日が差している。飲み物のワゴンが来たのでそこらの客とアップルジュースを奪い合い、お代わりまでもらいながら持って来たサラダ煎餅をバリバリと食べる。今日はアップルジュースが大人気だ。家を出る時に直前で思いついて持ってきたポテトチップ(小)の袋がバッグの中で気圧で張りつめている。

 

 標高の高いレイク・タホに登っていった時以来の張りつめようだ。ん?破裂はしないだろうか。上空で突然破裂音がしたらすごく事情を聞かれそうだ。その他残り少ない巨大カリントウなど旅行中の遭難を意識したつもりだったが(ポテチとこれと雪で最適な血中濃度が得られると思った)、よく考えたらどうしても機内に持ち込まなければならないものでもない。こんな鞄を横倒しにしてX線でじっくり見た検査場の人もご苦労なことだ。

 

 機内のおしぼりは温めた布ではなく、簡易的な使い捨てのものになっていた。あぁ飛行機の醍醐味が。昔は良かった。などと懐かしみながら向こうまで広がる雲海を見ていたら、手前に1か所だけ雲が妙に盛り上がっている所を発見した。何だろう。トゲトゲのサザエみたいな三角で、横から小さな龍の頭のようなものが出ている。怒ったメレンゲ?中の方が黒い。気流が乱れているのか。下にあれだけの規模の何があるんだろう。さっきそろそろ着陸するとか言ってた。ということは青森の(きの)「あの、恐山が・・・」 (娘)「何?ファンなの?」 せっかくの気象トークが台なしだ。

 

 そろそろ着陸態勢に入った。下には湿原とやたらに派手な紅葉が見えてくる。それにしても静かだ。エンジンの音もしない。最近の飛行機ってすごいなあ。あの細長い港の形はホテルを探している時にグーグルマップで見た。苫小牧? ということはやはり大阪→琵琶湖→日本海→青森を突っ切って太平洋側から北海道に入ったか。

 

 なぜ最近の飛行機はみんなして日本海に出ていこうとするのか。大阪湾から太平洋に出て富士山でも見ながらそのまま落ち着いて自然に右側から入ればいいのに。しかし、成田のあたりは国際線の飛行機がうようよしているのか。う~む。どうもS字の航路は好きではない。

 

 だんだん建物の字が読めるくらい大きくなってきた。そろそろ空港だ。さぁ、見せてもらおうか、最新のランディングを。

(機)「コォォォォォ (着陸)ストン・・・・・・・ (翼)バキャァッッ!!」 そう来たか。 翼の後ろ半分があちこち逆立ってミノカサゴのような状態に。傀儡(くぐつ)の崩壊とでも呼ぼうか。

 

 エンジンの蓋が外れる以外に羽根がどうにかなるしかないのかもしれないが、やっていることは数十年変わらない。もっと、こう光線を出すとか重力を制御するとか、そういう未来の技術を期待したのに。あの羽根の下でエンジンもどうにかなっていたのか。見えないので何とも言えない。そんなんだったらもう鶴みたいに降りて翼畳んだら?

 

 どうも自分は数万円払ってヒコーキという名のアトラクションを楽しんでいるだけなのだなと思いながら、忙しそうな背広の方々と一緒になって降りる。ベルトコンベアの先頭に陣取り、スーツケースを無事引き出して足早で出口に向かう。近年は出口に立って荷物のタグをいちいち確認してくれる優しいお姉さんはいない。それではいっていらっしゃいと笑顔で声をかけてもらってこその旅行だ。それぞれつかんで勝手に出て行けとは心もとない。そこらのトランクを持てるだけ持って空港から走り出て行く不心得者などはいないのだろうか。

 

 ホテルの食事はホームページで3つもあるレストランのメニューを見てみたがどれも琴線にふれるものがなく、だったら空港でラーメンでも食べた方がマシという結論に達した。名産の北寄貝というのが気になったが、うに丼やイクラ丼のように一面に貝を広げた北寄丼というのは、どんな味かわからない以上注文する勇気がない。1片ぐらいなら食べれると思うのだが。

 

 ラーメンは札幌を20年前に訪れた際、まだ基本も押さえていないのにアメリカで知り合ったかの地の友人が意気込んで地元の通が好むような逸品を紹介してくれて、なにで出汁を取ったのかわからないがツナ缶?の味がする白濁した麺を狭い路地で強引に食べさせられた記憶がある。あれは何だったのだろう。普通の札幌ラーメンが食べたかっただけなのに。コーンの乗ったやつ?うちの叔父さんが言ってたけど毛ガニ1匹ラーメンは観光客用なんでしょ?ハハハハという軽い質問が何かのスイッチを入れてしまったのか。とにかく、北海道らしいラーメンないかな。

