国立国会図書館で閲覧した『くいーん』1993年6月号のなかで、興味深いルポが掲載されていました。
乱桐子さんが書かれた「上野男娼街」です。
上野公園にあった木造二階建てマーケットが男娼街だったというのです。
上野というエリアは文化的と思われていますが、おどろおどろしい気に覆われている地域でもあります。
乱さんのこのルポは上野のおどろおどろしさを深く感じさせるものです。
何回かに分けてご紹介していきます。
JR上野公園口の改札を出ると、正面に上野文化会館があります。左に坂を降りていけば御徒町、反対に右にだらだら坂を登って二百メートルもいくと左側に木造二階建のマーケットがありました。
正確にいえば元マーケットであり二階がアパートでしたが、今はきっと跡形もないに違いありません。夜、この暗い通りでこの建物はさらに黒い闇に包まれてうっそうとたっていました。数年前迄、ここは好き者が秘かに通った男娼の館だったのです。
多分この建物は終戦間もなく引揚者の施設として、東京都が上野公園の一画に建てたものと思われます。構造が変わっていました。一升枡の中に五合枡を置いたように外側と内側の二棟になっていました。
正面の入口にペンキ塗りのアーチがあり『文化マーケット』なのか『文化アパート』なのか消えかかって読めない字が書いてありました。そのアーチをくぐると、外側と内側の間の通路がマーケットの店舗になっていたようです。その店舗の跡が男娼の店になっていました。
昼間は死んだようにひっそりとしていますが、夜になると食虫植物の蜜に誘われるように背中を丸めた客が吸い込まれていきます。中に踏み込むと、湿った空気と闇に包まれ、勿ち非現実的な気分になります。そう、大正か昭和初期の魔窟がこんな風だったに違いないと思わせる甘受な戦慄に全身の毛が逆立ちます。
数段の石段を燈火が通路に点々と並んでいます。男娼の店に客がついていれば室内を暗くし、通路の灯りが点けられるのです。一つの店の広さは四畳半位、その中で厚化粧した女装の男娼がむせるような色香をふりまいて客を誘っています。数えた事はありませんが、四角い外側の棟の三辺の通路に並んだ男娼の店は15軒ぐらいです。
ぶらぶら歩いていくといきなりネグリジの男娼が店を飛び出して来るのにぶつかります。彼は小走りに入口に近い共同便所に飛び込み、出てくると、水道の蛇口に跨って下半身を洗います。そしてタオルを絞り、又店に小走りに戻っていきます。たぶん、そのタオルで客の体を拭くのでしょう。そうした彼の行動にあたしは憧れと感動を覚え、しばらくたたずんでしまいます。
この建物が現在あるかどうかは判りませんが、四年位前に見に行ったときは完全に廃屋になって死臭が匂うようでした。
乱桐子さんが書かれた「上野男娼街」です。
上野公園にあった木造二階建てマーケットが男娼街だったというのです。
上野というエリアは文化的と思われていますが、おどろおどろしい気に覆われている地域でもあります。
乱さんのこのルポは上野のおどろおどろしさを深く感じさせるものです。
何回かに分けてご紹介していきます。
JR上野公園口の改札を出ると、正面に上野文化会館があります。左に坂を降りていけば御徒町、反対に右にだらだら坂を登って二百メートルもいくと左側に木造二階建のマーケットがありました。
正確にいえば元マーケットであり二階がアパートでしたが、今はきっと跡形もないに違いありません。夜、この暗い通りでこの建物はさらに黒い闇に包まれてうっそうとたっていました。数年前迄、ここは好き者が秘かに通った男娼の館だったのです。
多分この建物は終戦間もなく引揚者の施設として、東京都が上野公園の一画に建てたものと思われます。構造が変わっていました。一升枡の中に五合枡を置いたように外側と内側の二棟になっていました。
正面の入口にペンキ塗りのアーチがあり『文化マーケット』なのか『文化アパート』なのか消えかかって読めない字が書いてありました。そのアーチをくぐると、外側と内側の間の通路がマーケットの店舗になっていたようです。その店舗の跡が男娼の店になっていました。
昼間は死んだようにひっそりとしていますが、夜になると食虫植物の蜜に誘われるように背中を丸めた客が吸い込まれていきます。中に踏み込むと、湿った空気と闇に包まれ、勿ち非現実的な気分になります。そう、大正か昭和初期の魔窟がこんな風だったに違いないと思わせる甘受な戦慄に全身の毛が逆立ちます。
数段の石段を燈火が通路に点々と並んでいます。男娼の店に客がついていれば室内を暗くし、通路の灯りが点けられるのです。一つの店の広さは四畳半位、その中で厚化粧した女装の男娼がむせるような色香をふりまいて客を誘っています。数えた事はありませんが、四角い外側の棟の三辺の通路に並んだ男娼の店は15軒ぐらいです。
ぶらぶら歩いていくといきなりネグリジの男娼が店を飛び出して来るのにぶつかります。彼は小走りに入口に近い共同便所に飛び込み、出てくると、水道の蛇口に跨って下半身を洗います。そしてタオルを絞り、又店に小走りに戻っていきます。たぶん、そのタオルで客の体を拭くのでしょう。そうした彼の行動にあたしは憧れと感動を覚え、しばらくたたずんでしまいます。
この建物が現在あるかどうかは判りませんが、四年位前に見に行ったときは完全に廃屋になって死臭が匂うようでした。