カヅさんが亡くなった後のさまざまな手続きで、ダンナが書かなきゃならない書類が結構あるのでダンナの入院先に行って来た。
それに、先日のことでダンナの様子が気になっていたので…
ついこの前までダンナは開放病棟に居た。だが、二十歳の入院女性患者がトイレに入ってる時、覗いたとされ、今は閉鎖病棟に入れられてしまった。
車椅子患者のための鍵の無いアコーディオンカーテンのトイレなのだが、他のトイレが使用されていて、アコーディオンカーテンが少し開いてたので、ダンナは中に人が居るのか居ないのかわからなくて様子を見たらしい。
何の悪気も無く、まさか女の人が中に居るとも考えず、早くトイレに入りたい思いなだけで。
まあ、そんなことだろうと私も思っていた。
その車椅子患者の若い女の人を私も今まで何度か見かけたことがあるが、あぁ…なるほどあの子かぁ、という感じ。
看護師達に、特に男性看護師達に、『ねぇ、ナントカさぁん』という感じで甘えているのをよく見かけた。
あの調子でババァ看護師達にも甘えて可愛がられていたのだろう。ちなみに全然可愛くない子だが。
看護師達の気を引きたくて、ダンナのことをオーバーに言ったんだろうなと想像がつく。
だいたいにして鍵が無いんだしキチンと扉を閉めろよと私は言いたい。
いや、そもそもなんで男女共同トイレなのだと病院に言いたい。
まあ、何を言っても、何とダンナが言い分を看護師達に訴えても、あの看護師失格のババア達が耳を貸すはずもない。
それどころか夏の仕返しとばかりにハリキッてこんな仕打ちをしてきたのだろう。
ダンナがいくら自分の言い分を訴えても聞いてくれなかったそうだ。
主治医も「見てしまったことはしょうがない」と冷たかったそうだ。
閉鎖病棟に入ったダンナは、この前会った時より弱々しくなっていて、表情も乏しく、言葉も上手く出てこない雰囲気になっていた。
強い薬になったのではと気になった。。
ダンナのたどたどしい話を聞いて、私は
「まあ、そんなことだろうと思ったよ」
と言った。
今日は息子も一緒に行ったのだが、息子も深く2回頷いてきた。
でも、きっと他の誰も信じてくれないだろう。。
と、そこへ私のスマホが鳴った。
母からだった。
出ると、親せきから香典を預かったから送るねという話だった。
今、病院に来て面会してたと言うと、母もダンナに言ってくれた。
「○○さんがそんなことをする人じゃないって知ってるよ。大丈夫、信じてるからね」
と、ダンナに話している母の声が漏れて聴こえてきた。
ダンナは薬のせいか上手く受け答えできず、無表情で「はい」「はい」と、「はい」しか言えてなかったが。
面会を終え、病棟を出る時、男性看護師が病棟の鍵を閉めに来た。
ここは閉鎖病棟。
今までの開放病棟とは違い、いちいち病棟そのものに鍵の開閉がある。
割りと感じの良いその男性看護師に、
「閉鎖病棟で問題を起こしたようですが、タイミングの悪い男だから、どうせダンナは勘違いされたんだろうなとは思っていました。まあ誰も信じてくれなかったそうですが」
と話した。
すると、その看護師が苦い表情で小さい声で言った。
「わたしも、そんなことだろうなと思っています」。
嬉しかった。
場の雰囲気で、行動には出せなかったとしても、ちゃんと信じてくれてる人は居るんだ。
その看護師にお礼を言い、病院を後にした。
「感じの良い人だったね」
と息子。
「うん、そうだね」。
私達は少しホッとした気持ちになった。