「美貌・才能と全てを持ち合わせた逸材。でも何故か女性にもてない」
オリュムポス十二神の座はゼウスの兄弟と、その子供たちで占められているが、その中でもゼウスの嫡男アポローンは最も祝福された存在だ。
医術・音楽・詩・数学・予言を司り、太陽神ポイポス・楽人の王・神託の王にして黄金の弓の支配者であり、朝、東の宮殿から太陽の馬車を駆って空に昇り、西の地平に至るのが彼の仕事なのだ。
馬車を引く馬たちは、それぞれ炎のようなたてがみを靡かせ、青い牧場を一直線に駆け巡るのである。そして双子の妹は、月の女神アルテミスであることもよく知られている。
この万能の神の母親は誰か? 残念ながらヘーラーじゃあない。ゼウスが心を動かされたのは(ものは言いようですね)、大地母神ガイヤの孫のレートーだった。だから、ヘーラーは大変焼きもちを焼いたんだ。
彼女の怒りは凄まじく、世界中のどんな場所でも子供を生むことが出来ないように睨みを利かせた。おかげでレートーは、どこに行ってもヘーラーの怒りを恐れて彼女を受け入れてくれなかったんだ。
そこでゼウスが出産場所として、新たにデーロス島を創ったんだ。そこでレートーは無事にアポローンとアルテミスを生むことが出来たのさ。結構アフターケアーにも気を使う男だったかの知れない(もてるには、この辺の気遣いが必要なのかも)。
ところがアポローン、いいとこだらけのように思うのだが、何故か女性にもてない(出来すぎる男は敬遠されるのかも)。ダプネーは彼を嫌って月桂樹になるし、マルペッサは人間のイーダースの方を選んでしまう。ニュムペーのシノペーなどは、「死ぬまで処女でいられたら、貴方の愛を受け入れてもいいわ」なんて言われてしまう(おいおい)。
なれば、贈り物でもしようかと、カッサンドラーに予言の力を与え、シビュレーには両手ですくった砂粒と同じ数だけの命を与えるが、ものの見事に裏切られてしまうんだ。
まあ、仕返しに呪いを掛けるんだけど、カッサンドラーには彼女の予言を誰も信じないようして、シビュレーには寿命がすぐに尽きてしまうようにした(残酷だよね。生き返っても、すぐ死んじゃうんだから)
それでも、永遠の若さを約束され、情熱と冷静さと茶目っ気をたっぷり併せ持つ青年神アポローンはギリシャの人々にとって理想の人間像だったかもしれない。