「告げ口には神様も怒る、いささか身勝手なのは当たり前」
シーシュポスは、不信心というより、頭の良さでゼウスを怒らせてしまった男だった。ただ、やっぱり ――神さまなんぞ何するものぞ―― という自負はあったかもしれない。
この人はコリントスの王で、ゼウスの機嫌を損ねたのは些細なことだった。ゼウスがアイギーナという乙女をさらった時に、怒る父親にその事実を話した(いわゆるチクった)というだけのこと。
自分のやったことを、たかだか人間に告げ口されたというだけで、何でゼウスともあろうものが、そんなに怒るかは謎だけど、思うに…… 奥さんが恐かったに違いない。
自分のやったことを、たかだか人間に告げ口されたというだけで、何でゼウスともあろうものが、そんなに怒るかは謎だけど、思うに…… 奥さんが恐かったに違いない。
ともかく腹を立てたゼウスは、シーシュポスを殺すことに決めた(オ~~~イ)。しかも普通の死ではもったいないと思ったらしく、使者をハーデースの下に案内するのは、本来ヘルメースの仕事だが、それをヘルメースより各下のタナトスを迎えに行かせたのだ。
ここで素直に死んでいれば、シーシュポスもこれほど有名にはならなかっただろうが、彼は頭も良く、勇気もあったので、大それたことに冥界の使いであるタナトスを、口先三寸で騙して鎖で縛り上げて、一度死んだ後に蘇ったのだ。
再度タナトスは、シーシュポスを訪れる。今回は間抜けなことにならないようにタナトスも用心していただろうが、今度はシーシュポスは別の手を使った。
妻に命じて、本来行うべき葬式も冥土への土産もさせなかったのだ。その上で弁舌さわやかに、ハーデースの妻ペルセポネーにこう言った。
妻に命じて、本来行うべき葬式も冥土への土産もさせなかったのだ。その上で弁舌さわやかに、ハーデースの妻ペルセポネーにこう言った。
「私がここに来たのは何かの間違いです。本当に死んだのなら葬式ぐらい出すでしょう? 」
考えたペルセポネーがシーシュポスの言葉を信じたため、再び彼は地上に舞い戻ったのだった。
しかし、ここまでくれば、何度も神と神の使者を謀った罪は歴然。――これ以上コケにされてたまるものか―― と、ゼウスは拳を固める。
かくしてシーシュポスが厳重な警護の中、三度目の冥界へやってきた時、そこには彼のためにゼウスが特製地獄のスペシャルメニューを用意されていた。
それは巨大な岩と急傾斜の丘(まさに心臓破りの丘)というセットで、シーシュポスは岩を丘の頂上まで押し上げ、頂上から転がり落ちた岩をまた押し上げるという刑罰を、永遠に行うことを命じられたのだ。
かくしてシーシュポスが厳重な警護の中、三度目の冥界へやってきた時、そこには彼のためにゼウスが特製地獄のスペシャルメニューを用意されていた。
それは巨大な岩と急傾斜の丘(まさに心臓破りの丘)というセットで、シーシュポスは岩を丘の頂上まで押し上げ、頂上から転がり落ちた岩をまた押し上げるという刑罰を、永遠に行うことを命じられたのだ。