私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

自作詩 ナーシッサス/エコー

2014-09-01 22:54:11 | 自作詩
ナーシッサス/水仙の唄 

わたしの心の深くにあなたは住まっているのだ
輪郭を揺るがせにしながら
つねにわたしに背を向けて
あなたは住まっているのだ


 あなたは光だ
 あなたは花だ
 あなたは水のほとりのすがただ
 あなたのすがたを思うときわたしの心は震える
 するとあなたもともにおののき
 逃げ水のように消える


  あなたは黄ばんだ午後の日射しだ
  あなたは雨の音だ
  あなたは芝生に円く散る白いいばらの花だ


わたしは慕いつづける
あなたは眺めつづける
あなたのかなたに光るなにかを
わたしもときに眺める


 あなたは川面に光る入り日だ
 あなたは山吹の花だ
 あなたはよどんだ車窓の外を過ぎてゆく色とかたちだ
 過ぎてゆき 過ぎてゆき 過ぎてゆきなおとどまり
 わたしの心の深くに
 あなたは住まっているのだ



エコー/こだまの唄

あなたに会いたくて ずっと
夢をみてはまた醒めて
わたしは今日もねがう
醒めない夢をみたいと


 あなたの影が近づいても
 水面に映ることなく
 こだまだけが谷にひびいて
 ときおり胸をそよがす


  あなたはどこにいるのか
  わたしはつねに知らない
  ただ遠くすぎた春に
  ひとつの歌を聞いた


あなたは今も歌うか
わたしの聞けない歌を
谷にひびくこだまの澱が
水底に積もってゆく


 反歌
 ひとりたつ しじまに耐えず こだま乞う さけびを孤悲と 呼べばいとおし


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