地上波を使って沖縄へのヘイトデマを撒き散らす――新年早々、そんな卑劣なテレビ番組が放送された。
米軍新規ヘリパッド建設で揺れる沖縄県国頭郡東村高江。2017年1月2日に放送されたTOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン)の報道バラエティ番組「ニュース女子」が高江のヘリパッド建設に反対する市民運動を取り上げた。
番組は、軍事漫談家を自称するジャーナリスト・井上和彦氏が、昨年12月の「某日」に沖縄を現地取材した際のVTRを冒頭で流し、出演者が井上氏の取材報告を軸にトークを展開するというものだったが、その内容には多くの「デマ」や「ヘイト発言」が含まれていた。現在、虚偽と悪意に満ちた放送内容に対し、多くの非難が集まっている。
IWJは沖縄の中継市民の協力も得て、いかにこの番組が悪質なヘイトデマを垂れ流しにしているか検証した。
オスプレイが年間2520回飛行へ!「ニュース女子」が報じない、市民が高江ヘリパッド建設に抗議する理由!
そもそもこの放送回の「ニュース女子」では、なぜ、高江で市民らが反対運動を続けているかという基本的な事実さえ紹介されていない。
新規ヘリパッド建設は米軍北部訓練場の過半返還(全7513ヘクタール中、4010ヘクタール)に伴うものだが、土地の返還による「負担軽減」とは名ばかりで、6つの新ヘリパッドは高江の集落を取り囲むように建設されており、このヘリパッドは、昨年末に墜落したばかりの米海兵隊輸送機オスプレイが年間2520回も使用すると見込まれている。地元住民にとっては「負担増大」でしかないのが実態だ。
こうした事情から、高江では新ヘリパッド建設に反対する運動が2007年から続けられているが、政府は昨年7月、建設工事を強行すべく本土から500人規模ともいわれる機動隊員らを沖縄に投入。暴力的な手段もいとわず、市民を強制排除し、昨年12月16日には建設工事の完了を発表した。
22日には、同県名護市で政府主催の返還式典が開催されたが、翁長雄志沖縄県知事が欠席するなど、政府と県の温度差が改めて浮き彫りになった。高江に住む東村村議・伊佐真次氏はIWJのインタビューに対し、北部訓練場返還式典は「ヘリパッド完成祝賀会」に過ぎないと批判している。
「襲撃しにくる」「近づいたら危ない」!? 取材もせずに印象操作するVTR!
「ニュース女子」は高江の市民運動の背景さえ紹介せず、辺野古や高江で過激な「基地反対派」が、好き勝手に暴れまわっているかのように紹介している。

▲ジャーナリスト・井上和彦氏(
井上和彦氏オフィシャルサイトより)
沖縄取材を敢行した井上和彦氏は、取材VTRの冒頭で、名護市警察署前で不当逮捕に抗議する市民らを発見し、「いました、いました。反対運動の連中が」とレポート。さらに、「この辺の運動家の人たちが襲撃しにくると言っている」と出所不明の伝聞情報を披露した。
その後、井上氏が抗議中の市民らに近づこうとすると、「井上さんは反対派にとって有名人」というテロップが入り、「井上さん、このまま突っ込んで襲撃されないですか?」とナレーションが流れる。
さらに撮影スタッフらの「近くに行く?」「これ近づいたら危ない」という会話が流れ、「井上さん自ら取材交渉へ」という勇ましいナレーションが入るが、直後、なぜか「このままだと危険と判断 ロケ中止」という大きなテロップが映し出され、井上氏がカメラマンらの元に踵を返す。
「取材交渉」と言いながら、VTRを観るかぎり市民らと接触した様子さえなく、これにはさすがにスタジオの出演者も「さっそく!?」「なんだ、情けないじゃん(笑)」と失笑を隠せない。
続くVTRでは、井上氏が取材クルーのほうに戻りながら、「近づくとひとりふたりが立ち上がり、敵意をむき出しにして、かなり緊迫した感じになりますので、このあたりでやめておきます」と笑みを浮かべながら報告。スタジオの出演者に、「井上さんなんか嬉しそうだな」「な〜んだ」とつぶやかれる始末である。
市民らの抗議行動を遠巻きに撮影し、「襲撃しにくる」「近づいたら危ない」と一方的なレッテルを貼るだけで、市民らにインタビューさえしない。井上クルーのロケは到底「取材」と呼べるものではなく、印象操作を目的とした冷やかしの類としか受け取れないが、VTRは一事が万事、この調子なのである。
「過激デモを支えるのはシルバー部隊」!? 沖縄の歴的文脈を無視した根拠なき誹謗中傷!
井上クルーはキャンプ・シュワブ前に建つ辺野古テントにも寄っているが、車内からさらりと撮影するだけで、降りて取材する様子もない。井上氏はテントに集まる市民らを車内から眺め、「定年を過ぎたような人たちばっかりですね」とコメント。VTRを見守るスタジオからは、その事実を嘲笑するかのような笑い声があがった。

