http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/20150125-00042537/
切れ目ないテロと軍事報復の際限ない悪循環もたらす安倍政権の積極的平和主義・武器輸出・集団的自衛権行使
井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者
2015年1月25日 19時0分産経新聞1月19日付の報道です。
切れ目ないテロ対策=自衛隊海外派遣恒久法
出典:産経新聞1月19日付 菅官房長官、恒久法制定の必要性に言及 「特措法での対応考えていない」
菅義偉官房長官は19日の記者会見で、安全保障政策に関し、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法(一般法)の制定が必要との考えを明らかにした。「(自衛隊の活動への)ニーズが発生してから、特別措置法で対応するという考え方を取ることは考えていない」と述べた。菅氏は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を整備することが重要だ」とも語った。政府はこれまでイラク復興支援やテロ対策について特別措置法で対応してきたが、法整備に時間がかかり、自衛隊の迅速な展開を妨げてきた。
集団的自衛権行使に向けた法整備に加え、さっそく今回のイスラム国人質事件を利用し、自衛隊をいつでも海外へ派遣できるようにする恒久法案を、明日26日招集の通常国会に提出する考えを安倍政権は明らかにしているわけです。
東京新聞は1月22日付の「安倍外交 世界に逆行/邦人殺害警告 背景は/イスラエル接近一因か」という記事の中で次のように報道しています。
出典:東京新聞1月22日付「安倍外交 世界に逆行/邦人殺害警告 背景は/イスラエル接近一因か」
イスラエルは昨夏、パレスチナ自治区ガザへ軍事作戦を展開。ガザでは、一般市民を中心に約2千人が死亡した。さらに停戦合意後も、パレスチナ人居住区での入植を強化している。こうしたイスラエルの強硬姿勢について、最大の同盟国である米国ですら「距離を置くことになる」(大統領報道官)と批判。国連などを舞台に、国際社会の目は厳しさを増している。
出典:東京新聞1月22日付「安倍外交 世界に逆行/邦人殺害警告 背景は/イスラエル接近一因か」
ところが、安倍政権は世界の流れに逆行している。2013年3月、政府はイスラエルが導入を予定する次期主力戦闘機F35の共同開発参加を表明。昨年5月には、イスラエルのネタニヤフ首相が来日。両国の国家安全保障局、防衛当局の交流促進と協力で合意した。そして、今回は首相自らイスラエルを訪問した。
上記のように東京新聞が指摘する「世界に逆行」した「安倍外交」の経過の上に、さらに「不用意な安倍外交」が重なって今回の「邦人殺害警告」という事態を引き起こした可能性が高いということは、前回紹介した中田考氏の緊急会見でも明らかだと思います。
つづけて東京新聞の同記事では、2人の研究者の次の指摘を紹介しています。
日本に攻撃の矛先が向けられるのは時間の問題だった
「遅かれ早かれ、日本に攻撃の矛先が向けられるのは、時間の問題だった」「首相は『中東の平和と安定のためにイスラエルと協力する』と言うが、中東の不安定の根源はイスラエルの存在。その国と一緒にテロと戦うと宣言し、イスラエル向けの兵器を開発することは、イスラム国のみならず、他のイスラム過激派にも、日本人を標的にする口実を与えるようなもの」「日本は原爆を落とされたが、復興を遂げ、世界に技術を提供してきた国として、イスラム圏では好印象を持たれていた。昔の自民党の政治家は対米追随でも、イスラエルとは一定の距離を置いていた。現在、そういう認識が欠落した首相と政府がイスラム圏との信頼関係を破壊している」
【京都大学 岡真理教授(現代アラブ文学)】
出典:東京新聞1月22日付「安倍外交 世界に逆行/邦人殺害警告 背景は/イスラエル接近一因か」
積極的平和主義でなく憲法9条の平和主義を貫くべき
9条に基づく外交が日本の企業、国民の安全を守ることにつながる
「イスラム国にとり、イスラエルは聖地エルサレムを不法に占領する異教徒集団で、イスラム圏を侵略する欧米の手先だ。その国旗を背に『テロに屈しない』と会見した安倍首相は、地域に『日本はイスラエルの仲間』と印象づけた」「イスラエルとの安全保障上の協力関係は見直すべきだし、武器輸出は誤りだ」「パレスチナ紛争の公正な解決に貢献することが、日本外交の役割。軍事を含んだ積極的平和主義ではなく、憲法9条の平和主義を貫くべきだ。9条に基づく外交は長い目で見れば、日本の企業、国民の安全を守ることにつながる」
【千葉大学 栗田禎子教授(中東現代史)】
出典:東京新聞1月22日付「安倍外交 世界に逆行/邦人殺害警告 背景は/イスラエル接近一因か」
そして、木下ちがやさんがフェイスブックで次の指摘をしています。(※木下ちがやさんご本人に了解を得た上での転載です)
【人質事件での安倍の失態】
◆数カ月前からのISの接触を放置
◆人質政治利用の可能性があるも中東訪問
◆エジプトでIS殲滅を公言
◆イスラエル国旗を背後に対テロ宣言
◆英首相に身代金支払わない旨発言リークされる。
◆人質事件を自衛隊法改正にからめ、ISに事実上の戦争宣言
