空は、二年半ほど前から畑に現れるようになった
自由な子でした。
遠くからこちらを見ている姿をたまに見かけ
こちらが近づくと逃げていました。
ある日、コウを散歩中に
突然目の前に現れて、ちょこんと座ったので
わんこ好きなコウは、喜んで駆け寄って行きました。
普段は、初めて会った犬には近づかせないのですが
その時の空の、コウを見る表情が
「わぁ可愛いなぁ~」と言っているような
お母さんが子供を愛しむような
あまりにも優しい表情だったので、コウを行かせました。
赤の他人(犬)で、しかもオス犬が
そんな表情をするなんて、驚きでした。
コウはピョンピョンはしゃぎ、喜んで空に挨拶し
空は落ち着いて、穏やかに、コウを受け入れていました。
それから空は、たびたび畑に来るようになりました。
体格が良く健康で、毛並みや歯茎、舌の状態がとてもきれいで
コウ(当時2歳)とそれほど違わない、若い子だと分かりました。
狩りをすることができる様で、よくキジを追っていました。
初めはとても警戒心が強く
私が近づくと逃げるし、食べ物にも興味を示さず
コウはオスなので交尾目的でもなく
ただ純粋に、仲間が欲しくて遊びに来ていたようです。
そして、会うたびに私との距離も縮まり
コウと私がじゃれていると加わるようになり
気が付くと、いつも一緒に空がいました。
ある日畑に行くと、雨の中で空が丸まっていました。
体調が悪いようで、ヨロヨロと立ち上がり
ブルブルっと水をふるい落とすことも出来ない状態でした。
いつもより警戒心が強く、近づくと力を振り絞って逃げるので
急遽、倉庫にワラで寝床をつくり、ごはんを置いて
「この中で寝るんだよ」と言い聞かせて
その日は帰りました。
いつも自信に満ちあふれて堂々とした空の
あまりに弱々しい姿を見て
死んでしまうのではないかと思いました。
翌日畑に行くと、倉庫から空が出てきて
ごはんもなくなっていたので、ほっとしました。
それから10日ほどかかって徐々に快復し
元気になったときには本当に嬉しかったです。
空は、精神的・身体的にとても強く
私の言葉や気持ちを理解する、とても賢くて優しい子です。
コウが吠えて(甘え鳴き)うるさい時に、私が叱ろうとすると
コウの近くに駆け寄って行って
落ち着かせることもありました。
散歩中に私が転ぶと、すぐに駆け戻って来て
怪我した膝にチョンと鼻をあて
隣に座って、待っていてくれたこともあります。
おそらく、幾度か人に危害を加えられた経験から
とても警戒心が強いですが
人の温かさも知っている子です。
たぶん、人間の都合で
独りで生きていかなければ、ならなくなった子です。
空は、コウよりも体格が良く、力も強いのですが
コウとプロレスごっこをするときは
いつも自分が下になって、お腹を見せて
手加減しながら遊んでいるし
コウがマウンティングしても怒らないほど
コウに対して、親のように接してくれます。
オス同士なのに、あかの他人(犬)なのに本当に不思議。
日頃、そんなふうに甘やかされているので
コウがあまりに調子に乗ってしまった結果
空の指導が入るときもあり
「いい加減にしなさい!」とガウられたりもします。
そんなときも、空は決してコウを傷つけません。
何をしたらいけないのか、どこが境界線か
何度もウザ~い、同じ過ちをするコウに対して
ちゃんと理解するまで、いろいろな方法で指導していました。
親が子供を教育しているような感じで
多くの人間よりも、はるかに優れた教育的指導だな~
と感心しまくりでした。
コウも空のことを絶対的に信頼していて
空のことが超超超大好きです。
そんな空を、笑顔で見守って、癒されると言ってくれる人もいれば
嫌悪し、傷つけようとする人もいる。
自由な子なんだから、そのまま自由にさせてあげればいい
と考える人もいれば
野良犬は危険!迷惑!ただちに捕獲して処分すべき!
と考える人もいる。
今はまだ若いからいいけれど、歳を取ったら…?
体力がなくなってきたら…?
