手作りと震える心は・・・

虹鱒の燻製から始まった手作り作業。
べたべたくっつくパン生地をこね初めのあの感触は、かなり忍耐がいる作業。
ひたすらこねて、叩きつけて、１次発酵までおよそ１時間半強。同じ大きさに
カットしてそのまま１０分強。いよいよ成形。ザラメとシナモンパウダーを
加えて、２次発酵。そして１８０度のオーブンで焼くこと２０分強。
出来上がり。粉が飛び散ったその辺と、ボールやら何やらを片付ける。所定の
位置に収まった後は、何事もなかったかのような台所。

虹鱒・梅ジャム・キュウリのピクルス・シナモンパンにコーヒーの食事。コーヒー
以外は私が作ったもの。
表示違反も詐称も化学物質添加物もない安心の塊を食べます。

次はベーコン用豚バラ肉を買いに車を出して。
そこで見かけた甘塩鮭。これも！骨付き鶏もも肉も。
バラ肉に塩をすりこんで、大体同じ重量分の冷蔵庫内にある物を乗せて、
明日まで血抜きです。その後ピックル液に１週間は漬け込みます。

虹鱒はリンゴのチップとサクラの小枝で燻しました。
ベーコンは、サクラとヒッコリーを使います私は。
虹鱒の燻製に使ったスモーカーを、そのままチップを足して、鮭の燻製です。
その傍らで、キムチを加えた餃子を５０個。
ロゼ色の梅酒のつまみは、美味しかったですねぇ。
セニョール・ダンは、いつものように「おが屋」へ、息子孝行。お金を落としにね。

そこへ、携帯電話受信。マリアさんからコウイチ君へ。
「レイコサン、今から言うスペルを辞書で調べてもらえませんか？生憎僕は
辞書を持っていないので」
「ええ、いいわよ。でも、どうしたの？」
「ユウキの様子が心配ってマリアが」・・・マリアさんの次男坊。
彼の言うスペルは、心理、心理学、ストレスからくる精神のなんたらかんたら。
「病院でしょうかねぇ」
「そうねえ、精神科、心療内科、それからカウンセリングかしら。でも薬を投与
なんてことになるわ。出来るだけお医者さんは頼らないほうがいいのよねぇ。
大体が母親に原因ありよ。それに、男の子のナイーブさってったら、ガラスみた
いだもの。子どもの世界だって辛いことがいっぱいの世の中よ。外で辛いことが
あっても、親特に母親が受け止めてやれば、乗り越えられる。
でも、受け止めて、あるがままを受けいれてあげる大人がいないと、子どもは
その辛さから逃げる術を持てないで、ストレスに押しつぶされちゃうのよ。
女は、強いからわが身を削って、あの激痛に耐えて次の世代を育てられるのよ。
でもねえ、男は弱いからねぇ。守ってあげなきゃいけないのよ。
ああ、可哀想なユウキクン。・・・わかった、私が彼の相手をするわ。にわか
カウンセラーになるわよ。ええ、大丈夫。伊達に生きて来ちゃいない私よ。
アナさんには、かなり厳しい宿題を出して、当分会うことはないはずだから、
ユウキクンへ時間を割くわ。

・・・私も思春期に悩んで悩んで、死にたくなった時がありました。
今こうしているのは、ある人のお陰です。母でもなくましてや姉たちでもありま
せん。血縁ではない遠い遠い親戚です、もう他人といっていい立場の人です。
その人は、私を受け容れてくれた、私の存在を認めてくれた、唯一の人でした。

大人ってなんであんなに偉そうなのでしょう？そんな大人の本性を子どもはみんな
見抜いているのに、ね。見抜かれていることを知らずに威張る大人は恥を知らなきゃ
ねぇ。でも恥知らずだから、幾つになっても偉そうなのよ。
ええ、偉そうってことは、決して偉くないって事。

子どものほうが、宝物を持っているのです。大方の大人たちが失ってしまった
数えられない宝物を。数えられるものに魂を奪われたら、その分、何よりも大切な
宝物を失っていってることに気づかない。

小学生です、ユウキクンは。その小さなまだ柔らかな心が震えているのです。
ママ、助けてよって。僕は辛い、苦しい、どうしたらいいのかわかんないだよって。
子どもには、大人の大きな愛が必要なのです。一人でもいいのです。しっかり
受け止めて、微笑んでくれる大人がいたら、頑張れるのです。前を見られるのです。

さあ、いらっしゃい！何も心配することなんかないのよ。
そうやって、私はユウキクンを受け容れましょう。
ああ、僕はいてもいいんだ！って、心から思えるまで、私は彼の伴奏者になりま
しょう。それが大人の仕事なのです。強くて優しくなければいけません。
何か話して欲しい？イヤ！　何か話したい？いいわよ、聞くわ。それもない？
わかった。黙って多くを語りましょう。そう、無言は、時としてとても饒舌なの
です。感じましょう。祈りましょう。私はあなたに勇気をあげるわ。
そして、ユウキクンはユウキクンだけを信じなさい。あなたにとって、世界で
一番大切な人はあなただけ。それを感じてもらいましょう。