休日には地元図書館に行くことにしています。
日頃は読まない分野の本棚を眺めるのも案外リフレッシュになるものです。
たまたま文学のエッセイの棚をみていたら、酒井順子さん『着ればわかる』を見つけました。
この本は数年前にこのブログでも紹介しました。
その時は中年熟女たちがセーラー服を着てキャッキャッする話でしたが、今回手に取って読んだら、なんと酒井順子さんがキャバクラ嬢に変身する話が目に留まりました。
酒井順子さんは当然のことながら純女ですが、水商売をしたことのない身持ちの堅い方です。
そんなアラフォーの彼女がキャバ嬢のヘア・ドレス・メイクを体験する話は、こりゃ女装とも通じるものがあります。
ということで、本を借りてきました。
司書の身持ちの堅い女性もこんな邪な思いで本が借り出されるとは思っていないでしょう。
新宿歌舞伎町でキャバ嬢に変身するところを抜粋・引用します。
歌舞伎町には、キャバ嬢用のセット専門美容室が、たくさんあります。彼女達の三次元的なヘアスタイルは、自分の手で作成するのはちと無理。自前の美容師さんを雇うキャバクラもあるものの、二千円以下の安い価格でセットしてくれる美容室に出勤前に行って、通称「盛り師」に髪をセットしてもらうケースが、多いのです。
私が行ったのは、そんなお店の一つ。雑居ビルの中にある美容室におそるおそる入ってみると、盛り師は明らかにおねエ系の男子。
「いかにもキャバクラ嬢風、にしていただきたいのですが……」
と、申し入れました。本職のキャバ嬢達は、メイクは自分の手で行なうそうなのですが、あのようなメイクはとてもできない私は、ヘア、メイクともに、お願いすることにします。
まずはメイクから始めたのですが、キャバ嬢メイクの最大のポイントは、何といっても、目。ペースをつくってから、目頭や目尻に白のアイシャドウでハイライトを入れ、上下ともにアイラインをぐりぐりと描き、つけ睫毛を装着。
ほぼ完成してから鏡を見てみると、まず思ったのは「すごいタレ目になってる!」ということです。何でも今、キャバ嬢の世界ではタレ目がブームとのこと。確かに日本男児は、親しみやすいタヌキ顔の女の子を好む傾向にありますから、その流行りもわかるような気がします。が、目に手をかける割には、唇はあっさりしたメイクなのです。ベージュ系のリップをぬるくらいで、目立つ色は使用しない。
「唇を目立たせると目が生きてこないでしょう?・ だからよ」
と、おねエ盛り師は教えてくれます。
メイクが完成したので、次は髪。
「とにかく盛りたいんです!」
と、私は懇願しました。キャバ嬢のヘアスタイルは、日進月歩の勢いで新しい開発が進むのだそうですが、「スジ」といわれる、髪を少しずつの束にしつつセットする技や、「カブセ」といってうしろから前にかぶせるような技が今は流行っているのだそうで、 「スジ盛りにしてください!」 と、わからないながらもオーダーしてみました。
ホットカーラーで髪を巻き、頭頂部は逆毛を立てまくる。立てた逆毛は、慎重にスジに7まとめ、まるで十二単のように、右から左からかぶせていくと、ほとんど3Dのような髪型ができあがっていきます。クラブのホステスさんの場合は、横や後方向にボリュームをもたせるそうなのですが、キャバクラ嬢の場合は、とにかく上方向に高くするそうな。
「キャバ嬢はね、髪を高く盛ることによってお客を威圧するんですI ライオンヘアなんてスタイルが流行ったこともあったわ!」
と、盛り師さんは語る。
そうこうしているうちに、ヘアも完成しました。スパンコールがついた黒のナイロン製ロングドレスを着用してみると、「あら~、こういう入、働いてそう~」と、盛り師さんに言われて、私は何だか嬉しくなった。実際には、アラフォーのキャバクラ嬢というのはあり得ない存在ですが、女としての自分が認められたようで、キャバ嬢になりたいという女の子遠の気持ちも、わかる気がしてきたのです。
その格好で向かったのは、やはり歌舞伎町にある、キャバ嬢の写真名刺を作る専門スタジオ。ドレスにコートをはおって歌舞伎町を歩くのは恥ずかしくもあるのだけれど、その行為がいかにも本当のキャバ嬢っぽいではありませんか。
スタジオでは、強力なライトの前で、熟練のカメラマンさんのポーズ指導に従って、撮影をしました。終了後は、すぐにパソコンの前で、作業です。
で、この。作業ことは何かといえば、修整作業。写真を選んだら、シミやシワは全て消し去り、黒目は大きく、白目は真っ白に、腕は絹くして腰はくびれさせ、胸には谷間まで入れて下さるのです。
みるみるうちに自身の醜い部分が消えていくのは、見ていてこの上なく爽快。
「この手の作業って、本物のキャバクラ嬢さん遠は……?」
と間いてみると、
「み~んなやってるよ!」
とのこと。
『着ればわかる!』酒井順子著 文藝春秋刊から引用


CA、宝塚、自衛隊、十二単……着てみたやってみた全18着。
エッセイの名手が面白おかしく解き明かす「着るもの」と人の深~いつながり
