★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのシベリウス:交響曲第4番/トゥオネラの白鳥

2021-06-07 09:35:34 | 交響曲


シベリウス:交響曲第4番
      トゥオネラの白鳥

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

イングリッシュホルン:ゲルハルト・シュテンプニク(トゥオネラの白鳥)

録音:1965年5月12日、18日~21日(交響曲第4番)、1965年9月18日~21日(トゥオネラの白鳥)、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE 7911

 これはカラヤンが、シベリウスの最高傑作と言われる交響曲第4番と、人気の高い「トゥオネラの白鳥」を収録したLPレコードである。録音会場は、カラヤンお気に入りのベルリンのイエス・キリスト教会で行われた。私は、初めてシベリウスの全7曲の交響曲を聴く場合、次の順番で聴くといいのではと考えている。それは、第2番→第1番→第6番→第5番→第7番→第3番→第4番の順である。つまり、シベリウスの交響曲を一度も聴いたことのない人が、いきなり第4番を聴くと「一体この曲はなんなのだ」という感想を持つ可能が高いためだ。この交響曲でシベリウスがとった手法は、それまでのどの作曲家もとったことのない手法であり、旋律をを放棄したようにも聴こえ、楽器の使い方もすべてが簡潔となり、凝縮され、最初から最後まで余分な音符は一つもないといった印象を受ける。これによって、聴きざわりは良くないが、人生の厳しさや不可思議さがこの交響曲から聴き取れるのである。記録によるとカラヤンは、このシベリウス:交響曲第4番を5日間も掛けて録音したのだ。それだけに、一音一音が徹底的に浄化され、ひときわ研ぎ澄まされた演奏内容となっている。そして、カラヤンの得意なダイナミックな表現手法を存分に取り入れることによって、独自性も併せ持たせることに成功したと言えるだろう。カラヤンは、ブルックナーの交響曲を指揮する時のような、スケールを大きく取り、雄大な自然を連想させるような起伏のある演奏を聴かせる。この辺は、他の指揮者には真似ができない、カラヤンが思い描く独自の世界ををつくりだしているといえよう。そして、カラヤンがシベリウスの魂と一対一で対決しているような、壮絶な演奏が延々と繰り広げられる。一方、「トゥオネラの白鳥」は、4つの交響詩からなる組曲「レンミンカイネン」の第2曲目に当たる曲で、しばしば単独でも演奏される。「レンミンカイネン組曲」は、「カレワラ」の第12章から第15章にかけての物語に基づいている。若い戦士の主人公レンミンカイネンは、ポホヨラの国を支配する女魔法使いの娘への求婚に赴き、娘の母から3つの課題を与えられる。そこで、彼は2つまでの課題は克服するが、3つ目の課題(トゥオネラ川を泳ぐ白鳥を射るという課題)に挑戦中に殺される。しかし最後は母の呪文によって蘇生し、家に連れ戻される、という物語だ。ここでのカラヤンの指揮は、柔軟さを存分に採り入れ、美しいイングリッシュホルンの音色を十全に引き立てている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団のシベリウス:交響曲第6番/第7番

2021-04-15 09:42:37 | 交響曲

シベリウス:交響曲第6番/第7番

指揮:ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー

管弦楽:モスクワ放送交響楽団

録音:1974年、モスクワ

LP:VICTOR VIC-4005

 今回はゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(1931年―2018年)が、モスクワ放送交響楽団を指揮した「シベリウス:交響曲全集」の中から、第6番/第7番を収録したLPレコードを取り上げる。ロジェストヴェンスキーは、1931年モスクワ出身の指揮者。20歳の時、ボリショイ劇場でチャイコフスキーのバレエ音楽「るみ割り人形」を指揮して一躍注目を浴びる。当時の旧ソ連政府は、ソ連文化省交響楽団を創設するのに際し、ロジェストヴェンスキーを音楽監督に就かせたことでも分かる通り、旧ソ連国内では確固たる地位を固めていた。初来日は、1957年。以後、度々日本を訪れ、1990年には読売日本交響楽団の名誉指揮者となる。さらに、長年ロシア音楽の普及に務めた功績により、2001年勲三等旭日中綬章を受章するなど、日本とは深いつながりを持つ指揮者だ。モスクワ放送交響楽団、ロイヤル・ストックホルム・フィル、BBC交響楽団、ウィーン交響楽団の各首席指揮者を歴任してきた、ロシアを代表する巨匠であった。シベリウスは、生涯で合計7曲の交響曲を作曲した。第6番は、第7番という最高傑作の橋渡し的交響曲という位置づけをされることもある。手法的にも内容的にも第7番に似ている曲とされることも否定できない。しかし、その一方では、田園的な楽想と抽象的な楽想の見事な統一という、独自性を兼ね備えた交響曲とも取れる。一方、交響曲第7番は、シベリウスが交響曲で到達した至高の境地が盛り込められた最高傑作という評価が下されている作品。単一楽章からなり、その内容も、第1番の交響曲から積み上げてきた、それまでの楽想の集大成といった趣が強い作風となった。このLPレコードでのロジェストヴェンスキーの第6番の指揮ぶりは、その出だしから北欧の田園的田園風景を思い起こさせるような、透明感と優雅さが込められており、引きつけられる。どことなく心躍るようにユーモラスに指揮する部分もあり、シベリウス特有の魅力がしばしば顔をもたげる。この録音は、シベリウスの後期の交響曲は難解だという、紋切型鑑賞法に一石を投じる内容だ。オケもロジェストヴェンスキーの指揮に敏感に反応する。一方、第7番は、深みを込めた指揮ぶりが全面を覆いつくし、シベリウスの心の底を除き込むような、壮絶さがリスナーにひしひしと伝わる。世界各地での紛争が絶えない人類へ対しての、何か祈りのようにも感じられる。これは、人類が到達した交響曲の最高峰の一つであり、そして、その演奏でもあり、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーの指揮の凄味の一端に触れた気がする。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのシューマン:交響曲第4番/ハイドン:交響曲第88番