こうした指摘を見ていくと、今回のイスラム国人質事件での安倍政権の数多くの「失態」は、じつのところはマッチポンプ的な狙いがあったのではないかと勘ぐりたくなるほどです。明日から始まる国会で安倍政権が既定路線としていた集団的自衛権行使の法整備に加えて、直近でも海外で戦争できる国づくりの一環としての自衛隊初の「海外基地」=ジブチ「基地」化の動きや、冒頭紹介した産経の報道にある自衛隊の海外派遣恒久法など、アメリカを中心とする「対イスラム国戦争」への協力、「戦争する国づくり」に向けたバリエーションがもろもろ増えて来ているのは偶然ではないようにも思います。
今回のイスラム国人質事件も、無差別に多数の市民を殺害するテロも、当然ですが許されるものではありません。しかし、テロへの報復としての空爆などで、罪なき多数の市民、とりわけ子どもたちをも巻き込み新たな犠牲者を生み出すことも許されないのではないでしょうか。テロへの報復は、新たな憎しみを生み、テロと報復の際限のない悪循環をつくり出し、結局はテロ根絶に向けた世界各国の団結をも壊し、テロ根絶にも効果がないばかりか、事態を一層の泥沼に導くのではないでしょうか。その点について、ジャーナリストの志葉玲さんがフェイスブックで次の指摘をしています。
日本人は皆、問われている
例の2億ドルが「人道支援」であるという安倍政権の主張を、ISISが額面通り受け取らないのも、単にいちゃもんつけているだけではなく、イラク戦争を支持・支援してきた日本への不信感もあるのかもしれない。イラク戦争前のサダム政権も人権問題では本当に酷い状況ではあったけども、そうした独裁政権で拷問を受けた人ですら、「米軍はサダムより酷い」と言い、米国や日本が支援した新生イラク政府は「米軍の方がまだマシだった」という無茶苦茶な拷問や虐殺を繰り返した。
ISISは突然生まれたのではなく、米国や日本の外交・安全保障政策の失敗の繰り返しの中で、夥しい死と破壊の中から、生み出されたモンスターなのだ。しかも、悪いことに、現在もイラク政府は自分の意に沿わないという理由で、イラク西部の人々めがけて樽爆弾を落とし、病院すら何度も攻撃している。イラク戦争に関わってしまった日本の業を、後藤さんだけに背負わせるのは、あまりにむごい。ある意味、日本の人々、特に12年前のイラク開戦時に大人だった日本人は皆、問われるものがあるのだろう。
イラク帰還の陸上自衛隊員の自殺率は一般国民の18倍
安倍政権の積極的平和主義で自衛隊員の命も奪われる
それから、イラク帰還の陸上自衛隊員の自殺率は一般国民の18倍にのぼっている深刻な実態がすでにあります。アメリカにおいても、1日平均22人以上の退役軍人が自殺し、2012年には自殺した現役の米兵数が349人とアフガニスタンでの戦闘で死亡した米兵数を上回るなど、現役・退役軍人の自殺が後を断ちませんし、ホームレスの3人に1人は帰還兵といわれています。さらにテロへの報復や自衛隊海外派遣恒久法、集団的自衛権行使などによって、自衛隊員の命も奪われてしまうことも明らかでしょう。
最後に、近々、渡辺治一橋大学名誉教授のお話を聴くことになっているので、今回のイスラム国人質事件をめぐる安倍政権の動向をどう見るかについても聴けると思っているのですが、以前紹介したエントリー「安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由 - 戦後の平和主義を根本的に転換し本気で軍事大国めざす」から、安倍政権の積極的平和主義について渡辺名誉教授が語っているところを一部分ですが紹介しておきます。
安倍首相の「積極的平和主義」の狙い
――安倍首相は「積極的平和主義」という言葉も掲げていますが、その狙いは何でしょうか?
今国会の施政方針演説では、「積極的平和主義」を掲げたり、集団的自衛権の行使の容認を、安保法制懇の報告を踏まえて行うと言ったりしていますが、2つ重要なポイントがあります。
1つは、安倍改憲の中心が集団的自衛権にあるということを明言したことです。もう1つは、その改憲を解釈でやると言ったことです。後者は第1次安倍政権とまったく違うところです。この2つを明言したことが重要な点です。
戦後の平和主義を根本的に転換
1つめのポイントから考えてみましょう。
自衛隊が海外で米軍と共同軍事行動を進めることを安倍政権は「積極的平和主義」と表現しています。今まで日本が戦後69年掲げてきた平和主義は、武力で相手国を脅したり、あるいは武力行使で国益の確保を図るようなことはしないというものでした。つまり再び侵略の銃を取らないというのが日本の平和主義の最も大きな原則だったわけです。ところが、安倍政権はそうした戦後日本の平和主義を「消極的平和主義」「一国平和主義」だとし、それでは世界の平和は守れないというわけです。日本が侵略の銃を取らないことは実は世界の平和にとってとても大きな意味を持っているのですが、安倍政権はそれを全く認めない。むしろアメリカの要請に基づいて、日本がアメリカと共に血を流す、自由な市場秩序を守るために、イラクやシリアや中国や北朝鮮に派兵することによって、世界の平和と秩序は守れると言っています。
これは日本が戦後69年掲げてきた平和主義を根本的に転換する発想です。それを安倍政権は「積極的平和主義」と呼び、自衛隊が米軍とともに海外にプレゼンスすることによって、世界の平和に貢献するのだと言っているのです。自衛隊が侵略の銃をとらない、海外で軍事行動をとらないことによって世界の平和を実現するのではなくて、逆に自衛隊が海外で軍事行動をすることによって、国際的な平和を実現するというのが安倍政権の「積極的平和主義」で、これはまさしく集団的自衛権によって米軍と共同で軍事行動をとることを宣言した言葉です。
【※続きは→「安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由 - 戦後の平和主義を根本的に転換し本気で軍事大国めざす」】
▼インタビューを視聴できます。