 

 この空港はだだっ広い。見まわしたところ1階には出入り口しかなくホテルのチェックインまで時間がない。案内所で聞いてみた。(きの)「ラーメンはどこですか?」 (案内)「道場ですね?」 どういう会話だ。(案内)「左手を真っすぐ進むと奥の引っ込んだところにエレベーターがあります。乗って4階で降り、薄暗い廊下を進みます。」そんな説明でいいのか?左の方に延々歩いて行ってみた。どこだ??何もないじゃないか。その辺のドアから出てきた掃除の人に聞くと左上のような暗がりを指さす。行ってみると示した方向の奥にあった。無意味に大きくて古い殺伐とした業務エレベーターに乗って降りると、廊下は確かに薄暗かった。

 

「ラーメン道場」まで行くのは面倒くさかったのでエレベーターを出たところの千歳ラーメンと書いてある店で鮭のラーメンという澄んだスープのを頼んだ。ラーメンに鮭て。これこそが観光客向けではないのか。しょっぱい。塩味が濃い。しかしこれが寒い中で食べるとちょうど良いに違いない。ズルズル。何が鮭ラーメンなのだろう。鮭でダシを取ったのかな?なぜかピンクの餃子が3つ入っていた。その餃子の中身が鮭!しかもふんだんなほぐし身がギュウギュウに詰まっている。もう斬新でどうしたのだろう。驚きでいっぱいだが、こんなものを食べたと言ったらまた友人に選りすぐりのひねりの利いたものを出してこられそうで、ほくそ笑みつつ汁をすする。

 

 満足して南千歳行きの電車に乗る。一旦そこで乗り換えて苫小牧に向かうらしい。駅に着いて苫小牧行きは向こう側のホームという放送の通りに階段を登る。停車している電車に乗ったら表示が「空港行き」 なぜ!? 今空港から来たのにまた戻ってどうする。わけがわからないまま発車数秒前にスーツケースを引きずって飛び降りる。なんなんだここは。こんなことをしていてはいつまでたってもたどり着けない。落ち着いてホテルに電話し、遅れることを告げる。(きの)「南千歳までは来てるんです。」(ホテル)「あともう少しです」 そこからがむずかしいんだ!

 

 駅の向こうに白樺の林がある。さすが北海道。叔父が生まれた時に転勤で北海道に住んでいて、そこの庭に生えてた白樺を東京に持って帰って植えたが何度目かの引っ越しで枯れてしまったらしい。気候が合わなかったのか。幼いころ、新宿の家に遊びに行って2階の寝室の窓から見えたひょろ長い2本の枝に、桑の実のような花がぶら下がっていたのを思い出す。あれと同じ白い幹だ。そして、それがこんなに大量に生き生きと生い茂っている。

 

 さっきからホームで大音量で鳴っている終末を感じさせるこの淋しげな3音のメロディーは何だろう。やってきた千歳線に恐る恐る乗る。そして、なかなか次の駅に着かないまま高速で走り続ける。これは山手線の1駅ではない。山陽本線の1駅だ。そして、みなさんなぜ薄着?よく観察すると前の大学生男はTシャツにデニムのシャツを羽織っただけ。さっき空港で降りた時に冷蔵庫を開けたような冷気に包まれたが、良くない。これは良くない。繊細なカナリーは召されてしまう。

 

 ネズミ色のパーカーボウズが横にいる友人と(ネヅミ)「これから飲みに行って終電逃したらどうしようなっワハハハハ」 何が楽しいんだ。死活問題ではないのか。翌日の晩飯に白老と隣の駅の中間にある牧場のファミレスのようなところで骨付きソーセージなど酪農王国の恵みを享受しようと思っていたが、止めた方が良さそうだ。予約してなくてよかった。事前に地図を見ながら(きの)「タクシーあるでしょ。それとも健康のために1駅歩けば~?」 やれるものならやってみろってんだ。北海道を舐めていた。

 

 

 ホテルは、行く前にグーグルマップを見ていて札幌と白老の中間で立地の割に名前が変に怪しいからここに決めた。その名も(HP)「グランドHotelニュー王子」 王子様!? 何がNewなのか。プリンスホテル系列?どうも漢字で書くと雑然とした繁華街を思わせるネーミングだが、来てみて驚いた。街の中心にひと際高くそびえ立ち辺りを睥睨するような構えだ。こんな街一番のきらびやかなホテルなら何か由来があってのことだろう。

 