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キャンプ・シュワブ前に並ぶ辺野古テント(2016年12月16日、IWJ記者撮影)
名護警察署前で「定年を過ぎたような人たち」を前に、まるで野生の熊にでも出くわしたかのように遁走したのは他ならぬ井上クルーだが、そんなことはもう忘れてしまったようだ。
VTRでは、「反対派の過激デモを支えるのは、彼らシルバー部隊。万一逮捕されても生活に影響が少ない65歳以上のお年寄りを集め、過激デモ活動に従事させているという」と悪意あるナレーションが流れる。誰が「シルバー部隊を過激デモ活動に従事させている」のか、主語も情報の出所も示されていない。お年寄りに、実際どんな「過激」な活動が可能か、という中身の説明もない。
辺野古に集う高齢者たちは、日本国憲法も適用されない米軍統治下の沖縄を生き抜いた世代だ。中には過酷な沖縄戦を体験した人もいる。そんな彼らが、次世代に今よりも平和な沖縄を残したいと願うのは当然のことだ。
そんな沖縄の歴史的な文脈も踏まえず、「シルバー部隊」などと揶揄する「ニュース女子」には、強い怒りを禁じ得ない。
高江まで40km以上離れた場所で「過激デモで危険な為ロケ中止」!?
井上クルーの「現地取材」には呆れるばかりだが、驚くにはまだ早い。
名護市方面から高江へ向かう車内。「いざ!高江へ!!」というテロップが出た矢先、である。
井上氏は国道311号上にある「二見杉田トンネル」の前で車を降りてロケを行い、カメラに向け、「このトンネルをくぐっていきますと、米軍基地の高江ヘリパッドの建設現場ということになります」とアナウンスした。
続けて、「実は、ここにくる前に、ほうぼうから『今ここはちょっと我慢してほしい』と…」とコメント。テロップが、「当日、高江ヘリパッド移設現場は過激デモで危険な為ロケ中止の要請が」と補う。