2021-04-08 09:43:00 | 交響曲

 

シューマン:交響曲第4番
ハイドン:交響曲第88番

指揮:ウイルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本グラモフォン LGM‐1012

 シューマン:交響曲第4番は、第1交響曲「春」の完成後直ぐに着手された作品で、本来なら第2交響曲となるはずであった。そして、その初演時には「交響的幻想曲」と記されていたという。しかし、初演で、第1交響曲ほどの反響が得られなかったため、出版するのを控え、2つの交響曲を書いた後の1851年に、主として金管の部分を改作して出版された。このため第4交響曲となってしまったという経緯がある。そして、1853年には、改作の初演が、作曲者自身の指揮で行われた。初演時に「交響的幻想曲」と書かれていたことで分かるように、この交響曲は、あたかもシューベルトの「さすらい人幻想曲」を思い起こさせるような独特な構成をしている。4つの楽章からなってはいるが、それらは途切れることなく演奏され、曲全体が、動機や主題が一つの楽章から、次の楽章に変形して引き継がれるような、循環形式となっているのである。つまり、シューマンはここで古典的交響曲からの範疇を大きく踏み出し、独創的で革新的な交響曲を創造したということができよう。シューマンの持つロマンの雰囲気はベースとしては持っているが、ベートーヴェン的な力強さ、さらにシューベルトの曲のような自由な発想の世界を、一つの交響曲の中に閉じ込めたのである。この意味では、交響曲史上画期的な作品と言っても過言でなかろう。しばしば「シューマンの交響曲は構成力が弱い」といった批判がされるが、新しい交響曲の創造という観点に立てば、この曲は、より近代的に脱皮を遂げた交響曲といった位置づけがされよう。このLPレコードで演奏しているのは、ウイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルである。このLPレコードでのフルトヴェングラーの指揮ぶりは、シューマンの幻想的でロマン溢れる美しさの表出に加え、ベートーヴェンの交響曲を思い浮かべるような力強さに溢れた名演を聴かせる。各楽章の情感の変化を巧みに操りながら、地底から絞り出すような低音の響きを、ベルリン・フィルの弦から見事に引き出している。何か、ものに取りつかれたような凄味が漂う演奏だ。この演奏を一度でも聴いたら「シューマンの交響曲は構成力が弱い」などという言葉はニ度と発せられなくなるであろう。この録音は、現在シューマン:交響曲第4番の録音の中で最高峰に位置づけられる演奏内容と言える。ハイドン:交響曲第88番の演奏内容は、手堅く、がっちりとした構えのこの曲を、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルは、細部にも目を充分に行き届かせ、重厚さの中にも、軽快に演奏を進める。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スヴェトラーノフ指揮ボリショイ劇場管弦楽団のラフマニノフ:交響曲第2番