 王子製紙。 あぁ!そうでしたか。そういえば大王とか王子とか、そんなティッシュの会社がありましたねと。ここが発祥なんだ。ホテルの後ろの方に製紙工場の赤と白の高いエントツが見える。アイダホの故郷の街にも製紙工場があり風向きによって硫化水素の匂い(腐ゆで卵)が漂ってきて気になったが、ここはそうでもないな。余程浄化しているのか。海風のせいか。

 

 用事を済ませホテルに向かう。入り口どこだろ?高層の建物は見えているのだが下に付属施設のようなものがいくつかあって、どこから入ればいいのやら。この体育館のような屋根はスケート場?の隣の駐車場の隅からえいやっと鎖をまたいで入って行ったら裏口のような所で普段着の女の人が守衛に挨拶して(看板)「午後9時以降の入館は用紙に名前を記入し・・・」 病院? そういえば病院が地図上で近くににあったが。ではもっと右か。暗がりを手探りで進むと芝生に日本食レストランなどの看板が出ていたからここだろう。細い露地から入ると裏口だったようで遠くにフロントがあった。

 

 チェックインして古めかしいタグの付いたカギを受け取り、エレベーターへ。ここのエレベーターはフロントから見えない裏口の近くにある。関係者以外が入り放題だなとか、そういうことだけはすぐに思いつく。

 

 20年前、日本の政策でイランからの出稼ぎ労働者が増えたことがあった。真面目に働いていた人もいたが、目立っていたのは上野あたりにたむろし偽造したテレフォンカードなどを売る人たちだった。日本に帰った折に、夜に家のそばの自販機にコーラを買いに行って狭いアパートの1室に10人以上の外国人が集まって窓を開けて喋っているのを見てびっくりした記憶がある。後日知り合いに聞いたら、契約するのはその中の1人で、あとはズルズルとパーティーをやっているうちに寝てしまったという方便で実質大勢で住んでいるらしい。

 

 日本は物価が高いからかもしれないが、世の中には思いもつかぬことをする人がいるものだと感心した。こののんびりとしたホテルはそういう些細なことは気にしないのかもれないし、そもそも製紙会社の関係者が主に使っているのかも。そういうことをしそうな人は、こんなシャンデリアじゃりじゃりの無駄に豪華なしつらえの所には来ない。

 

 建物内部の部屋割は、真ん中のエレベーターホールを囲むように四方にちらばり、どの部屋も等分に夜景が楽しめるようになっている。非常時には逃げやすいシンプルな造りだ。1泊朝食付7,000円という、今だけかもしれないが高くない値段で良心的ではある。HPでも団体で予約を取るのはやめてくれとか書いてあったから、それなりに感染予防に気を遣っているのだろう。その他2階の宴会場が予防接種会場になっていると書いてあり、このご時世で大変気概のあるホテルだと思ったが、地元企業なら自然とそういう姿勢が求められるのかもしれない。

 

 13階まで登る。予約の時点で、備考欄にきれいな夜景とか海が見たいなぁ~という漠然とした希望を書いておいたら、夜景と海がぎりぎり両方見える夜景方向の一番海側の角部屋にしてくれていた。お気遣いありがとう。内装は、とにかく広い。待望のコーヒーテーブルもあり、バスルームはすべてのものが遠くにあるような感覚がした。

 

 壁紙は今どき珍しい「布」でできている。壁紙のことを内装屋さんはクロスと呼ぶが、これは交差しているCrossではなくCloth(布)から来ている。今はアメリカでも紙やビニール素材が多いが、古い家は布張りで、それが劣化すると破れて無惨に糸がほつれてリアルハロウィンみたいで本当に怖い。

 

 シャワーはお湯と水が3秒に1回入れ替わるような不可思議なスタイルだ。これはどこかで見た。出雲だ。あのホテルも昔に建った豪華な建物だった。もしかしてこのホテルも外観ほど最新ではないのかもしれない。しかし、むしろ30年前にこの規模のものを予見した事の方が今建てるよりすごかったのかもね。

 

 夜の街に出てみよう。北海道にしかないセイコーマートというコンビニに入ってみる。カツゲンという謎の飲料を売っている。おとなりのドラッグストアには、なるほど北海道限定で高品質なトイレットペーパーが豊富に取り揃えてある。そのまま海の方向と思われる方に向かった。家の造りががっしりしていて玄関が奥に引っ込んでいる。雪よけのためか。

 

 街路樹が針葉樹だ。モミの木、カエデにマロニエも! 柑橘など1本もない。西日本では考えられない。北海道と本州の間にはブラキストン線という生物学上の境界があって、そこから植生が全然違うのだそうだ。歩きながら人んちの庭先をジロジロ見て勝手に感動する。