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二見杉田トンネル(2017年1月7日、IWJ中継市民撮影)
井上氏は歯がゆそうな表情を浮かべ、「このトンネルの手前で、私ははるばる羽田から飛んで来たんですけれども、足止めを食っているという状況なんですよ」と地団駄を踏み、ナレーションが、「反対派の暴力行為により、地元の住民でさえ、高江に近づけない」と状況を説明する。そこでなんと、そのまま井上クルーは二見杉田トンネルをくぐることなく、ロケを断念してしまう。
VTRだけ観れば、まるで二見杉田トンネルのすぐ向こう側で、高江のヘリパッド建設に反対する市民らが過激な反対運動を展開しているような印象だが、実はこの二見杉田トンネル、高江のヘリパッド建設現場まで距離にして40kmも離れている。
IWJ中継市民が1月7日、法定速度内(時速40km)で二見杉田トンネルから高江まで車を走らせたが、到着するまで、ゆうに1時間以上も費やした。二見杉田トンネルとは、それほど高江の現場からかけ離れた場所なのである。「反対派の暴力行為により、地元の住民でさえ、高江に近づけない」というナレーションには一変の真実のカケラもない。
地元住民や、高江を一度でも訪れたことがある人からすれば、井上氏が二見杉田トンネルの前で「足止めを食っている」姿など、滑稽でしかない。何の猿芝居をしているのか、と思う。また、「高江には反対派の暴力行為で近づけない」というが、高江の現場にはこれまでもIWJやフリージャーナリストだけでなく、民放各社も頻繁に出入りしている。
二見杉田トンネルから先には大型リゾートホテルや大浦湾などの観光名所がいくつも存在しており、井上氏の取材VTRは、地域に対する風評被害さえ招きかねない、極めて悪質なものだといえる。
「基地反対派は救急車を停める」というデマを報じ、市民を「テロリスト」呼ばわりする井上氏
井上氏のVTRには、地元に住んでいるという男性も登場する。男性は井上氏に対し、高江のヘリパッド反対運動は「先鋭化」しており、「村民の日々の生活が止まってしまうくらい」だと告白している。
地元の人からすれば、市民運動が生活に悪影響を及ぼしている側面もあるかもしれないが、市民らの抵抗権の行使で高江周辺のインフラ事情に影響が出ているというのであれば、高江における機動隊員らの異常な振る舞いにも言及しなければまったくフェアではない。
この間、ヘリパッド建設に反対する市民らを制圧するため、機動隊は一般車両をすべて停止させ、自由勝手に道路を封鎖し、ヘリパッド建設用のトラックやダンプカーなど、通行させたい車両だけを意図的に通行させてきた。しかも、こうした道路封鎖を行う法的根拠も示していない。
井上氏はスタジオトークの中で、現場に近づかない理由として、「我々の車が足止めされることで工事のトラックが入れない」などとも主張しているが、機動隊は一般車両など意にも介さずトラックを通しており、井上氏の主張は荒唐無稽としか言いようがない。

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高江で一般車両を停め、警察車両や工事関係車両だけを通行させる機動隊(2016年8月9日、IWJ記者撮影)

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高江の県道70号を封鎖する機動隊(2016年8月9日、IWJ記者撮影)
井上氏のVTRに登場した「地元男性」は、「機動隊が暴力を振るわれているので、その救急車が止められて現場に急行できない事態がしばらく、ずっと続いていた」とも証言している。これを聞いた井上氏は、「テロリストみたい」と驚いてみせたが、「地元男性の証言は事実として存在するのだろうか。
高江周辺を管轄する国頭地区行政事務組合消防本部の辺土名朝英(へんとな あさひで)署長はIWJの取材に対し、「それはないですね」と断言する。
辺土名署長は、反対運動で現場が混雑した場合は、「人混みの中ですから、ゆっくり安全確認しながらしか走行できないということはあるかもしれませんが」と前置きしたうえで、「反対派が救急車の行く手を妨害したという報告を隊員から聞いたことはないですね」と繰り返し、VTR内の地元男性の証言を明確に否定した。
地上波で延々と垂れ流される「沖縄ヘイトデマ」!TOKYO MXの見解は?
井上氏やTOKYO MXは初歩的な裏取り取材さえ行わないまま、地元男性の「デマ」を事実であるかのように地上波放送で垂れ流し、高江で反対運動を続ける市民らを「テロリスト」と貶めているのである。放送倫理上も、こんなデタラメな情報発信が許されるはずがない。
こうしたデマや沖縄ヘイトを垂れ流している事実について、TOKYO MXはIWJの取材に対し、次のようにメールで回答している。
この度、貴殿より頂いております1月2日放送の「ニュース女子」についてのご質問ですが、状況確認及びご回答の可否も含めて、結論が出ておりません事をお伝えいたします。お問い合わせありがとうございました。
報道をみると、他メディアに対してもまったく同じ文言で返信しているようだ。IWJが最初に電話で問い合わせた際、「電話では即答できないが、メールで問い合わせいただければ状況確認を行いながら回答できる」という主旨の回答を得ており、TOKYO MX側には結論が出次第、改めてご連絡いただきたいと伝えている。また、番組制作元のDHCシアターにも確認を進めている。
そして残念ながら、「ニュース女子」による悪質なデマは、ここで記述しただけにとどまらない。
本稿後編では、番組で紹介された、平和運動に参加する市民に対して「日当が支払われている」という根拠なきデマや、出演者らによる在日外国人へのヘイト発言などにも焦点を当てたい。
(この稿続く)