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金剛杖がなくなった・・・・・
昨年4月29日のこと。
善通寺へ安産のお札を返し健康祈願のお願いをした。その後、大麻山へ登りこんぴらさんの奥社を経て、本宮へ参拝、石段を下り麓の参道に出るとちょうど正午。参道のうどん屋に入り、しょうゆうどんを注文する。しばらく休憩、さあ丸亀までウォーキングと表に出て杖を取ろうとしたが、杖がない。
一瞬置いた場所を間違えたのかと思い、考えた。確かに入口横の杖立に立てたことに間違いはない。
店頭でうどんを打っているおじさんに聞いてみたが分からないと言う。
中からお兄さん、おばさんも出てきて「ここから持って行ったのなら帰りにはここに返すはずだから、返っていれば送りましょう」と気遣ってくれる。
もし返ってくれば後日取りに来ることにして、旧街道を丸亀に向った。
遍路を始めたときに先達さんが「杖は間違えないように。杖には持っている人の厄が移っている。間違えて持ってくればその人の厄を全部持ってくることになる」と話していた。とすると、杖に入っていたであろう私の今までの厄を一切持って行ってくれたのだろう、まあそう思って諦めようと思いながら、しばらく、高燈籠まで歩いた。しかし、どうも歩きづらい。いつも右手には杖かストックを持って歩いている。手ぶらで歩くとなんとなくふらふらしている感じがする。
仕方がない、杖を持って行った人も2時間もすれば、山から下りてくるだろう、また奥社まで行ってみよう、そうすれば途中出会うに違いないと参道を引き返し登ることにした。
大門の手前で 托鉢している僧に聞いてみたが、気がつかなかったとのこと。「金剛杖を持っていくような人はいないだろう」という。喜捨、あいさつをして大門をくぐり中へ進む。すると大門を過ぎて数十メートル、すぐに見つかった。三十歳代の女性が右手に青色のカバーの付いた杖を持って下りてくる。杖には小さな笠がついている。間違いない。夫婦と十歳くらいの男の子ども連れである。
「その杖は私のですけど」と言うと、女性が男の子に「だから言ったでしょう」と叱りつける。すぐ返してくれた。夫婦は何度も「すみませんでした」と謝る。
「いやいや、私も店の杖と一緒に入れていたのが悪いのだから」といって坂を下った。
しばらくして「すみません」といってまた父親が男の子を連れて追っかけてきた。あらためて子供に謝らせる。
「気にしないでください」といったが、その家族にとってこんぴらさんの苦い思い出になったかもしれない。かえって申し訳ないような気になった。
まだ時間に余裕がある。参道から高燈籠、旧街道を辿り丸亀へ向かった。
誘拐された子が帰ってきたような気分である。右手の手持ち無沙汰がなくなった。いつものテンポが戻ってきた。
また今までの厄を持って歩くことになったが、厄と一緒の方が歩きよいような気がした。
金剛杖がなくなった・・・・・
昨年4月29日のこと。
善通寺へ安産のお札を返し健康祈願のお願いをした。その後、大麻山へ登りこんぴらさんの奥社を経て、本宮へ参拝、石段を下り麓の参道に出るとちょうど正午。参道のうどん屋に入り、しょうゆうどんを注文する。しばらく休憩、さあ丸亀までウォーキングと表に出て杖を取ろうとしたが、杖がない。
一瞬置いた場所を間違えたのかと思い、考えた。確かに入口横の杖立に立てたことに間違いはない。
店頭でうどんを打っているおじさんに聞いてみたが分からないと言う。
中からお兄さん、おばさんも出てきて「ここから持って行ったのなら帰りにはここに返すはずだから、返っていれば送りましょう」と気遣ってくれる。
もし返ってくれば後日取りに来ることにして、旧街道を丸亀に向った。
遍路を始めたときに先達さんが「杖は間違えないように。杖には持っている人の厄が移っている。間違えて持ってくればその人の厄を全部持ってくることになる」と話していた。とすると、杖に入っていたであろう私の今までの厄を一切持って行ってくれたのだろう、まあそう思って諦めようと思いながら、しばらく、高燈籠まで歩いた。しかし、どうも歩きづらい。いつも右手には杖かストックを持って歩いている。手ぶらで歩くとなんとなくふらふらしている感じがする。
仕方がない、杖を持って行った人も2時間もすれば、山から下りてくるだろう、また奥社まで行ってみよう、そうすれば途中出会うに違いないと参道を引き返し登ることにした。
大門の手前で 托鉢している僧に聞いてみたが、気がつかなかったとのこと。「金剛杖を持っていくような人はいないだろう」という。喜捨、あいさつをして大門をくぐり中へ進む。すると大門を過ぎて数十メートル、すぐに見つかった。三十歳代の女性が右手に青色のカバーの付いた杖を持って下りてくる。杖には小さな笠がついている。間違いない。夫婦と十歳くらいの男の子ども連れである。
「その杖は私のですけど」と言うと、女性が男の子に「だから言ったでしょう」と叱りつける。すぐ返してくれた。夫婦は何度も「すみませんでした」と謝る。
「いやいや、私も店の杖と一緒に入れていたのが悪いのだから」といって坂を下った。
しばらくして「すみません」といってまた父親が男の子を連れて追っかけてきた。あらためて子供に謝らせる。
「気にしないでください」といったが、その家族にとってこんぴらさんの苦い思い出になったかもしれない。かえって申し訳ないような気になった。
まだ時間に余裕がある。参道から高燈籠、旧街道を辿り丸亀へ向かった。
誘拐された子が帰ってきたような気分である。右手の手持ち無沙汰がなくなった。いつものテンポが戻ってきた。
また今までの厄を持って歩くことになったが、厄と一緒の方が歩きよいような気がした。