 

どうかな、懐かしいかな。

 

 レトロなペンキ塗りの消火栓を見ていて、ふと、大学からの帰り道を思い出した。マロニエの大きな葉の向こうに輪郭のはっきりした月が出て、トゲトゲの実を小枝ちゃんへのお土産に拾って帰ろうとしてリスと争ってサイドウォークを探った。中には栗のような大きな実が詰まっていて、よくそれで深夜にサッカーをして遊んだ。 このまま角を曲がれば、家で待っているような気がした。

 

鼻先に触れる澄んだ空気と、同じ樹や月もあるのに、ずいぶん遠くなってしまった。

 

 

 それにしても、こうも人がいないのはなぜだろう。こんなビルだらけの街なのに、8:30を過ぎると車は時おり通るが歩行者が誰一人としていないのは、昨今の事情のせいなのか。たまに帰ってきて遠い駐車場に停めた車から突然降りてくる人がいるが、こっちも(きの)「わぁ人だ!」 向こうも(住民)「何かいる!」 互いに驚き相容れない。

 

 アメリカ並みに路駐を見込んだ余裕の2車線の横断歩道を渡ると、渡っている間に信号がチカチカする。広い。広すぎる。夜の海が見たかったのだが、一体どこにあるのだろう。地図で見たらすぐ近くだったような。もう少しで着くと思われる幹線道路の向こうは行き止まりの入り組んだ住宅が連なり、初めて行った寒冷地で夜に迷うのは得策ではないと判断しホテルに戻る。

 

 途中で洋菓子店があった。すでに閉まって真っ暗だったが、時短営業かな。ここにもハスカップのジャムあるかな。このド派手なピンクの電飾を施した建物は何だろう。パチンコ屋にしか見えないが信用金庫と書いてある。駅前にも重厚な煉瓦でピンクのネオンが光り輝く建物があった。こちらの計り知れない寒冷地仕様なのか。

 

 部屋に帰って電気を消し、さっきドラッグストアで買った特選ルイボスティーと家から持って来た残り少ない特大カリントウを片手に窓辺から夜景を眺める。高い所から景色を眺めるのが好きだが、ドラマやアニメでは悪役がよくそんな構図でたたずんでいるな。しかし、おそらく悪役はカリントウは食べない。北海道は道路が真っすぐだから視界がすっきりして良い。窓は大きいが開くようにはなっていない。夜なのにガラスが曇りもしないし結露がないのはなぜだろう。

 

 

 朝起きて、朝食会場である最上階に上がっていくと展望ラウンジとなっている。街並みは部屋からよく見えたから海が見たい。案内の係にそう告げて一番端っこの方の影になったようなソファーに陣取って港を見下ろす。総勢5人ぐらいの他のみなさんは街並みの方に座っていらっしゃる。食べ物もそのあたりにいっぱいある。

 

 きっとこんなにそびえ立つホテルには、さぞかし 良い品が揃っているだろう。ししし。 楽しみにして行ってみるとやはりあった。柿とヨーグルト&ハスカップソース。鮭にオクラ、目玉焼にとろろ芋! 他にスープカレーやジンギスカン、魚介の何かやラーメンのような観光メニューもあったが、あまり興味がなかったので目もくれず自分の食べたいもの「だけ」を食べる。これがビュッフェの王道だ。

 

 朝食時には、やはりオレンジジュースが飲みたい。牛乳やトマトジュースはおしゃれなピッチャーに入っていたが、それ以外は最新のコーヒーマシンのような機械で入れてくれということらしい。オレンジジュースを押そうとして、ふと、横のレモンジュースに目が留まった。パネルをタッチしてくわしく見てみる。食品表示の法律では、果汁は100%の場合しか切り口の絵を描いてはならないんじゃなかったっけかな。オレンジが100%ならレモンも100%なのかな。そんなの飲める人はいないだろうけど、もしかしたら紅茶に入れるレモンってこと?ってことは押して1杯分ジャーっと入ってしまったら困るから、押してる間だけ出る仕掛けなのか。

 

 などと考えていたら、慇懃なベストを着けたやる気満々の(従業員)「どうしました」とやってきたので、このレモン果汁は何%ですかなどと聞いたら朝から非常にうるさい人間だと思われそうだから(きの)「オレンジが飲みたい」 (店)「そちらはオレンジではございません。」 わかってるわ!(店)「(機械)ピッ。ピッ。このボタンを押して」 (きの)「ジャッ・・・出ませんが」 (店)「もっと押して!」 (きの)「ジャーーゴホゴホ。やっぱり出ません」 (店)「おかしいな。原液がないのかも。後ですぐお席までお持ちしましょう」 と言うから席に着いて待っていたが、いつまで経っても持って来ない。