2021-02-01 09:43:57 | 交響曲

ラフマニノフ:交響曲第2番

指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ

管弦楽:ボリショイ劇場管弦楽団

録音:1964年、モスクワ

LP:ビクター音楽産業 VIC‐5186

 ラフマニノフは、モスクワ音楽院でピアノと作曲とを学んだが、西欧的で、しかも保守的な傾向が強い、当時のモスクワ音楽院の本流とも言うべき作風であった。このこともありチャイコフスキーからは高い評価を得ていたという。一方、同じ頃モスクワ音楽院で学んだスクリャービンは、常に革新的立場の作風で、両者はモスクワ音楽院を卒業する時には、同音楽院を代表する作曲家として共に将来を嘱望されていたが、その作風はかなり異なっていた。ラフマニノフは、3つの交響曲を残しているが、このLPレコードは、その中で一番有名な第2番が収録されている。第1番の交響曲は、1897年に初演されたが、完全に失敗に終わってしまう。ラフマニノフは、このことがもとで精神障害に罹り、一時は作曲を全くできなくなる事態にまで陥る。ラフマニノフは、それだけ交響曲第1番の成功に期待していたということだったに違いない。病が癒えて新たな作曲に意欲を見せ始めたラフマニノフは、ピアノ協奏曲第2番を書き、1901年に初演された。これが大好評を得たため、ようやくラフマニノフは、本来の作曲意欲を取り戻すことになる。そして、不評であった第1番から10余年経った1906年から翌年にかけて、あらたな交響曲の第2番を書き上げた。このLPレコードで指揮をしているエフゲニー・スヴェトラーノフ(1928年―2002年)は、ロシア出身の指揮者。モスクワ音楽院に学び、1955年からボリショイ劇場で指揮を執る。1962年に同歌劇場の首席指揮者に就任。さらに1965年からソ連国立交響楽団(現ロシア国立交響楽団)首席指揮者に就任した。スヴェトラーノフは、ラフマニノフの交響曲を全てを録音しており、第2番を録音したときにはまだ30代後半の若さにあった。もともとスヴェトラーノフは、ラフマニノフの演奏にかけては定評があった指揮者。それは、ラフマニノフの作品に対する強い共感と、深い洞察力に根差したものであったからである。このLPレコードでのスヴェトラーノフの指揮ぶりは、ロシアの魂が宿ったような、情感あふれる演奏を展開し、他の指揮者を寄せ付けないような集中力の凄さにただただ聴き惚れる。決して表面的な演奏をするのではなく、内面に向かって深淵な世界を構築するような指揮ぶりだ。ロシアの高原にただ一人たたずむラフマニノフの姿が目の前に現れるような演奏内容だ。ボリショイ劇場管弦楽団は、重厚な響きを聴かせるので、余計に深みのある演奏内容となっている。これこそが本場のラフマニノフ:交響曲第2番である、といった説得力のある演奏内容である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウのブルックナー:交響曲第8番

2020-11-26 09:39:26 | 交響曲

ブルックナー:交響曲第8番

指揮:エドゥアルト・ファン・ベイヌム

管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

録音:1955年6月6日―9日、アムステルダム・コンセルトヘボウ

発売:1976年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード)  PC‐1593

 このLPレコードは、エドゥアルト・ファン・ベイヌム(1901年―1959年)が手兵のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してブルックナー:交響曲第8番を収録たもの。ベイヌムは、オランダ東部の町アルンヘムで生まれ、アムステルダム音楽院で学び、1927年にプロの指揮者としてデビューを果たした。その後、ウィレム・メンゲルベルクの招きでアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の次席指揮者となり、さらには、1938年からメンゲルベルクとともに首席指揮者に就任した。第二次世界大戦後の1945年、メンゲルベルクがナチスへ協力したことでスイスに追放されたため、ベイヌムはメンゲルベルクの後をついで、同楽団の音楽監督兼終身指揮者に就任した。その後、ロンドン・フィルの首席指揮者、ロサンゼルス・フィルの終身指揮者にも就いた。しかし、1959年の4月13日に、アムステルダムでブラームスの交響曲第1番のリハーサル中に心臓発作を起こし、57歳で急逝した。ベイヌムの功績は、メンゲルベルク時代の古い演奏法を一新し、現代的な演奏法をアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団に植え付けたことにある。アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、現在世界の三大オーケストラの一つに数えられているが、その成り立ちはアムステルダム市民の手づくりオーケストラが出発点となっていた。ベイヌムが残した、このブルックナー:交響曲第8番は、超ど級と言ってもいいほど内容の充実した演奏内容となっている。ブルックナーの交響曲第8番は、ベートーヴェンの交響曲第9番に匹敵するような偉大な交響曲であるが、ここでのベイヌムの指揮ぶりは、雄大で地の底から吹き上げるような力強さに満ち溢れたものに仕上がっている。それに加え、大時代がかったところは微塵もなく、すこぶる現代的で、全体はすっきりとまとまっている。そして、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の団員一人一人の演奏能力の高さにも目を見張らされる。すべての音楽が自然の摂理の中で息づいている。分厚い響きの弦楽器群と雄大な響きの管楽器群、いずれもこれ以上は考えられないと言っていいほどブルックナーの世界を十全に表現し尽す。こんな完璧な録音が現在、忘れ去られようとしていること自体、残念至極としか言いようがない。モノラルで録音は古いが鑑賞には支障はない(CDでも発売されている)。正に「ベイヌム盤を聴かずして、ブルックナーの交響曲第8番を語るなかれ」である。(LPC)

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