日頃は読まない分野の本棚を眺めるのも案外リフレッシュになるものです。
たまたま文学のエッセイの棚をみていたら、酒井順子さん『着ればわかる』を見つけました。
この本は数年前にこのブログでも紹介しました。
その時は中年熟女たちがセーラー服を着てキャッキャッする話でしたが、今回手に取って読んだら、なんと酒井順子さんがキャバクラ嬢に変身する話が目に留まりました。
酒井順子さんは当然のことながら純女ですが、水商売をしたことのない身持ちの堅い方です。
そんなアラフォーの彼女がキャバ嬢のヘア・ドレス・メイクを体験する話は、こりゃ女装とも通じるものがあります。
ということで、本を借りてきました。
司書の身持ちの堅い女性もこんな邪な思いで本が借り出されるとは思っていないでしょう。
新宿歌舞伎町でキャバ嬢に変身するところを抜粋・引用します。
歌舞伎町には、キャバ嬢用のセット専門美容室が、たくさんあります。彼女達の三次元的なヘアスタイルは、自分の手で作成するのはちと無理。自前の美容師さんを雇うキャバクラもあるものの、二千円以下の安い価格でセットしてくれる美容室に出勤前に行って、通称「盛り師」に髪をセットしてもらうケースが、多いのです。
私が行ったのは、そんなお店の一つ。雑居ビルの中にある美容室におそるおそる入ってみると、盛り師は明らかにおねエ系の男子。
「いかにもキャバクラ嬢風、にしていただきたいのですが……」
と、申し入れました。本職のキャバ嬢達は、メイクは自分の手で行なうそうなのですが、あのようなメイクはとてもできない私は、ヘア、メイクともに、お願いすることにします。
まずはメイクから始めたのですが、キャバ嬢メイクの最大のポイントは、何といっても、目。ペースをつくってから、目頭や目尻に白のアイシャドウでハイライトを入れ、上下ともにアイラインをぐりぐりと描き、つけ睫毛を装着。
ほぼ完成してから鏡を見てみると、まず思ったのは「すごいタレ目になってる!」ということです。何でも今、キャバ嬢の世界ではタレ目がブームとのこと。確かに日本男児は、親しみやすいタヌキ顔の女の子を好む傾向にありますから、その流行りもわかるような気がします。が、目に手をかける割には、唇はあっさりしたメイクなのです。ベージュ系のリップをぬるくらいで、目立つ色は使用しない。
「唇を目立たせると目が生きてこないでしょう?・ だからよ」
と、おねエ盛り師は教えてくれます。
メイクが完成したので、次は髪。
「とにかく盛りたいんです!」
と、私は懇願しました。キャバ嬢のヘアスタイルは、日進月歩の勢いで新しい開発が進むのだそうですが、「スジ」といわれる、髪を少しずつの束にしつつセットする技や、「カブセ」といってうしろから前にかぶせるような技が今は流行っているのだそうで、 「スジ盛りにしてください!」 と、わからないながらもオーダーしてみました。
ホットカーラーで髪を巻き、頭頂部は逆毛を立てまくる。立てた逆毛は、慎重にスジに7まとめ、まるで十二単のように、右から左からかぶせていくと、ほとんど3Dのような髪型ができあがっていきます。クラブのホステスさんの場合は、横や後方向にボリュームをもたせるそうなのですが、キャバクラ嬢の場合は、とにかく上方向に高くするそうな。
「キャバ嬢はね、髪を高く盛ることによってお客を威圧するんですI ライオンヘアなんてスタイルが流行ったこともあったわ!」
と、盛り師さんは語る。
そうこうしているうちに、ヘアも完成しました。スパンコールがついた黒のナイロン製ロングドレスを着用してみると、「あら~、こういう入、働いてそう~」と、盛り師さんに言われて、私は何だか嬉しくなった。実際には、アラフォーのキャバクラ嬢というのはあり得ない存在ですが、女としての自分が認められたようで、キャバ嬢になりたいという女の子遠の気持ちも、わかる気がしてきたのです。
その格好で向かったのは、やはり歌舞伎町にある、キャバ嬢の写真名刺を作る専門スタジオ。ドレスにコートをはおって歌舞伎町を歩くのは恥ずかしくもあるのだけれど、その行為がいかにも本当のキャバ嬢っぽいではありませんか。
スタジオでは、強力なライトの前で、熟練のカメラマンさんのポーズ指導に従って、撮影をしました。終了後は、すぐにパソコンの前で、作業です。
で、この。作業ことは何かといえば、修整作業。写真を選んだら、シミやシワは全て消し去り、黒目は大きく、白目は真っ白に、腕は絹くして腰はくびれさせ、胸には谷間まで入れて下さるのです。
みるみるうちに自身の醜い部分が消えていくのは、見ていてこの上なく爽快。
「この手の作業って、本物のキャバクラ嬢さん遠は……?」
と間いてみると、
「み~んなやってるよ!」
とのこと。
『着ればわかる!』酒井順子著 文藝春秋刊から引用
CA、宝塚、自衛隊、十二単……着てみたやってみた全18着。
エッセイの名手が面白おかしく解き明かす「着るもの」と人の深~いつながり