 

 安定のソーセージとご飯を詰め込んで、もう何も飲むものがない。どうしたんだろう。苦しい。 向こうの方を悠然と歩きまわっているベストが見えるが、すっかり忘れているのか。それともこんな端に座っている客がいると思わず、もう帰ってしまったと思ったのか。ただののん気なやつか。 窓の外を眺める。あの海にはどのくらい塩があるのかなどと考えてみたが埒が明かないので、もういい自分で持ってくる。 押してみたら普通に出た。入れ替えたのか。

 

 そろそろお茶漬けの時間だ。お湯と緑茶のティーパックとスプーンを携えてしずしずと戻ってきて席で誂えて(きの)「Oops!ジャバッ」 飲んでいたらご飯にかかってしまったという設定で横の塩鮭とともにおいしくいただく。やはり北海道は鮭が豊富だ。

 

 食べたらウポポイだ! 駅に急ぐ。ロータリーでは南海バスと書いたサビだらけの車体がギシギシと通り過ぎて行った。あれで走るの?雪国の機械はちゃんとしといた方がいいんじゃないのか。切符を買い自動改札を通る。(駅員)「今からだとずいぶんある。特急にしたら?」 戻って券売機で特急券を買う。(駅員)「来たら呼ぶから、そこの待合室で待たれよ」 さすが雪国。地元のオジサンたちとイスに座って待つ。

 

  電車が来たという放送が流れると、そこらの人がみんな立ち上がりぞろぞろと改札に吸い込まれていく。(きの)「さっき入ったけどまた出ました」 不慣れな観光客はわけのわからないことを堂々と主張して特急券にスタンプを押してもらう。 ホームに降りると昨日も聞いたが、この「♪さ~ざ~れ~」みたいな爆音のオルゴールは何だろう。上野の停車場の雑踏みたいなもの哀しさを感じる。ここにはこれが一日中流れているのか。 そういえば、すっかり扁桃腺は治った。何だったんだろう。あの冷蔵庫のような空気が良かったのか。それとも菊のドライフラワーか。

 

 

(後記:後で調べたら、寂しさを表現しているのではなく盲動鈴というものらしい)

 

 

 特急の窓から見える景色はほぼ穀倉地帯だった。たまにサイロの付いた三角屋根の上の方の角度を緩くしたような Barn(納屋)風の家がある。ぐるぐる巻いた牧草もあり、見慣れた風景だ。草は牛の冬の食料にする。サイレージはオレンジの匂いがするらしい。稲ワラには元から納豆菌が付いているのではなかったか。そんな食料を冬中食べるのは嫌だろうから、あそこに見えている牧草は全部麦のワラなのだろうなぁ(うっとり)。

 

 山の紅葉がはっきりしている。赤が濃い。以前泊めてくれた札幌の知人の母上様は、真冬の自宅の玄関前に細々と植えてあった数株のパンジーの色が濃いですねと褒めたら、寒暖の差が大きいと色が濃くなるんだと言っていた。あの赤い木は何の木だろう。街中にも植えられていて葉っぱや種の形からするとハゼやウルシではないかと思うのだが、触るとかぶれるウルシを街じゅうに植えるだろうか?? 車内放送で白老とウポポイについて説明がある。(放送)「日本語、英語、中国語、#$%&〇▼・・・今のはアイヌ語の解説でした」 公用語だそうだ。

 

 駅に着いてからが長い。入り口までも長いし、入ってからも遠い。さすがに最近は直行できる高架をかけたそうだが、前は駅の反対側に回り込んでから、さらに歩いたのか。郵便局のポストが紺色で伝統的な模様が描いてある。だんだん自治区に入っていくようだ。 少し離れた慰霊施設に行ってから展示を見ようかと思っていたが、警備員のおじさんに(警)「この先徒歩で40分。歩道がない。危ない。しかも閉まってる」 諭されて断念。ちっ。先に祈ってからでないと見れませんなどと意気込んで来たが、しょうがない。次回にしよう。

 

 アイヌの口承に学術的な興味がある。先住民族に敬意を払い、「共に歌う」という施設の名前の通り相互に理解を深めよう。ゲートを通り(係)「それでは行ってらっしゃい。イランカラプテ~」 (きの)「わーい。アシリパさんと同じ恰好をした人が何人もいる~~!!ダダダダ」 テンションMAXで駆け回る。

 


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