女装子愛好クラブ

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今夜は抱かれるのだと官能の予感に浮き立ちながら服を選びました~『女装七変化』(松本侑子著)

2020年08月11日 | ★女装の本・雑誌
『クロス』を読み終えた時、やはり女装者の恋を描いた小説『女装七変化』(松本侑子著)を思い出しました。
夏季休暇中ですから時間はあります。
早速、本棚の奥から引っ張り出して読み直します。

編集者の山田健二はふとしたきっかけで女装を始めます。
そして徐々に女装にのめりこみ、化粧の腕を上げ、洋服などを買いそろえます。
女装部屋にするためアパートを借りるまでになりました。
そして夜の街を歩いているところに、k氏と運命の出会いをするのです。
ここからの描写がすごくいいんです。
さすがは松本侑子氏です。

 Kさんと出逢った翌日の午後、携帯電話が内ポケットで振動しました。ちょうど会議中でした。きっと彼からだと思い、走って非常階段に出ました。
 「もしもしぃ……」山田健二宛にかかってきたのか、マミ宛なのかわからないので、中性的な声で出ました。
 「Kです、ゆうべの。あんたのことが忘れられなくて、今週末にでも逢いたい、土曜日の夜飲みませんか」艶のある声でした。
 胸の鼓動が遠くなりました。好意を持った男のひとに、丁寧だけど強引に誘われるのは嬉しいものです。女声でしやべっているのをひとに聞かれるのが心配で、急いで待ちあわせの時間と場所だけ決めました。

 彼が指定したのは、新宿西口にある高層ホテルのバーでした。飲んだ後、どうなるか……。Kさんに女として抱かれるかも・・・・という期待に身震いします。
 約束は夜だというのに、昼から女装部屋になっているアバートヘ出かけました。
 まずシャワーを浴びて体を隅々までよく洗い、シャンプーします。体臭はありませんが、仕事着や髪に染みこんだ男の匂い、編集部でついたタバコ臭さを消すのです。
 続いてバスルームでは、毛をそります。顔だけでなく、腕、足、脇の毛もそり落とすのです。大変なので、時々、エステで永久脱毛しようと思いますが、昼は男としての生活があるもので踏み切れません。
 というのも、男のあごにに青いヒゲのそり跡がなくて、すべすべしていると、世間は、虚弱だと見るのです。あごだけでなく、腕や足が無毛でつるつるしていても軟弱だと見ます。窮屈な考えですが、二重生活をまっとうするには、普段は世間並みの男らしい外見を保つしかありません。
 シャワーから出ると、下着を身につけます。白いブラジャー、レースのパンティー、が-ターつきストッキング、透けたシュミーズ……。人目につく表だけスカートにして、見えない肌着はブリーフでもいいじゃないかと思われるかもしれません。でも女装とは、自分の憧れるかれんな女の子になりきる自己満足の幻想です。下着からすべて女の子でありたいのです。(中略)
 自分の色香に陶酔しながらお化粧です。つけまつげ、アイライン、マスカラ、アイシャドウ、マニキュアも手足の爪に塗ります。眉毛は、本当は細く形を整えたいのですが、編集者でいるとき、そった跡があるのは不自然ですからね、太めのままにしてカツラの前髪を垂らして隠します。
 今夜は抱かれるのだと官能の予感に浮き立ちながら服を選びました。色っぽいけれど品のいい黒いワンピースに金のネックレス、絹のスカーフを首に巻きました。 
 (この続きは明日に...)
   出所『女装七変化』 松本侑子著『性遍歴』所収 




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