もし、フィラリアにかかったら、三年ほどで死んでしまう…
病気になったら、姿を消してどこかで息を引き取るのかな…
いつか誰かに傷つけられたり
恐怖の中で捕獲されるかもしれない…
それなら私が、自分の手で、愛情をもって捕獲したい。
でも、拘束されることは、空が一番嫌がる事。
空にとって、どうすることが一番幸せなのか
沢山、沢山、考えて、考えた末
空が毎日のように通ってくるということは
私たちと共に暮らすことを、空が選んだのだろう、と思い至り
空を自分で捕獲し、一生共に暮らすことに決めました。
でも、どうやっても、首輪とリードを着けることができず・・・
ひもを輪にして首にかけることは出来たけれど
首輪やリードを持つ気配を、敏感に察知して逃げてしまいます。
手荒なことをして、無理やり捕まえたら
その後、飼育するのがとても難しくなるので
とにかく、空と私の信頼関係を強くすることを優先し
時間が過ぎていきました。
(長靴を噛むのが大好きなので、要らなくなった長靴をプレゼント)
近くの愛護団体に相談したこともありましたが、いい策が見つからず…
そんな中、インターネットで見つけた大阪の動物愛護団体
ドッグスクールポチパパさんに相談のメッセージを送ったところ
とても的確なアドバイスを受けることができました。
ポチパパの北村さんは、犬の心理や行動に関する知識がとても豊富で
「犬の問題行動改善」や「野犬の家庭犬化」において多くの実績がある方です。
そして何よりも犬に対する愛情に溢れた人です。
YouTubeポチパパ ちゃんねる【保護犬達の楽園】でも
犬に関する様々な知識やテクニックを公開していて
とても勉強になるので、わんこのパパママ皆さんにおすすめです。
北村さんの言葉は、机上の論理ではなく、実体験に基づいたものなので
自分がどう行動すれば良いか、具体的なイメージを描くことができ
間もなく、無事に、空を保護することが出来ました。
空をビニールハウスに誘導し(しばらく前から練習していました)
中でごはんを食べ始めたので、ドアを閉めると
空は動揺し、逃げようとしてビニールを少し破りましたが
私が制止すると、大人しくなりました。
ハウスの中で北村さんに電話し、オンタイムでアドバイスを受けることもできました。
こんな状況にもかかわらず、空は一度も
唸ることも、牙をむくこともせず、ただただ不安で
空を撫でる私のお腹に顔をうずめて、震えていました。
私の事を信頼してくれている空の心を
傷つけてしまったかもしれない・・・
「ごめんね。怖いね。でもこれは、空とコウと母さんが一緒に暮らすためなんだよ。だから一緒にがんばろうね」と
空を撫でながら、たくさん涙が出ました。
(ビニールハウス内にて、落ち着いて寝たところ)
閉じ込められただけでも、こんなに不安がっているのに
入ったことのないクレートに入るまでに
一体あと何時間かかるのだろう…
(クレートを前に、私の足を枕に寝る空)
夜になってしまい、今日はこのままハウスに泊まりかな~
と思い始めたとき
私の足を枕にして寝ている空が起き上がり
ぼんやりしたまま体勢を変えたところで、タイミングを合わせ
ようやくクレートに入れることに成功!
このときの安堵といったら・・・言葉なりません。
保護できたとはいえ、今まで自由に暮らしていた子なので
すぐに家庭で一緒に暮らすのはとても難しいことです。
ポチパパの北村さんは、2か月の家庭犬化トレーニング(家庭で一緒に暮らせるように訓練する)を、無料で引き受けてくださいました。
保護当日、空を車に積み、コウも連れて、大阪へ走りました。
初めて捕獲され、初めてのクレート、初めての車、知らない場所と人
緊張と車酔いで、心も体もいっぱいいっぱいの空を預けたときは
私の心も沢山の思いでいっぱいでした。
でも、経験豊富な北村さんとパートナー高木さんの愛情あふれる施設なら
絶対に大丈夫!という確信があったので、不安はありませんでした。
空は、初めの2日間はリードが嫌で暴れてしまった様ですが
その後すぐに安定し、いろいろなことを学んでくれました。
お迎えに行ったときは、私が嬉しさのあまり
まさかの大興奮で近づいてしまい
空を極度に緊張させてしまったため
感動の再会とは程遠いものでしたが
帰り道は車酔いもせず
無事に帰宅し、家に入ってくれた時は
心からホッとしました。
家に入ってしばらくは、クレートの中でウトウトしていましたが
私とコウが就寝すると出てきて、部屋中を探検したあと
私のベッドの足元で朝まで寝ていました。
(うちに来て二日目の夜)
これから普通に生活できる様になるまで
クリアしなければならないことが沢山ありますが
一つ一つのハードルを、焦らず、楽しみながら
3にんで超えて行きたいと思います。
そして、最近分かったことがあります。
これまでに、隣の畑の方から
空が畑の中を歩いて通るため畝に穴が開く
という苦情を受けていたのですが
別の方からも「子どもが犬を怖がる」と言われたことで
(空は子供に近づかないし、近づいてくるのは子供の方なのですが・・・)
周りの人たちは皆、空を嫌っているのかと思っていました。
が、ある時、近所の方から
いつもあの白い犬を見て、喜んだり心配したりしている
と聞き、温かい目で見てくださる方がいるのだと知りました。
そしてこの二カ月、空が畑にいなくなったことで
「あの白い子、最近見ないけどどうしたの?」
と更に多くの方から声を掛けられるようになり
結局、小学生からお年寄りまで二十名以上の方が
今までずっと、空の事を温かく見守り
心配してくださっていたことが分かりました。
(近所の海辺をお散歩)
そうした温かい心を持つ人たちが周りにいることを
空は分かっていたのだろうなと
空から人の温かさを教えられた気がします。
まずは、お家の生活に慣れてからなので
しばらくかかるけれど
また畑で、空の元気な姿を見てもらって
皆さんに笑顔になってもらえたら嬉しいです。
空、一緒にがんばろうね
<注意>
野良犬/野犬にむやみに近づくことは危険を伴います。
対象となる犬の行動・心理が読めない方は、絶対に真似をしないでください。
また、保護をする際は、自己責任でお願いします。