昔々、東京武蔵野市のある病院に、2分の1世紀くらい生きた1人の女の人が入院し
ていました。
外科のお医者さんが「切るべきですなぁ」
と言い、内科のお医者さんは
「みだりに体にメスは入れないほうがいいんですよ。それに何も見えないのですから」
と、意見が分かれていました。
何が見えないって?
彼女の体の中に石がある、ない、いや絶対にある、ともめている石のことです。
昔の事ですから、CTスキャンも、もちろんMRIなんて装置もありません。唯一の機械が
レントゲンです。そこに写らない、痛さの原因になっている臓器が、なかなか医者の意
見を同一にしなかった理由なのです。
彼女は、末娘一家と同居。待ちに待っていた男の子の孫も加わって楽しい日々を送って
いました。そんな彼女に度々訪れる理不尽な痛さ。
「ギャーー、痛ーーい!」遥か昔に味わった出産時の痛さに、勝るとも劣らない痛さが
彼女を襲っていたのです。
出産時の痛さは、快楽の結果のそれだから、痛がって叫んだりわめいたりなんて、女の
恥!って言って憚らなかった彼女に、次女が最初に彼女に孫をプレゼントをしました。
病院始まって以来の騒ぐ産婦という、彼女にとってはたまらない醜態のわが娘。ま~だ
まだ初産の出産には時間がかかると、叫ぶ娘を置いて、
「恥ずかしいったらありゃあしない」
で、プンプンに怒って、病院を後にした女丈夫。
その日の彼女は、いつも以上の、おなかの中を、胃の辺りをムンズとつかまれ、ひっぱ
られ、もまれ、押し付けられるを繰り返す、名状しがたい痛さに、転げまわって、自室
から玄関の板敷きまできてしまいました。
玄関のたたきに落ちそうになる彼女を必死で押さえようとする娘婿を払いのける力が出
るのです。火事場のバカちから、と同じ作用。若い男の押さえ込み、しかも娘婿は柔道の
有段者という猛者をものともしない、彼女のちから。
「痛い!痛い!いたたたたたた、あ~~いた~い」
「お母さん、大丈夫?」
首を振って、大丈夫じゃない、と意思表示。
顔は黄色に。かなりな黄疸症状。
レントゲンに写らない胆嚢内部。ここで医者同士がもめていたのでした。
あとでわかった事。胆管の口を石がふさいでいたのです。病名は「胆石」
術後、彼女の家系唯一の男の子の手を引いて、娘は毎日、毎日「おかず」運びです。病
院食にまったく手をつけない母親のために。
「どうやったら、こんな不味いお料理ができるの?食べられた代物じゃあない」
と、言い切るのですから。
そのうち、娘が何かを感じて言ってしまいました。
「お母さんて、牢名主みたい。ねえ、皆さん」
同室の入院患者さんたちは、一斉に首を縦に、強く振ったものです。ハハハ、やっぱり
ねえ。恫喝なんてしてないわ、する理由もない。モノで釣った訳でもない。けれど偉そ
うにって。それがお母さんだものねえ、と娘はしみじみ思ったものでした。
続く・・・
ていました。
外科のお医者さんが「切るべきですなぁ」
と言い、内科のお医者さんは
「みだりに体にメスは入れないほうがいいんですよ。それに何も見えないのですから」
と、意見が分かれていました。
何が見えないって?
彼女の体の中に石がある、ない、いや絶対にある、ともめている石のことです。
昔の事ですから、CTスキャンも、もちろんMRIなんて装置もありません。唯一の機械が
レントゲンです。そこに写らない、痛さの原因になっている臓器が、なかなか医者の意
見を同一にしなかった理由なのです。
彼女は、末娘一家と同居。待ちに待っていた男の子の孫も加わって楽しい日々を送って
いました。そんな彼女に度々訪れる理不尽な痛さ。
「ギャーー、痛ーーい!」遥か昔に味わった出産時の痛さに、勝るとも劣らない痛さが
彼女を襲っていたのです。
出産時の痛さは、快楽の結果のそれだから、痛がって叫んだりわめいたりなんて、女の
恥!って言って憚らなかった彼女に、次女が最初に彼女に孫をプレゼントをしました。
病院始まって以来の騒ぐ産婦という、彼女にとってはたまらない醜態のわが娘。ま~だ
まだ初産の出産には時間がかかると、叫ぶ娘を置いて、
「恥ずかしいったらありゃあしない」
で、プンプンに怒って、病院を後にした女丈夫。
その日の彼女は、いつも以上の、おなかの中を、胃の辺りをムンズとつかまれ、ひっぱ
られ、もまれ、押し付けられるを繰り返す、名状しがたい痛さに、転げまわって、自室
から玄関の板敷きまできてしまいました。
玄関のたたきに落ちそうになる彼女を必死で押さえようとする娘婿を払いのける力が出
るのです。火事場のバカちから、と同じ作用。若い男の押さえ込み、しかも娘婿は柔道の
有段者という猛者をものともしない、彼女のちから。
「痛い!痛い!いたたたたたた、あ~~いた~い」
「お母さん、大丈夫?」
首を振って、大丈夫じゃない、と意思表示。
顔は黄色に。かなりな黄疸症状。
レントゲンに写らない胆嚢内部。ここで医者同士がもめていたのでした。
あとでわかった事。胆管の口を石がふさいでいたのです。病名は「胆石」
術後、彼女の家系唯一の男の子の手を引いて、娘は毎日、毎日「おかず」運びです。病
院食にまったく手をつけない母親のために。
「どうやったら、こんな不味いお料理ができるの?食べられた代物じゃあない」
と、言い切るのですから。
そのうち、娘が何かを感じて言ってしまいました。
「お母さんて、牢名主みたい。ねえ、皆さん」
同室の入院患者さんたちは、一斉に首を縦に、強く振ったものです。ハハハ、やっぱり
ねえ。恫喝なんてしてないわ、する理由もない。モノで釣った訳でもない。けれど偉そ
うにって。それがお母さんだものねえ、と娘はしみじみ思ったものでした。
続く・・・